第十二話 宿は荷物置き
「はぁ、はぁ。さっきまでセカナイールが見えていたのに、意外と遠いんだな、全くっ。」
部長を背負いながら走っているとはいえ、いつもよりも数倍は早く動いているはず。
それほどまでに隣町というのは遠かったのか。
これは僕達のレベルだとそれなりに時間がかかるわけだ。
「あなたたちは以前行ったことあるんじゃないの?」
「その時はゆっくりだったんだよ。牛歩冒険者だ。」
言ってて虚しい。
「あ!街が見えてきたわ!あれがセカナイール?」
ほとんど視界が斜め下を向きながら走っていたが、前を向けば装飾の綺麗な門が見える。
いつの間にか僕達はセカナイールまで来ていたようだ。
「これで部長を寝かせられる。・・・・?」
さっきまで背中にあった重みが無くなっている。
「復かぁぁぁぁあああっっっつ。心配かけたね2人とも。」
目の前に部長が立っている。あの大きな声と笑顔でこちらを見ていた。
「復活早えーな。」
「ホントね。」
「なんだいなんだい、あの部長星場七魅が無事に復活したんだよ。喜びたまえ。」
配慮しているのか素面なのか分からないが、素直に喜ばせてくれない。
そこが部長らしいといえばらしい。
「本当に傷大丈夫なのかしら。結構血も出てたし。」
そうだ、あの時の傷ははっきりいって尋常じゃなかった。
仮に傷が塞がっても痛みは残るはずだ。
・・・まぁそれすらも治せるほど虚子の能力が凄い可能性も否定はできない。
益々僕の能力はオカルト世界でハズレなんじゃないかと思ってしまう。
「だから大丈夫だって。何故かって言われるとね・・・・・。これ!」
部長が手に何か持って見せてくる。謎の液体が入った瓶のようだが何だろうか。
「これ、とだけ言われても分かるわけないだろ。」
「もう霊明くんは面白みがないなぁ。
部長!何だいそれは!?ぐらいのオーバーリアクション期待してたのに。」
「さっさと言え。」
「はい。」
相変わらず部長の勿体ぶりには呆れるな。
「なんとこれは、あの例の人から授かったものなのです!」
「例の人って誰かしら。闇の帝王的な。」
虚子さん、そいつは違うよ。むしろ光の人だよ。
「この瓶の中に入っているのは特別な回復薬なんだ。
以前私と霊明くんが危なかった時に颯爽と現れて助けてくれたんだ。」
そうそう。
他にもナイメさんやリネイラさんもいたりして意外と冒険者って言うのは暖かい人達なのかもしれない。
「そうなのね。まあそれはそうと。」
「ん?」
「早くセカナイールに入らない?」
「あっ。」
すっかり忘れていた。まさかセカナイールの門の前でこれ程話し込んでしまうとは。
相変わらずセカナイールもスーテムに負けず劣らず賑わいを見せているようだ。
「あ、霊明くん神雨さん。
私はちょっとギルドに用事があるから先に2人で宿を取っといて。
そしてそのままモンスター退治なんてこともしてくれちゃっていいよ。
私の方は結構時間かかりそうだし。」
「本当に体は大丈夫なのか?」
「うん。だってあの人がくれた物だからね。効かないはずがないよ。」
そりゃそうか。
それにしても部長はあの人にえらく心酔しているな。
早く会ってみたいものだ。
「じゃあ行きましょ禍々士くん。」
「あぁ、一応前に泊まった所に行こうと思うんだがいいか?」
「そこはお任せするわ。私も少し休みたいし。」
そうか、僕や部長はモンスターを見るのは初めてではないが虚子は初めてだ。
しかも能力まで実質冒険では初めてだ。疲れるのも無理はない。
なるほど、道中に拠点がいっぱいあるのも理にかなっている訳だな。
「よし、行こう。」
「ここ?」
「そうだ。」
前は色々あって全く宿に触れることなく現実の世界に戻ってきてしまったが、改めて見てみるとそれなりに良い宿に見えなくもない。
「さてと、部屋取るか。すいませーん。」
宿の人を呼び部屋を取ろうとする。
当然、僕としては二部屋取るつもりではいた。一応男女ということもある。
金銭的なことも考えれば一部屋の方がいい気がするが、それならキャンプでもすればいいという話になる。
そもそも僕たちは冒険者なのだから。
「あら。」
だが、そこに空いている部屋は一つしかなく、他は全部埋まっていた。
「そこしか無いなら仕方ないわ。」
それでいいのか虚子さん。
しかし、部屋が一つしかないのも事実。他の宿に行くのも面倒くさいし部長も迷う可能性がある。
そもそもまともに宿に泊まるかすら分からない。
あれ、じゃあ泊まる意味ないんじゃ・・・。
「置いていくわよ禍々士くん。」
やれやれ、相変わらずせっかちだな。
「さてと、荷物も置いたし外に行くわよ。」
「え、休まねえの。」
宿に来たらとりあえず寝転ぶのが普通だと思っていたんだが。
虚子を見てみると何故かやる気に満ち溢れている表情だ。
「私にもモンスターっていうのをはっきり見たのは初めてだったの。
その時は私は能力を使ってそれなりに役立てたかもしれないけど、それでもまだまだだと思ったの。」
「それで今から能力の特訓的なことをするつもりなのか。」
「後、半分は好奇心。」
ちょっと前半いい話だったのに。
僕からすればさっきの虚子は十二分に能力を扱えて役立っていたように思うが、虚子はそれでは納得しないのだろう。
妙なところで負けず嫌いな一面は僕は好きなようで嫌いなようだ。
「じゃあ行こうか。部長も時間が掛かるって言ってたしちょっとぐらい外に出ても問題ないだろ。」
「小腹が空いたらあなたのチョコレートを食べれば解決ね。」
僕のチョコレートは結構苦いわけだが黙っていよう。
「でも特訓と言ってもなぁ。僕らもそんな特訓なんてものをしたことないんだよなあ。」
「そうなの?」
セカナイールから出て近くの森へ向かいながら話す。
あまり遠くまで行かずに町が見える場所まで歩いていく。
「特訓の暇なんてないくらい目まぐるしく動いていた・・・わけでもないけど。」
「どっちよ。」
「確かに危険なこともあったけど、基本のんびりしてた気がする。」
密度は濃くはないが能力を使う機会には恵まれたと思う。
「ここらへんでいいでしょ。」
「で、虚子はどういう特訓を考えているんだ?」
「いえ、とくには考えてなかったわ。」
え?
「何をそんなに驚いているのよ。」
そりゃ驚くでしょ。
虚子から言ってきたわけだしな。
まあ、言うと機嫌が悪くなりそうだから言わないけど。
「じゃあノープランということだな。」
「都合よく手ごろなモンスターでも現れないかしら。」
そんな都合よくは・・・って言う時は大抵フラグになる物だ。
ガサッ・・・
森の影からモンスターが出てきた。
しかもかなり小さめのチュートリアル用みたいな大きさだ。
「小さいモンスターっているのね。」
「僕もあの大きさのモンスターは見たことないよ。」
だがこれなら特訓にぴったりかもしれない。
金策にもなるし一石二鳥だな。
そういえば部長は虚子にモンスターの落とす石の話をしたのだろうか。
一応聞いておこう。
「えいやっ。」
ドガッ
「蹴り飛ばしやがった!!!」
「何かまずかった?」
「いや、石的なね。」
「?石?」
やっぱり部長話して無かったのか。
幸運にもそう遠くまでは飛んで行ってないようだが、部長には後でチョコレートをプレゼントしてやろう。
「虚子、詳しい話はあとだが、モンスターからは金になる石が落ちるんだ。」
「なるほどね。了解したわ。」
理解が早くて助かるな。
「じゃあモンスターの方へ向かおう。一応小さくても油断はしないように。」
「もちろんね。」
二人でモンスターの方へ向かう。それなりに遠くへいったが町は見える場所ではある。
細目にすればだが。
「お、いたな。」
「ここは一旦あなたの能力に任せるわ。ちょっと見てみたいし、ちゃんとね。」
「わかった。」
僕は言われるがまま虚子の前に出る。
チョコレートを出し槍を作っていく。
「放て!」
螺旋状に作られた槍は回転を加えながらモンスターの方へ加速していく。
モンスターもそれを見て当然回避しようと横へジャンプする。
それをみて僕は槍の方向を少し変え、モンスターの飛んだ方へ向けた。
「ホーミング性能だってあるんだよ。」
「誰に話してるの?」
「モンスターにだ。」
まぁ言葉を理解しているか分からないが、とりあえず槍はモンスターの方へ向かう。
能力の加減が出来なくなる距離まで飛び、後は自由に飛ぶ槍。
「ドンピシャだな。」
槍は容赦なくモンスターへと突き刺さった。
だが頑丈なのかそれだけではいつものようにひび割れてはいなかった。
「よし止めね。」
「気を付けろよ。」
槍が刺さり身動きが取れないモンスターに近づく虚子。
モンスターに大きな影が重なり合っていく。
「?やけに大きな影だ。・・・・・っ!?虚子!後ろへ飛べ!」
「え?えぇ分かったわ。」
ドォォォォオオオオオン
「きゃああああああああ。」
「くっ、チョコレート!壁とクッションを作れ!」
凄い衝撃がモンスターのいた場所から伝わる。
空間を裂くような轟音と共に来る土の混じった暴風のような風。
後ろに飛んだ虚子を加速させるような衝撃を受け止めるには、少し硬いがチョコレートにクッションになって貰った。
「一体何なの?」
「あれだよ。虚子。」
風を遮るチョコの壁が崩れていき衝撃を起こしたものの全容が明らかになった。
「僕たちが道で見たモンスターの正体があれさ。」
「あ、あんな大きなものがモンスターだなんて。」
僕たちの目の前にいたのは巨大な恐竜のようなモンスターだった。
そしてそいつは明らかに僕たちに殺意を向けている!
「走るぞ虚子!」
「えぇ!」
今の僕たちでは逃げるしかなかった。
だが。
「ちょぉぉぉぉぉっと待ったあああああああ!!!」
ドスッ ドグッ
このやたらと耳に響くような声は。
「部長!!!」
「狩るよ!このモンスターを。」
「あぁ、そうだな。って・・・ええええええええ!」
お読みいただきありがとうございます。




