コミックス1巻発売感謝SS 雪蘭の楽しみ
「一石二寵」コミックス①巻発売!
感謝を込めてリクエストのあったSSを投稿します。
明日も投稿予定です。
「自慢じゃないけど、私って可愛いですよね」
白雪蘭は大真面目にそう呟くと、手鏡をじっと覗き込む。
艶やかな黒髪に、宝石のように輝く瞳。
更に顔立ちは可愛らしく、身分もよろしく、およそ欠けているものはないという素晴らしい美少女だ。
四大貴族のひとつ、白家の姫として後宮入りし、末は皇后になると信じて疑わなかったのに。
「でも、麗珠お姉様が相手じゃ……」
朱麗珠は四大貴族朱家の姫であり、その立場は雪蘭と同格だ。
しかし麗珠は正妻の子ではないらしいので、雪蘭の方が有利だと思う。
だが、どれだけ雪蘭が可愛くても、どうにもならないことが世の中にはあるのだ。
「あの良い香りには、勝てません……!」
何がどうなっているのか、因果関係はまったくわからない。
だが麗珠は時々、とてつもなく良い香りを放つのだ。
甘く、とろけるようで、もう何もかもを投げ捨ててもいいとさえ思えるほど。
香りや気配を嗅ぎ分けられる寵、『聞香』を持つ雪蘭にとって、麗珠の香りはすべてに勝る存在だった。
こうなるともはや妃の位や皇后の座もどうでもよく、むしろ麗珠こそが相応しいとさえ思う。
あんなに皇后になると固く誓っていたのに、人の気持ちは意外と簡単に覆るものだ。
自分でも感心するが、あの香りの前ではすべてが些事でしかない。
ほう、とため息をつくと雪蘭は手鏡を机に置き、代わりに手巾を手に取った。
この手巾は麗珠がくれたもので、それはもうとんでもなくいい香りがしていた。
流石に時間の経過で香りは弱まってきたとはいえ、雪蘭にとってはどんな宝飾品よりも価値のある素晴らしいものである。
「すううう、ぷはああああ! ……ああ、もう、たまりません!」
およそ姫君らしからぬ雄々しい深呼吸と共に、雪蘭の叫びが室内に響く。
女官は下げているので一人きりとはいえ、以前の雪蘭からすればあり得ない振る舞いだ。
その変貌ぶりに女官の一部が「朱家の姫が毒を盛ったのでは」と囁いているが、ある意味では正解かもしれない。
「お姉様のこの香りのためなら、何でもできる気がします。きっとああいう人のことを「傾国」と言うのでしょうね」
いとも容易く相手を屈服させ、さらにそれが幸せだとすら感じてしまう。
単純な容姿だけでは到底成し得ない魅力。
やはり皇后の座は麗珠にこそ相応しい。
「私は妃の位を賜らなくてもいいけど……今後もこの香りを得るためには、後宮に残ることが必須なのですよね」
後宮入りした姫は、十年間皇帝の手がつかなければ家に戻されるしきたりだ。
実際に現皇帝の即位から十年が過ぎ、四大貴族の姫達はすべてが入れ替わっている。
「妃になるのは構いませんが、お姉様と敵対するのだけは絶対に嫌です。……いっそ、皇后になったお姉様に仕えるというのもありでしょうか!?」
脳内では早速、優雅に椅子に寝転ぶ麗珠のそばに立った雪蘭が大きな団扇で風を送り始めた。
「お姉様の髪を梳いて装飾品を選ぶなんて、絶対に楽しいでしょうね。それで、「日頃の働きに感謝します」とか言われて、良い香りの手巾を賜ったりして……!?」
自分の放った言葉に、雪蘭の興奮がどんどん激しくなっていく。
「お姉様と良い香りに包まれた生活……女官になるのも悪くありませんね!」
興奮冷めやらぬまま女官達に壮大な夢を打ち明け、熱く語った翌日。
白宮の女官の中で、「雪蘭は朱家の姫に呪われた」という新たな噂が広がった。
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