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ひよごサブレからの通信  作者: Kentarou Tou / Kentarou Theater


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4/10

第四話「火は今でも燃えています」


---


三枚目は、二人が博多の話をした翌日に届いた。


今度も宅配便だった。差出人「H」、博多の住所。


箱の中のひよごサブレは十二枚。


底のメモを、ハルはすぐに取り出した。


几帳面な字で、一行。


『火は今でも燃えています』


---


ハルはメモをしばらく見ていた。


それからミナに見せた。


ミナはメモを受け取った。読んだ。


「火」と言った。


「常火のことだと思う」とハルは言った。


「私もそう思った。でも、確かめる方法がない」


「確かめなくていい気がする」とハルは言った。「火が燃えている、という事実を伝えてきている。それが常火だろうとなかろうと、火が燃えているということは同じだ」


ミナはメモを裏返した。今回も裏は白紙だった。


「今でも燃えている、という言い方が引っかかる」とミナは言った。


「何が引っかかる?」


「今でも、というのは、ずっと燃え続けているということだ。消えたことがない、ということだ」


「常火、というのはそういう意味だと思う」とハルは言った。「常に燃えている火」


「そう」とミナは言った。「でも、なぜ今それを伝えてくるのか」


「俺たちが知る必要があるから、だと思う」


「なぜ知る必要があるのか」


ハルは少し考えた。


「火が消えていないということを」とハルは言った。「俺たちに安心させたいのかもしれない」


「安心」


「うん。川があった。火があった。それは今でも続いている。そういうことを、伝えたいのかもしれない」


ミナはメモを置いた。


「それが安心につながるのは」とミナは言った。「私たちが川も火も知っていて、失われてしまったと思っているからだ」


「失われてしまったと思っている」


「思っているかもしれない。意識しないだけで」とミナは言った。「前の巡りで何かを失った。そのことを、深いところで知っている。だから、今でも燃えています、という言葉が——」


「安心する」とハルは言った。


二人はテーブルを挟んで、メモを見ていた。


几帳面な字が、静かにそこにあった。


火は今でも燃えています。


「ミナ」とハルは言った。


「何」


「俺たちは何かを失ったと思うか」


ミナはしばらく黙っていた。


「思う」とやがて言った。「何を失ったかは分からない。でも、何か大切なものが、どこかに行ってしまった感覚が、ずっとある」


「ずっと、というのはいつから」


「物心ついた頃から」とミナは言った。「何かが足りない感じがずっとある。欠けているわけじゃない。足りているのに、足りない感じがある」


「俺も」とハルは言った。「ずっとそれがあった。何かを探しているような感じが。何を探しているのか分からないまま」


「ひよごサブレが来てから」とミナは言った。「その感じが、少し変わった」


「どう変わった」


「探しているものが、どこかにある気がするようになった」とミナは言った。「遠いけれど、消えていない。ちゃんとある」


ハルはその言葉を聞いて、胸の中で何かが動くのを感じた。


火は今でも燃えています。


ちゃんとある、ということだ。


---


その夜、二人は珍しく、火の話をした。


「夢の中の火は」とハルは言った。「どんな火だった」


「橙と金が混ざっていた」とミナは言った。「揺れていたけど、消えそうではなかった。安定していた」


「熱かった?」


「熱くなかった」とミナは言った。「近くに立っていても、熱を感じなかった。ただ、光だけがあった」


「光だけ」


「そう。熱のない、光だけの火だった」


ハルは天井を見た。


「俺の夢の火も同じだった」とハルは言った。「熱がなかった。光だけがあった。その前に立つと——」


「立つと?」


「悲しかった」とハルは言った。「悲しい、というのも正確じゃないけど。何か古い、たくさん積み重なったものに触れるような感覚があった」


「積み重なったもの」


「うん。長い時間がかかって積み重なったものに触れているような。自分だけのものじゃない、たくさんの人間の時間が積み重なったものに」


ミナは起き上がった。ノートを手元に引き寄せた。


「書いていい?」と言った。


「書いていい」とハルは言った。


ミナは几帳面な字で書き始めた。


ハルが語る夢の火を、ミナが記録する。


しばらく、そういう時間が続いた。


「ミナの夢の火は」とハルは言った。「何かそういう感覚はあった?」


「あった」とミナは書きながら言った。「あなたが言った、古い積み重なりに触れる感覚。私も同じものを感じた。ただ私の場合は、悲しさより——」


「より?」


「温かさの方が大きかった」とミナは言った。「積み重なったものが、温かかった。たくさんの人間の時間が積み重なっているのに、冷たくなっていなかった。ちゃんと温かかった」


「火だから?」


「火だからかもしれない。あるいは——」ミナは筆を止めた。「あるいは、積み重なったものの中に、私が知っているものがあったからかもしれない」


「私が知っているもの」


「誰かのことを」とミナは言った。「火の中に、誰かのことを思った。その人が温かかった」


ハルはミナを見た。


「誰?」


「顔が見えなかった」とミナは言った。「でも、知っている人だった」


二人はしばらく黙っていた。


「Hに返事を書こうと思う」とミナは言った。


「何て書く?」


「火のことを書く。夢で見た火のことを。熱のない、光だけの火のことを。そしてそれが今でも燃えていることを、あなたのメモで知って、安心したということを」


「安心したと書くのか」


「書く」とミナは言った。「正直に書く。ひよごサブレを送ってくる人に、嘘を書いても仕方がない気がするから」


「正直に書く」


「そう」


ミナは便箋を取り出した。


几帳面な字で、書き始めた。


書きながら言った。「ハル、一つ聞いていいですか」


「何」


「川の夢と火の夢、どちらが先に見た?」


ハルは思い返した。


「川が先だった気がする」とハルは言った。「川の夢を最初に見て、それから火の夢を見た」


「私も同じだ」とミナは言った。「川から始まって、火に近づいていった。夢の中で、川から歩いて、火のある場所まで行ったような感覚がある」


「川から火まで、歩いていったのか」


「歩いていった」とミナは言った。「長い距離じゃなかった。川から少し行った場所に、火があった」


「社殿」という言葉が、ハルの頭に浮かんだ。


どこから来た言葉か分からなかった。しかし浮かんだ。


「社殿」とハルは声に出した。


ミナの手が止まった。


「今、何て言った?」とミナは言った。


「社殿」とハルは言った。「川から少し行った場所に、社殿があって、その中に火があった、という気がした」


ミナはしばらく、ハルを見ていた。


「社殿」とミナは繰り返した。「そう、そういう感じがする。川と火の間に、社殿があった」


「夢の中に?」


「夢の中に」とミナは言った。「言葉にしたことがなかったけれど、そういう感じがあった」


二人はしばらく、互いを見ていた。


「同じ夢を見ていたのかもしれない」とハルは言った。


「かもしれない」とミナは言った。「あるいは——同じ記憶を持っているのかもしれない」


「記憶」


「夢という形をした、記憶」とミナは言った。「前の巡りの、記憶」


ハルはテーブルの50円玉を見た。


穴を通して、向こう側を見た。


今夜は暗かった。穴の向こうには、ただテーブルの暗い木目が見えた。


しかし、その暗さの中に、かすかに温かい何かがある気がした。


「火は今でも燃えている」とハルは言った。


「燃えている」とミナは言った。確信を持った声で。


ミナは便箋に向かい直した。


几帳面な字で、続きを書いた。


火の夢のことを。社殿のことを。川から火まで歩いていった夢のことを。


そして最後に書いた。


『あなたのメモで、安心しました。ありがとうございます。』


---


封筒を閉じた後、ミナは言った。


「ひよごサブレ、食べてから寝よう」


「食べる」とハルは言った。


二人は箱を開けた。


一枚ずつ取った。


かじった。


さくさくと。


甘かった。


窓の外は夜だった。どこかで風が吹いていた。


「Hは」とハルは言った。「何者なんだろう」


「まだ分からない」とミナは言った。「でも、悪いものじゃない」


「なぜ分かる」


「ひよごサブレが美味しいから」とミナは言った。


ハルは笑った。


「それは確かに」と言った。


ひよごサブレは、今日も美味しかった。


---


(第四話 了)


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