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白い世界で君は笑った  作者: pino


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十 変わり始めた世界

※2026.08.28 旧9話を大幅に改編しました。旧10話を11話に変更します。

 その夜。


 目を開けると夕暮れの教室だった。


 現実の文化祭とは違い、こちらではまだ準備が続いているらしい。


 そして窓際に座っていた如月が顔を上げた。


 もう、その顔を見ても驚かなかった。


 自分と同じ顔。


 それなのに、やはり自分とはまるで違う。


「おい、如月」


 クラスメイトが声を掛ける。


「何」


「今日、体育館で準備あるんだけど」


「行かない」


「少しくらい手伝えよ」


「嫌だ」


 周囲から笑い声が上がった。


「相変わらずだな」


「まあ如月だし」


 拓真は、その光景を黙って見ていた。


 以前なら、如月に話しかけるやつはごく一部で、ほとんどのクラスメイトが知らん顔だった。だが今は違う。


 如月が拒絶しても、クラスメイトたちは笑っている。


 その変化が嬉しい。


 そう思う一方で、如月本人は少しも楽しそうではなかった。




 別の日の夢。


 廊下で黒川が如月を呼び止めた。


「如月君」


「何」


「この前ありがとう」


「何のこと」


「またそれ?」


 黒川は笑った。


 如月は何も答えない。


「でも最近さ」


 黒川の声が少しだけ柔らかくなる。


「話しやすくなったよね」


 如月の表情が変わった。


 ほんの僅かだが、拓真には分かった。


「変わってない」


 怒ったような低い声。


「そうかな」


「そうだ」


 いつもより強い口調だった。


 黒川も少し驚いたように黙る。


 如月はそれ以上何も言わず、歩き去った。




 さらに次の夢。


 拓真は迷った末、あの家へ向かった。


 窓から暖かな灯りが漏れている。


 玄関の近くに、母親がいた。


「拓真?」


 呼ばれた。


 拓真は少し迷ってから答える。


「うん」


 母親が笑った。


「また散歩?」


「そんなところ」


「最近よく話してくれるわね」


 その表情が嬉しそうで、拓真は何も言えなくなる。


「前は何聞いても『別に』だったのに」


「……そうなんだ」


「自分のことでしょ」


 母親が笑う。


 その笑顔を見ながら、拓真は思った。


 これならいいじゃないか、少しくらい自分が関わったって。


 誰かが喜んでいるなら。


 その時、近所の人が母親に話し掛けてきた。


 拓真は軽く会釈する。


 母親が挨拶している間に玄関が開いた。


 拓真は反射的に物陰へ隠れる。


 出てきたのは如月だった。


「買い忘れ」


 母親へ短く告げる。


「コンビニ行ってくる」


「そう。気を付けてね」


 如月は返事をせず歩き出す。


 だが、数歩進んだところで足を止めた。


「……母さん」


「何?」


「最近」


 言葉が途切れる。


 如月は何かを堪えるように顔を伏せた。


「変なこと言うよな」


 母親がきょとんとする。


「え?」


「なんでもない」


 そのまま歩き出す。


 拓真は、如月の後を追った。


 人通りのない道。


 少しずつ距離が縮まっていく。


 ふいに如月が立ち止まった。


 拓真も足を止める。


 如月は振り返ることもせず真っ直ぐ前を向いたまま、長い沈黙。


 そして。


「……誰だ」


 拓真の呼吸が止まった。


 如月がゆっくり振り返る。


 その視線は、真っ直ぐ拓真へ向いていた。


 もう、気のせいでは済ませられない。


 見えている。


 如月には、自分が見えている。


「誰なんだよ」


 低い声が、静かな道に落ちた。


 拓真は答えられなかった。


 如月がこちらへ向き直る。


 そして――一歩、踏み出した。

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