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第二十話 名は「マルス」

「受付完了だ。」


 流石に町の人間に手続きを手伝ってもらうと早く済む。

 よく見ておき次に生かすとしよう。


 受付完了の声と共に周りの人間のぼそぼそと小さな話し声や笑い声が聞こえる。


「驚いたか?まあここは元は酒場だ。少し気の荒い奴がいるが気にすんな!」


 気が荒いとか大声で言わないでくれると助かるんだが。

 そんな大声で話すと周りに聞こえて変ないちゃもんを付けられそうな雰囲気だ。


「ようようドルトム、相変わらず若えなお前が連れてくるやつはよ。またすぐにぶっ壊されるぜ?」

「グリン・・・壊したのはほとんどお前だろうが。」

「そりゃそうだ!このレースは何をしても許される最っ高のレースだからなぁ!!!」


 気の荒い奴特有のほとんど怒鳴り声のような声が耳によく響く。

 集合宅なら間違いなく通報待ったなしの案件だ。

 そしてこの鳥人も例外なく大きい体をしている。

 現実の世界で会ったら間違いなくぼくが道を避けるタイプだ。


「まさかこいつをレースに出す気か?随分と小せえな。スタートにすら立てなさそうなやつだ。」


 体も声もデカい鳥人はこっちに向かって暴言を吐いてくる。

 その声に呼応するように周りも茶化すように騒ぐ。

 僕は所謂アウェイという奴らしい。

 こんな状態でも他の町で有名になっているレースらしいが、完全に悪名の方で有名になっているに違いない。


「ふっ今回は勝ってやるから後で吠え面かくなよグリン。行くぞ禍々士。」

「あ、あぁ。」


 正直大見得切っておいてなんだが不安になってきている僕がいる。

 だがしかしそれでも一度やると言ったのだ、最後までやることに変わりはない。

 今はただドルトムについていくことにする。



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



「あぁ・・・こいつはちょっとしくじっちまったな。何というか間が悪いというか。」


 おそらくグァーグリュ小屋なんだろう、だがそこにいたのは他の綺麗な色をしているわけでもなく特有の赤みも少ないグァーグリュ一羽だけだった。


「すまんな禍々士・・・。どうやらこいつしか残ってないみたいだ。」

「ドルトムはグァーグリュを持っていないのか?」


 この鳥でレースに出るには少々色がみすぼらしい気がしないでもない。

 あのグリンとかいう奴のようにスタートにすら立てない可能性がある。


「一応いるにはいるんだが今は他の奴が使ってる。」

「じゃあこのグァーグリュを持っていくことにするよ。」


 小屋の飼育員に言って檻を外してもらう。

 瞬間、このグァーグリュが暴れ出した。

 くちばしで縛ってあるひもが大きく揺れ飼育員がその衝撃で揺れる。


「こいつぁ暴れん坊のグァーグリュでな。名はマルスと呼ぶ。」

「マルス・・・良い名前だな。」

「もう一度聞くが本当にこいつにするのか?」


 このレースに出ると決めた時からもう覚悟は決めている。


「この鳥を僕は飛び立たせて見せる。」

「・・・わかった。おいっ!ひもをこっちにくれ!」


 飼育員が持っているマルスを縛っているひもを受け取る。


「ぐおっ。」


 とてつもなく強い力で引っ張られる。

 これは耐えられそうになさそうだ!


「禍々士、まず乗り方なんだが。」

「うああああああああああ、引っ張られるううううう。」


 マルスの尋常じゃない力に引っ張られながらドルトムとどんどん離れていく。


「まだ説明したりねえこと山ほどあるんだがなあ。おーい!レースの日時は明後日の昼時大広場でだ!」


 風になっている最中、ビュービュー吹く音の中にドルトムの声がかすかに聞こえた。

 明後日・・・・・いくらなんでも急すぎる。

 結局いつも通りの急展開になりそうな雰囲気がしてきた。



「ドルトムさん、アンタは出ねえのか?夢なんだろ。」

「俺も飛ばしてみたかったが今回は若者の夢の番だ。この前やられた傷も癒えないしな。」

「もったいないなあ全く。」


 小さな小さなドルトム達の声を風に混じって聞きながら、とりあえず爆走中のマルスを止めたい。


「おい、マルス。止まれ!」


 全く止まる気配のないグァーグリュを必死で止めようとするが、道に小さな溝が出来るだけだ。


「あら禍々士くん。そこで何をしているの?」


 グァーグリュに引っ張られている内に虚子たちの所まで戻って来ていたようだ。


「何しているってレースに出る準備だ・・・・うおっ。」


 このグァーグリュは僕に会話をさせるつもりはないらしい。

 だが僕もいつまでも引っ張られ続けるのはごめんだ。


「ちょっと手荒いがお互い様だろマルス。」


 チョコレートの衣を作り体を覆った先に杭を作る。

 それを地面に突き刺し無理矢理グァーグリュを止める。


 流石にチョコを粉々にする程の力ではないようだがそれでも地面に溝が出来ていく。

 ゆっくりと辺りがチョコの匂いに包まれてきた頃ようやく速度が完全に落ちていった。


「ふぅ、ようやくまともに町が見られる。」

「お、霊明君それが君のパートナーかい?」


 部長たちは固まって動いているみたいだ。


「めちゃくちゃ早そうなやつっすねえ。当たりじゃないすか禍々士。」


 どっちかと言えば外れの雰囲気だが見る人によっては当たりに見えるものらしい。


「へぇ~、名前とかあるのかしら?」

「ああちゃんと立派な名前があるぜ。」


「名は『マルs――――――ってちょ!」


 名前を言いきる前にまた猪突猛進で足を掛け回そうとするのを必死に止める。


「何だか前途多難っすね。」


 相変わらず他人事みたいに言ってくれるな。


お読みいただきありがとうございます。

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