コミックス1巻発売感謝SS 静芳は覚悟する
本日「一石二寵」コミックス①巻発売!
感謝を込めてリクエストのあったSSを投稿します。
明日も投稿予定です。
「麗珠様が妃に……」
周静芳はその知らせに、ごくりと唾を飲み込んだ。
静芳が後宮に来たのはもう十年以上も前のこと。
麗珠の姉姫に仕えるために後宮入りした時には、ただただ晴れがましい思いでいっぱいだった。
四大貴族のひとつ、朱家の姫。
数多の後宮の女性とは一線を画す身分であり、家名を冠した宮を最初から賜っている。
歴代の皇后はほとんどが四家の姫から選ばれているというし、姉姫もきっと選ばれるに違いない。
そうなれば静芳は未来の国母に仕えることになる。
これが誉でなくてなんだろう。
もちろん他の四家の姫もいるので一筋縄ではいかないが、努力のし甲斐があるというのもだ。
そうして逸る気持ちを押さえながら後宮入りした静芳が見たのは、残酷な現実だった。
皇帝が、姫を召さないのだ。
それは姉姫だけでなく、四家の姫もまた同じ。
更に本来ならば他の貴族の娘もずらりと居並ぶはずの後宮に、四家の姫以外はいないと知った。
しかもその状態が皇帝の即位から十年も続いたのである。
もちろん、静芳をはじめとした女官や姫達も手をこまねいていたわけではない。
贈り物や手紙などはもちろん、公式行事の際には姫を眩いばかりに飾り立ててその美を競った。
互いに疑心暗鬼になってあれやこれや……ちょっと麗珠には言えないような争いを経て、十年。
当初から後宮にいた姫が代替わりで入れ替わると共に、次第に女官達の確執も落ち着いていく。
だって、何をどうしても皇帝が姫を召すことはないから。
男色なのか病気なのかと色々憶測は飛び交ったが、どうあがいても皇帝が動かなければ手の打ちようがない。
ぬるま湯に沈められたような鬱屈した生活の中、ついに姉姫も実家に戻されることになり、やってきたのが麗珠なのである。
「まさか、あの陛下が姫をお召しになるとは。しかも四家の姫の誰よりも先に妃に……!」
夢のような事態に、胸の奥が熱くなっていく。
だが、四家の姫はいずれ劣らぬ美姫ばかり。
油断していたら、あっという間に寵を失ってしまうかもしれない。
「麗珠様はもとはいいですから。陛下の寵を一身に受けられるよう、磨くのが我々の務め。髪に艶を出すための香油は三種類手配しましたし、爪を磨くやすりも新調しなくては。お衣装は陛下にいただいたものと色がかぶらないように新たに仕立てて……」
やるべきこと、やりたいことが溢れて止まらない。
朱宮の廊下を進みながら、脳内で必要物品や懸念事項を洗い出していく。
「……そういえば、麗珠様はどちらに?」
確か朝食の後に宮廷作法の本を読むようにと渡したはずだが、どの部屋にも姿が見えない。
サボっているのならちょっとお小言を言わなければ。
何せ麗珠が競う相手は麗しき四家の姫君。
ただでさえ基本的な作法や歴史などの勉学では後れを取っているのだから、手を抜くわけにはいかない。
静芳が仕える姫を、美しく気高く聡明な、誰もが認める皇后にするのだ。
熱い決意を胸に掲げた瞬間、朱宮の廊下を軽快な足音が近付いてきた。
「静芳、やったわ! 雉を仕留めたわよ!」
満面の笑みの麗珠が手にしているのは、赤い顔に鮮やかな青緑の羽根の鳥だ。
裾をたくし上げて結び、結構な大きさの雉を軽々と片手でぶら下げて近付いてくる様は、もはやただの狩人。
……この人を、誰もが認める皇后に……。
ほんの少し眩暈がしたが、今更逃げ出すことはできない。
静芳はため息と共に覚悟を決めると、麗珠の手から生地を取り上げた。
「お渡しした本の内容をすべて覚えたから狩りに出ていたのですね。大変結構です。それでは、おさらいいたしましょう。一問でも間違えたら……わかっていますね?」
変な呻き声を放つ麗珠に、静芳はにこりと笑みを返した。
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