コミックス1巻発売感謝SS 浩俊の目覚め
「一石二寵」コミックス①巻発売!
感謝を込めてリクエストのあったSSを投稿します。
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「皆、龍蛍ばかり構って。私だって皇子なのに」
桃浩俊はそう言うと、庭の小石を蹴り飛ばした。
小石は放物線を描いて池にぽちゃりと落ち、魚達が慌てて逃げ出していく。
その様は周囲から人が離れていく浩俊とよく似ていた。
浩俊と龍蛍は共に皇帝の息子であり、本来ならばもう少し丁寧に扱われてもいいと思う。
双子とはいえ長子である龍蛍が次期皇帝扱いされるのは、まあわかる。
若干モヤモヤしないでもないが、別に帝位に興味はないので問題はない。
だが、龍蛍の周りに人が集まるのはそういう理由ではないのだ。
「キャー、若様!」
女官の歓声が聞こえた方に目を向ければ、池の向こう側に龍蛍が立っていた。
女官の背丈の半分ほどのその姿は、誰がどう見ても五歳程度の男の子。
手にした何かを女官に見せて話をしているようだが、それだけであそこまでキャーキャー言われるのは龍蛍がただの子供ではないからだ。
浩俊と龍蛍は双子。
今年十歳になる浩俊との体格の差は、もはや兄と弟が完全に逆転していた。
龍蛍は本来十歳のはずなのに幼子の風貌なのは、彼が持っている『桃の寵』のせいだ。
皇帝の血筋に現れるという桃斑という痣を持つ者は、長命だったり何だかんだと素晴らしく尊いものらしい。
だが、その代償として五歳程度で体の成長が止まってしまうという。
おとぎ話の類だろうと聞き流していたのだが、現在の体格差を見る限り本当のことだったようだ。
「龍蛍は、暁妃に出会わないと子供のままなのですね」
桃斑を持つ者は、暁妃と呼ばれる存在に光を与えられないと体が成長しない。
端的に言えば、おしりが光らないと子供のままなのだ。
「……でも、影官にはなりたくないです」
皇帝が子供姿であると明かすわけにもいかず、また危険であるために、代理として表に出るのが影官だ。
浩俊が影官になれば、慣例に従って桃姓を捨てて葉姓を名乗ることになる。
だがそれは、ただ帝位の権利を失うという意味だけではないのだ。
官が皇帝を弑してそのまま帝位を奪うことのないように、呪いとも言える制約を課せられる。
もしも龍蛍を裏切って殺そうとしようものなら、その前に浩俊が命を落とすことになるだろう。
皇家の姓を外され、帝位から遠ざけられ、代理の役目を終えた後は補佐官として忙しく、その忠誠を疑われれば命を落としかねない。
正直、利点はほぼないのに制約ばかりなのだから、嫌なのも当然だろう。
容姿が似ている上に血筋も正しく、皇家の外に秘密が漏れる心配もないので、もはや影官は浩俊一択という雰囲気。
他の候補者を探す素振りさえ見せないのだから、いっそ清々しい。
蔑ろにされ続けて腹立たしいが、きっとこのままではこの重い役目を押しつけられてしまうのだろう。
「ああ、嫌ですね。いっそ家出でもしてやりましょうか」
十歳の箱入り皇子が外界で生きていけると思うほど愚かではないのが、残念だ。
「浩俊!」
高く響く声と共に、小さな龍蛍が駆け寄ってくる。
誰がどう見ても幼子だし、この容姿のおかげで女官達はこぞって龍蛍を可愛がっているので、最近はちょっと忌々しくさえあるのは内緒だ。
「何ですか」
だいぶ冷たい声だった自覚はあるが、靄の晴れないこちらの心中も少しは察してほしい。
だが龍蛍はそれに気付いているのかいないのか、視線をキョロキョロ戸惑わせて口ごもっている。
「用がないなら、行きますので」
別に龍蛍が悪いわけではないが、一緒にいるとどす黒い感情が湧いてしまいそうで嫌だ。
さっさと離れようと背を向けると、袖を引かれて反射的に振り向いた。
「これ……」
浩俊の袖を離した龍蛍が差し出した手のひらには、饅頭がのっていた。
「これ、浩俊にやる。俺は、兄だからな」
少し照れた様子で視線を彷徨わせた後、意を決したようにそう宣言する龍蛍の翡翠の瞳がきらりときらめく。
羞恥なのか誇りなのか、少し赤く染まった頬は幼児らしく丸い絶妙なカーブを描いている。
背後に「褒めて」という看板でも立っているように錯覚する自信満々の笑みは、掛け値なしに可愛らしい。
まるで雷に打たれたような衝撃が全身を駆け巡ると、先程までのモヤモヤとした気持ちはきれいさっぱりと吹き飛んでいた。
――ああ、浩俊の人生はこの小さな兄に捧げよう。
浩俊は饅頭を受け取ると、久方ぶりに心からの笑顔を龍蛍に返す。
「龍蛍、私は影官になります」
「え? 前に嫌だって言っていただろう。別に無理しなくても」
そう言いながら、龍蛍は懐から取り出した新たな饅頭にかぶりつく。
「いいえ。私の人生は龍蛍のものなので。あなたが暁妃に会って光を得るまでの間、必ずやその身を守って差し上げます」
「何で急にそうなった? 誰かに脅されたか?」
少し険しい表情になったのは、浩俊の立場を心配している証拠。
可愛い上に優しいのだから、賢帝まっしぐらである。
「龍蛍の可愛らしさにようやく目が覚めたのです。皇子のままではいずれ離されてしまいますからね。帝位なんていりませんし、龍蛍のそばにいられればそれでいいのです」
「おまえ……なんか、気持ち悪いな」
「そう言う龍蛍も可愛いですよ」
心底嫌そうに眉を顰める様も、もはやご褒美。
一体今まで何を悩んでいたのか。
龍蛍という無限の宇宙の前では、浩俊などちっぽけな塵芥。
晴れ晴れとした心のままに龍蛍の手を握ると、「恥ずかしいからやめろ」と叫ばれながら、浩俊は笑顔で庭を進んでいった。
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