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冒険者ギルド

 

「俺たちだけか」

「たぶんだけど、辛家君と七海ちゃん、前衛キャラだったよね」

「…ならバルディアだな」


 『アルタートゥームの幻想竜』では、選んだクラスによりスタート地点が異なる。


 前衛系なら「バルディア騎士団領」

 後衛系なら「魔法王国リンドバウム」

 

 初期フィールドの敵の構成と街の施設が異なるぐらいで、それほど差異はない。

 フィールドを挟んではいるものの隣国なので、徒歩で行く以外に飛空艇や転移魔法、移動アイテムなど方法は様々だ。

 チュートリアルで発生する隣国に行くおつかいクエストを利用すれば費用もかからないので、前衛と後衛のプレイヤー同士が序盤からパーティを組む分には問題はない。


 暗黒竜騎士は前衛だけど、バランスとか、双子だからかな。

 と、無理やり納得する二人だった。




 


「ボウズども、冒険者ギルドに何か用か?」



 いきなり声をかけられ、文字通りアキとハルは飛び上がった。


 相手は浅黒い肌に短いオレンジ色の髪という派手な色合いをした壮年の男で、ギルドの入り口からこちらを見ていた。


 一瞬、誰? と思った二人だが、すぐ思い出す。

 ギルドにいるNPCキャラクターの一人で、名はオウレン。

 新人相手に色々とレクチャーをしてくれる元ベテラン冒険者、という役どころだ。

 


 気圧されるほどではないが、元36才長身男性としては子供みたいにビクついたのが悔しいアキだった。


「ガキ扱いするなっ」

「もうアキったら、あきらめなよ」


 アキを肘でつつくと、ハルは男に笑顔で向き直った。


「驚いただけですから、気を悪くしたらすみません」

「かまわねぇよ。で、入るのか、入らないのか?」

「あ、入ります! ほら、アキ行くよっ。失礼します!」

「…失礼します」


 つい社会人のクセで礼が出る二人を、男は気味悪げに見ていた。


「そうだった、僕たち今13才」

「13でもこれぐらい言うだろ普通?」

「うーん、例えば田舎出身で、学校も満足に行ってない13才だったら異常かも」

「なんだ、その設定」

「だって僕らの見てくれが、いかにもそうだろ? 田舎で食い詰めた農家の子が職を求めて上京、みたいな」

 

 二人が着ているのは簡素で灰色っぽいゴワゴワした布製の貫頭衣にズボン、サンダル。

 いかにもな農民ルックだ。

 プレイヤー初期装備「布製の服」「布製のズボン」「革のサンダル」はもうちょっとマシなデザインだったので、おそらく防具としてはまったく役に立たないだろう。


「最下層スタート過ぎるだろ…」

「いろいろ考えるのは後にしてさ、とにかくギルド登録しようよ。

 ……ステータス見れるし」


 二人は重い足取りでギルドカウンターに向かった。


 デバック時に何度も足を運んでいたので見慣れた冒険者ギルドは、さほど広くない。

 正面に3席ほどの登録および依頼受注用、右に買取り用、左に販売用と3つのカウンターが、あとは入り口側の壁に依頼書が貼られたボードがあるだけだ。

 いわゆる冒険者たちがたむろする場所は、併設された「冒険者の酒場」と決まっている。

 今日は買取りなど行なっている冒険者は誰もいないようで、ギルド内は彼らだけだった。


 『アルタートゥームの幻想竜』において、レベルとは「冒険者レベル」のことをさす。

 冒険者ギルドに登録すると、レベル1からのスタートとなる。ステータスなどを確認できる冒険者カードがもらえ、経験値が入るようになる。

 逆に登録しないままだと、たとえ戦闘しても経験値は入らず、レベルも上がらない。

 つまりは、町中の一般人NPCにはレベルがなく、成長もしないのだ。

 ゲームにおいては、新規ログイン時のキャラメイクがこれにあたり、自動でチュートリアルに進む仕様になっている。


 そういうワケで、二人はカウンターに着いたものの、困惑していた。


「登録って何するのかな?」

「用紙に記入するのがセオリーだろ? そのへんにないか?」

「まず、この俺に聞こうや、ボウズども」


(!?)


「……なんでカウンター内にいるの、オウレンさん?」

「ギルド受付嬢はミレイのはずだ!」

「? 前に会ってたか? ミレイは育児休暇中なので俺が代わりに入ってるんだ。一応これでもギルド職員だぞ」


 ポカン、と口をあけている双子を見て、オウレンは眉を寄せる。

 今の会話のどこに驚くポイントがあったのか、わからないのだ。


 もちろん、双子は24時間常勤NPCキャラクターだった人物たちが、ここでは人間なのだから休んで当たり前だし、別のキャラクターがそのフォローをする、その事に動揺していたのだ。

 眼鏡美人のミレイ女史の不在理由に一番動揺してたなんて、ないったらない。

 子持ちか。相手だれだ。

 オウレンが職員というのも初耳だが、言われてみれば納得だ。ただのリタイアが我が物顔で居座っていられる訳がない。


「フー、気を取り直して。僕と弟の冒険者登録をお願いします」

「妙なボウズどもだな。まぁいい。

 一応確認だが、12才以下は冒険者になれないぞ。冒険者ギルドは依頼の仲介はするが、その遂行中にトラブルに見舞われても、すべて冒険者の自己責任だ。

 それと登録料など一切金はもらわん代わりに、仲介手数料を抜くことになっている。もし依頼が達成できない時は賠償金が発生するぞ。

 ギルドを通さない依頼を受けてもいいが、ギルドを通すと依頼料はギルド預かりになるから安心だと覚えておけ」

 

 お約束の口上の後オウレンが取り出したのは、正方形の色紙サイズで銀色の金属プレートだった。

 2枚あり、それぞれを双子の前に置く。


「これに右の手のひらをあてろ。指も伸ばせ。ぴったりと付くようにしろよ」

「これは?」

「冒険者ギルドは、いわば至高神との窓口だ。信仰を捧げる神殿とは違い、神と契約を結ぶことで加護を賜る。加護は世界への貢献度でその威力を増し、契約を破棄することで失われる。この銀盤は神との契約書みたいなもんだ。

 ……知らなかったのか?」


 またもやポカン、と口をあけている双子を見て、オウレンは嘆息した。


「今どき子供でも知ってると思っていたが…お前たち、どんだけ田舎から来たんだ」


(そんな設定、ゲームの時はなかった!)


「冒険者ギルドって、神様が作ったの?!」

「いいや、至高神と最初に契約を結んだ者が始めたんだ。くわしいことは俺も知らん。それよりほれ、早くしろ」

「あ、はい」


 戸惑いつつも、二人は銀盤に手を当てた。

 すぐにボォ、と薄い光があらわれ、まるで何かを読み取るかのように瞬いた。なんとなく元の世界の静脈認証の装置を思いだす。


 脳裡に直接、無音の問いかけがあった。

 ”名を述べよ”

 ”アキ”

 ”ハル”


「よしいいぞ、そのまま動くな」

「えっ!?」

「うおっ!?」


 ぐにゃり、と手のひらが銀盤に沈んだ。

 驚いて引きぬくより早く、水銀のような流動体が手を覆う。


「じっとしてろ。すぐ終わる」

 

 その言葉通り、銀色の流動体はあっという間に手の甲に集まり、5センチくらいの縦に長い小さなプレートのようになり、甲の皮膚にめり込んだ。痛みも、感触もない。

 最後にピカリ、と瞬いた。


「終わったぞ。もう触っても大丈夫だ」

「なんだこれ……手に埋まってる」

「ファンタジーというよりSFだね……」


 不思議そうに手の甲をかざし、眺める二人。


「それがギルドカードだ。切り落とされたり、えぐり取られたら契約は破棄され中の情報は失われるから用心しろ。それ以外は叩こうが引っ掻こうが傷ひとつつかん。錆びないし変色もしないので手入れは不要だ。

 指で触れれば貢献度についてなど必要な情報が読み取れる。他人には見えないし、開示もできん。

 例外として、ここギルドにあるこの鏡」


 そういってオウランは、カウンターに埋め込まれているB5ノートほどの大きさの、鏡を指さした。


「こいつにギルドカードをかざすと、カードの情報の一部が表示される。それを元に本人確認をして、依頼などの達成度合いもこれでわかる仕組みだ。

 試しにやってみろ。ああ、手はどっちを向けていてもかまわねぇ」


 うながされ、二人揃ってが手をかざす。

 鏡はパッと真っ黒になり、そこの白い文字らしきものが数行、映しだされた。

 オウランがさっそく読み上げる。


「名前はハルとアキか。年齢は13、種族はハイ・ヒューマン、と。…ほぉ、ハイ・ヒューマンは魔力が多いから将来名のある魔導師になれるかもしれんぞ。よかったな」

「め、珍しいの、ハイ・ヒューマンって?」

「そうだなぁ、この国では比較的多いな。なんたってここは魔法王国だしよ!」


 何が面白いのか、ガハハ!と笑う。

 ただなぁ、とオウレン。


「身体的能力が上がりづらいから、割りと死にやすい」


(聞くんじゃなかった……)


「あ、そうそう忘れてた。

 魔物を倒した時にでる素材はともかく、『魔玉』の売買はウチだけだ。真似してるヤツは時々いるが、キチンと処理できずにまた魔物を発生させるんで、ウチ以外で魔玉の売買した奴は問答無用で契約無効処分になるからな」

「魔玉?」


 それに答えず、オウレンは双子の襟首をひょいっと掴むと、出入口に向かった。


「新人に冒険者として必要な心得を教える集会を3日おきにやってる。知りたいことはそこで聞け。俺の今日の勤務時間はもう終わりなんでね。

 …明日の朝だ。じゃあな!」


 猫か何かのように、ポイッと放り出された双子が振り向くと、ドアが勢い良く閉まったところだった。




 双子の理不尽すぎる一日は、まだ終らない。



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