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承・・・お告げ

その後、メーランは一人虚構とは何かと思索しながら大学構内を歩き回っていた。周囲の生徒はメーランのくしゃくしゃ頭を見て、ある者はひそひそと話し、ある者は指差してくすくす笑い、ある者は目を背けていた。彼が神経質な変わり者だったからである。見た目も少々異様で、前述したように乱れきった髪の毛に、痩せ細った顔形、目は張りつめたように大きく、顔色は悪く、体も針のように細いが、肩幅だけはやや広かった。おまけに服装も黒づくめ。そのマッド・サイエンティストのごときの風貌に皆不気味がっていたのである。その上彼は、細かい事にうるさく、それで嫌っている人すらいた。




さて彼は歩きながらふと、合唱の歌声に気づいた。神殿からだ。古代の聖歌を歌っていた。単旋律で荘厳であった。あの神殿で祀ってる神が何か、メーランにははっきり分からなかった。そのため神殿で見かける白服のスーツの集団を不気味に感じた。あれは神殿の聖職者で、通称「運命の使者」と呼ばれていた。いったい何をする集団なのかは分からない。何故ならメーランはまだ神殿に入る事を許されなかったからだ。


虚構の思索が堂々巡りした。実体が掴めなくなったからだ。彼はその時いつも、あるバーに寄る。そこは安くて狭いが、ステージがあって、そこでいつも何かしらの音楽が奏される。それが楽しかったのだ。

今日も、純白のドレスを着た若い女性の歌手が、ギターのボサノヴァの伴奏に合わせてそのリズムに乗りながら歌った。


*


♪白いわたしと 黒いあなた

二人で 灰色の幸せ


灰色 それは 砂の粒

砂は海に 運ばれ


Ah!世界を旅する わたしたち

昨日も今日も 青のバカンス

Ah!でもそれで いいのかしら

灰色の幸せが 懐かしくて


白いわたしと 黒いあなた

砂より 運ばれない岩になろう


わたしとあなた ここで作りましょ


灰色の幸せ


*



拍手が鳴り響き、白ドレスの歌手は一礼した。メーランは何となく気が晴れた。そしてバーに出た時「♪灰色の幸せ~」と歌いながら家へと帰りついた。


家も灰色である。鮮やかな色彩はこの街では相応しくないと考えられていた。メーランはいつも電気を点けていなかった。夜の暗闇が好きだったからだ。月明かりの眩しさが好きだったからだ。彼は窓のすぐ近くのベッドに仰向けになって、月を見るのが好きであった。月はアスファルトだらけの街と街を覆う壁を冷たく照らし出していた。そう。街には壁が厚く覆っていたのである。街境に当たる部分に200mもの鉄壁がそびえ立っていた。どこにも出る道は無い。したがって街から出ることは出来ない。バーの歌はその意味も多少ながら含んでいるのかな、とメーランは思った。





次の週も神殿でジャヌーイ教授が講義をしていた。


「前回のおさらいをしよう。前回は虚構における視点と現実における視点の違いを述べた。殺人事件を例に出したのかな?人は現実においては殺人を目撃するのを嫌がるが、虚構においては逆に殺人を潜在的に見たがっている。その理由は虚構という作られた別世界に置いては、人間は全知全能の“神”の目を持つからだ。そして虚構は、登場人物という精神存在の“神”が織り成す神話である。儀式である。ここまで言ったかな。」


ジャヌーイ教授は講義机のコップをとって、中の水を一口飲んだ。


「では、この現実はどうなるのか、という話になる。もしかしたらこの現実も、何者かが作り、何者かがそれを観賞してるのかもしれぬ。だとしたら恐ろしいわな。君達の一挙一足、勉強や会話やトイレや風呂や娯楽や人間関係や隠れた趣味や悪行、全て“神”達に観察されているのだ。君達が物語を読むように。」


何人かが悲鳴を上げた。


「だからこれから起きる殺人事件すら、創造主のご計画であり、別の神にとっては一つの興味の対象だ。」


これから、という微妙な表現に生徒らは皆不審に思ったが、あまりに過激な意見にメーランは逆上して叫んだ。


「教授は神を馬鹿にしています!」


だがジャヌーイ教授はニヤリと笑って答えた。


「おっと…来ましたな…私は馬鹿にはしていません。むしろ一人の人が死ぬと言う一大事に全く興味を示さないのは異常です。興味て言い方が悪いのですな。」

「教授はまるで神を知っているような口ぶりで話されますな。ひょっとして、神を知ってるのでしょうか?ひょっとして・・・・『運命の使者』?」


生徒らは息を呑んだ。街において、神殿に関わる事を口にするのはタブーだったからだ。ジャヌーイ教授も、顔は笑っていたが、声は冷たい怒りに満ちていた。


「メーラン君。君は言ってはいけないことを口にしたようだね。まあいい。君の運命はどうせ決まっている。そうだ。君の言うとおりだ・・・灰色の創造主から我々にお告げが来たのだ。お前はじきに、殺されて、死ぬとな。」


教授の背後から、突然白いスーツの「運命の使者」達が現れた。生徒が次々と悲鳴を上げ、逃げようと勉強道具を片付け始めた。教授が言う。


「いや、諸君は、大丈夫だ。目標はただ一つ。メーラン・モーテへの預言の成就だ。」


「運命の使者」たちはじりじりとメーランに迫ってくる。メーランは後ずさりしながら叫んだ。


「なぜだ!なぜ僕は死ななければいけないんだ!教授は、先週も、現実の死がとんでもないことだ、虚構でなければ許されない悪だと仰っていたじゃないですか!」

「そのとおりだ、メーラン・モーテ。だが、君は気づくべきだった。現実は虚構でもあるのだ。従って、ここは儀式だ。我々は君を殺し、君は殺される。そういう儀式だ。我々は人のためにあらず、神のために行動している。そうだ。君には殺されるという役割を与えられた一つの精神的存在の“神”なのだ。その使命に感謝して死に給え。」

「いやだ!」

「君はこの神聖な使命から逃げるというのか?君は殺されて死ぬために産まれてきた。死とはあらゆる意味で神聖だ。君はその祝福、その使命運命、その役割を与えられていながら、逃げるというのか?そうだ。逃げるというのか?」

「死ぬよりはマシだ!」


メーランは講堂の神殿を抜け出した。白スーツの「使者」たちも後を追って、次々と講堂を駆け抜けて、メーランを殺そうと追いかけた。

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