第十一話 三人旅でも危機は危機
拠点までの道中、部長は気分がいいのかスキップ交じりだ。
「ついに三人で出発だね。」
部長は相変わらず元気で楽しそうだ。
「えぇそうね。」
虚子はあんなことがあったにも拘らず楽しそうに見える。
空元気というわけではなさそうだ。
まぁ確かにあの時の虚子は目を瞑っていた時間の方が長い。
危険な目にあったという意識はあまりないのだろう。
僕はどちらかというと、このオカルト世界の危険性に少し腰が引けている。
女二人はこれほど楽しそうなのに情けないとは思うが、こればっかりは仕方ない。
「楽しそうだな。」
「もちろん!」
今日もいい笑顔で返事をするな部長は。
だが確かに若干楽しみな部分もある。
今まで二人だった分、三人になればよりこのオカルト世界を楽しむことが出来るかもしれない。
・・・・・・・・・不安要素満載だが。
「部長さん、もうあんなところまで。
追いつくわよ、禍々士君。」
「え?あ、あぁ。」
また僕を置いていく気か!
すぐそこの拠点だし前に来た場所のはずなのになぜああも元気になれるのか。
その元気少し分けてほしいくらいだ。
拠点に着いた。
もう苦労というほどのことでもなくなったが、色々と思い出すものがある。
初めての戦闘はここではないが。
「意外と綺麗なのね。」
「ここはな。」
何故なら誰もこんな序盤の拠点なんて止まろうとしない。
よっぽど僕たちは鈍足なのだろう。
「まともなご飯は今は無いよね。特に何も考えずに出てきちゃったけど。」
「携帯食ぐらいならあるだろ。」
鞄の中を探す。
色々と入っている奥にひっそりとあるのを発見した。
元々薄っぺらなものだったがさらにプレスされていた。紙一歩手前だ。
食料の確認が済んだ後二人を見た。
どうやらちゃんと食料はあるようだ。
「食料はみんなちゃんとあるようだね。でもウォーターボールとか買い忘れちゃった。」
「ウォーターボール?」
そういや虚子にろくに説明せずに出てきてしまった。
完全に僕と同じ状況になりそうだ。
デジャブを感じる前に色々と説明してやりたいが水分は欲しい。
ウォータボールがないということは水を汲みにいかなければならない。
やれやれだ、もう水汲み係は卒業した思っていたんだがな。
「じゃあ僕が水を汲みに行くよ。
それと虚子の質問は部長が懇切丁寧に教えてくれるだろう。
分からないことは根掘り葉掘り聞いて行け。」
単純に答えるのが面倒くさいというのもあるが、部長の喋らなすぎには困るからな。
今のうちに色々と喋って貰おう。
「ええ、行ってらっしゃい。」
返事はせず手だけ振って例の川へと行く。
相変わらず川は綺麗で夜に輝く。そして月は紅く光っていた。
「月!?」
夕日なら分かるが今はもう日が落ちて真っ暗な空だ。月が出る時間ではあるがまさかここまで赤いとは。
まぁここはオカルト世界だから現実とは違うといえばそれまでだが。
「はぁ相変わらずよく分からないなこの世界は。」
悪態はつくが仕事はきっちりと終わらせる。
この世界がどれだけ現実と歪んでいても水は美味しい。そして森に潜むモンスター。
「モンスター?」
森の茂みにチラッと見える暗いモンスターの影。
こちらに気付いていないのか、それともこちらを見ていないふりをしているのかは分からない。
モンスターに前と後ろがあるとは限らないからだ。
だがもし気付いていないなら狩るべきだろう。
「よし、今回は水は台無しにしたくない。先手必勝だ。」
モンスターの潜む場所へゆっくりと近づいていく。
抜き足差し足で距離を詰めていくと同時に、チョコの槍を作っていく。
もうチョコの武器づくりも慣れたものだ。
「・・・・・・・・・・・。今!」
目の前まで近づいたとき、槍をモンスターに向かって放った。
槍は真っすぐモンスターの方へ向かっていき見事に命中させた。
しかしモンスターは目立った反応を起こさなかった。
普通ならダメージを受けたとしたら怒り狂うかバラバラになって崩れ落ちるかだ。
尤もモンスターに感情があるか分からないが。
流石に怪しすぎるので一応近づいてみる。
もしかすると獣か何かだったのかもしれないし。
「うおっ!」
近づこうとした瞬間、その暗いモンスターと思わしき影はチョコの槍が刺さったまま森の中を駆け抜けていった。
「・・・・・何だったのか一体。とりあえず帰るか。」
そういえば水の調達の途中だった。
部長たちは待っているだろう。早く帰ろう。
「あ、おかえり。無事だったね。」
「まぁ無事だったけどね。」
「含みのある言い方ね。」
実際何かあったわけだけど結局何も分からないので話すべきか迷う。
いや今は別にいう必要はないか。分からないことだらけにも程がある。
「水は取れたけどまた補給しないといけないな。」
冒険をするには当然水は必要になる。
それに今回は人数も増えているから前よりも必要になる量は多くなる。
力仕事というわけではないがそれなりに疲れる。
それに今はお腹が空いている。
「水は多いに越したことは無い。
そしてお腹も一杯の方がいいよね。ということでこれ。」
部長が鞄の中から何かを取り出す。
「何かしらこれ。魚・・・・・?」
魚で思い出すのはセカナイールの魚料理だが、余っていたか?
「というより魚擬きだね。たまたま鞄の中にあったんだ。これを食べよう。」
たまたま、その言葉は食品に関してはそれほど信用できない言葉だ。
ましてはこんな世界だ。何かしらの病気にかかるかもしれない。
「ちょっとそれ良く見せてくれ。」
「いいよ、はい。」
部長から魚擬きなる物を見せてもらう。
この世界に賞味期限の概念があるわけ無いだろうが一応見てみる。
「やっぱり無いか。」
賞味期限はあるはずもないのだが商品名も何も書いていない。
仮に書いていたとして現実と同じ時間を刻んでいるか分からないから、あまり意味は無いのかもしれない。
諦めて中身を見てみるが普通に魚にしか見えない。
だからこそ何故擬きなのかが気になってしまう。
「・・・・・美味しければいいか。」
「そうだよそうだよ。美味しければそれでいいんだよ。」
一応食べてみると普通に美味しかったが、今後は食糧管理はしっかりするべきだな。
腹が無事にいっぱいになり各々が明日の準備を進める。
といってもほとんど何もする訳でもなく、ただ寝るだけだ。
平坦な場所にクッション程ではないが柔らかいものを敷いて寝転ぶ。
空は相変わらず怪しくて綺麗だ。ボーッと見るならこれ以上にいい景色はないだろう。
心地いい風にあてられて落ちてくる瞼に身を任せた。
「おはよう!!!」
ガバッ!!!
突然の大きな声というよりもはや騒音に飛び上がるように起きた。
「今日も気持ちいい朝だね!!!」
起き抜けに部長の元気な声はよく目が覚めるが本当に心臓が悪い。
「ていうかまだ朝って言うほど明るくないじゃないか。」
虚子はこんな大きな音でもそんなに反応しない。凄いやつだなこいつは。
「んん~、あと5分ね。」
・・・・・・・早起きってのも悪くないな。
起きてしまったのだから仕方ない。
水でも汲んでこよう。
率先して動ける僕、なかなか優秀なんじゃないか。
「あら、もう起きてるのね。」
水汲みから戻るとちょうど虚子が起きてきていた。
「まあな、起きたというか起こされたというか。」
「やあやあ神雨さんも起きてきたんだね!!今日はもう一気にセカナイールまで駆け抜けて行くよ!」
「こんな感じだから目を覚ました。」
「なるほどね。」
それにしてもなんでこんな早起きなのかと思ったら、今日中にセカナイールに行くためだったのか。
確かに僕達はまだ最初の拠点だ、進まないにも程がある。
「ほら神雨さんも早く起きて!新たな冒険もとい研究は待ってはくれないよ!」
「え、ええ。」
むしろ待てないのは部長ではないかな。
そして相変わらずこの部長という人は虚子をここまで翻弄出来るのか。
「しゅっぱーつ!!!」
「はいはい。」
傍から見たら部長は子供だな。一応年上なのに。
そして部長がこうやって意気込むと何かしらのトラブルに巻き込まれる。
主にモンスター関連で。
「な、なんにも無かった。」
「たしかに新しい発見なんにもなかったね。」
僕が言っているのはそういうことではない。
部長は沈んでるが僕は安堵している。
なんとあれから何事もなくセカナイールが見えてきている。
まさかこんなに何事もないオカルト世界は初めてだな。
出来ればこのまま平和にセカナイールに着きたい。
「あれ、何かしら。」
・・・・・・・虚子がなにか見つけてしまった。
いやこんな道のど真ん中なら誰がどうあっても見つけるしかないだろう。
「んーなんだろう。モンスターの残骸?何にしても新しい物だね!」
新しい物なんて恐怖そのものなのに何故あそこまで目を輝かせることが出来るのか。
僕も目を背けずにはいかないので見てみるが、あれは明らかに昨日見たやつだ。
若干チョコが付いているので間違いなくそうだ。
「何にしても先手必勝。案ずるより産むが易ーーーーうぐっ。」
「部長!ぐへっ。」
道に横たわっている何かに近づいた部長が吹っ飛ばされた。
その勢いが僕に直接降り掛かった。要するにこっちに吹っ飛んできた。
「もう部長。迂闊に近づいちゃダメじゃないか。・・・・・部長?」
「う、うん。そう・・・・だよね。」
上にかぶさっている部長を支えていた手が真っ赤に濡れている。
「なっ!?部長!う、虚子!!」
「え、ええ回復ね!」
虚子がこちらに駆け寄り能力で回復させていく。
あって良かった回復能力だが、あちら側は気にせずうねりまくっている。
そのうねりは何かの意思があるようには見えない程不規則な動きをしているが何をしているのだろうか。
「傷がだいぶ塞がってきたわ。」
もうか!やっぱり優秀だな虚子は。
どうせならもっと安静な場所で寝かせてやりたい。
だが道には例のやつがいる。
「!?くっ守れチョコレート!」
突然こっちに向かって来た。
やはりあれはモンスターだと確信した。
咄嗟のことでも反応できるぐらいに慣れては来ているが今はそんなことに感動している暇はない。
ビキィ
それなりに強固な壁にヒビが入っている。
でもモンスターの攻撃を一時的にだが止められることがわかった。
なら何とかできるかもしれない。
「虚子、足を早くする強化とか出来ないか?」
「そんないきなりは、でもやってみるわ。」
「助かる。」
だいぶ回復した部長から少し離れ集中する虚子。
その虚子にモンスターが襲いかかる。
「くっ。」
「大丈夫だ虚子。僕が守る。」
「ええ任せたわ。」
モンスターに付着したチョコが地面に垂れている。
あの虚子を助けた時に使った技をやるしかない。
僕は指の先を地面に置きチョコを這わせ地面に垂れているチョコへと向かわせる。
チョコの道筋が出来たなら今度は大量にチョコを放出する。
そのチョコは地面の道をいき、やがてモンスターへと届き覆っていく。
覆っていくチョコはそのまま森に巻き付き、地面へと突き刺さりモンスターの動きを完全にとめた。
一連の動作が完了した時体に力が入っていく。
「強化完了ね。」
「こっちも大丈夫だ。今のうちに駆け抜けよう!」
部長を背負ってチョコが割れないうちにセカナイールへと走っていく。
いつもよりも早く景色が過ぎていく違和感を感じながら、僕達は前へと向かっていった。
途中森の中で揺らめく影を見た。
その影はおそらくさっきのモンスターのものだろう。
前に討伐したモンスターと同じかそれ以上の大きさの様なそれに恐れ戦きながら、チョコが割られる前にセカナイールへと足を素早く動かした。
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