第九話 破壊と再生の先に見えるもの ~キラメキの彼方~
――ずぅぅぅぅぅん……!!
自由研究の一撃を受けたエテ吉が、流星の如く河川敷へと墜落する。
ようやく死闘を終えたことを確信した縁が、地面へと膝をつく。
それも無理はないことだろう。
この短期間での自由研究の完成に加えて、極悪拳法に打ち勝つほどの射出のために自身の力を使い果たしたのである。
荒い呼吸を繰り返す縁だったが……そんな彼の眼前に、二つの手が差し出される。
「ケリー……瑣吉……」
どうやら、両者もボロボロの状態でありながらも河川敷から縁のもとまで駆けつけてくれたようである。
そんな二人に手を取りながら、縁がゆっくりと立ち上がる。
「ケリー、瑣吉。二人とも死ぬかもしれない真っ只中でも僕を何とか逃がしてくれて本当にありがとう。……そのおかげで、なんとかここまで駆けつけることが出来たよ」
「いいってことよ!!……それにしても、あんだけ狂暴だったエテ吉を一撃で倒すなんて、まさになろう系主人公かってくらいに無双しててカッコよかったぜ!!それでこそ俺達の親友ってもんだ!」
「うむ、先ほども言った通り”義を見てせざるは勇無きなり”。オイラ達も自分なりの正道を貫き通したまでのことよ」
「ケリー……瑣吉……!!」
そんなやり取りをしてから、ようやく安堵したかのように笑い合う三人。
そうして肩で支え合いながら、よれよれと河川敷に戻ると、戦闘で役目を果たしたかのように縁の自由研究をまとめたノートと思しき燃え尽きた後の灰がパラパラと宙から落ちてきた。
見れば、縁のものだけではない。
ケリーや瑣吉のノートの切れ端やひょうたんの残骸もいたるところに転がっている。
とっくに覚悟をしていたとはいえ、突きつけられた残酷なまでに無情な現実。
「……俺と瑣吉はもうしょうがない状態だったとはいえ、せっかくあれだけのことが出来るスゴい自由研究が出来たってのに俺達に付き合わせて悪かったな、縁」
「縁はこれ以上ないほどに天下に正道を示したというのに……その成果の果てが灰しか残らぬとはあんまりではないか!!」
そのようにバツが悪そうにしたり憤慨するケリーと瑣吉。
だが、そんな二人の言葉に対して、この景色を見据えながらも縁は穏やかな――けれど、確かな強い意志を込めた顔つきで答える。
「そんなことないよ。自分達のことをすっかり棚上げしてるけど、二人がいてくれたからこそ僕はあの自由研究を完成することが出来たんだ。……本当に感謝してる」
「……んだよ!なんだよ、照れくさいな!!」
「……縁」
二人の反応に気恥ずかしくなったのか、縁はそっぽを向きながら「そ・れ・に!」と続ける。
「――僕らはもう”親友”なんでしょ?なら、困ってるときに助けるのは当然だよ」
その言葉にきょとん、とした表情で互いに顔を見合わせながらも――すぐにニマニマしたケリーと瑣吉が両側から縁に肩を組んで小突き始める。
「自分から言い出しておきながら、何さらに重ねて自爆してんだよ!!この、し~~~んゆ♡」
「正道、正道」
「うっさい!変な茶化し方しないでよ!!」
そうしてじゃれてひとしきり笑ってから、縁が告げる。
「――こんなことになったけど、それでも僕はまた一から……いや、これよりもさらに凄い自由研究を仕上げてみせるよ!!あと数時間で夏休みが終わっちゃうとしても、可能かどうかよりもこれだけの出来事を否定して後悔したくないっていうか……それ以上の感情で!今無性に新たに挑戦したくて仕方ないんだ!!」
理不尽なまでの破壊の後からでも、それ以上の躍動感と強い意志を持って作りあげようとする縁の宣言。
そんな縁へと二人の戦友も己の中の譲れぬものを思い出したかのように、力強い頷きを返す。
「まったく、あれだけのことがあったってのに本当に大したヤツだよ……それじゃ、俺もとことんまで付き合うぜ!!今度は安易なバズ狙いとも違う、正真正銘の俺にしか書けない作品ってのをぶちまけてこその”漢”の心意気ってもんよ!」
「ケリー……!!」
「そうさな。一度正道を為すと決めた以上は、何があろうとも最後まで貫き通してみせるのが本懐。……縁よ、お前さんの自由研究を通して重厚な歴史の連なりというものを思い出すことが出来た。――自分でも知らず知らずのうちにこの現代社会特有のすぐに形となる実用性、というものに囚われていたかもしれないが、時代を超えて普遍に人々へと語り継ぐべき”勧善懲悪”の理を!今こそ我が自由研究で示してくれようぞッ!!」
「瑣吉……!!」
――今期アニメのまとめ情報や正攻法とは思えないひょうたん育成日誌とも異なる、『自分だけの自由研究』に挑むという揺るがぬ決意。
この場においてそんな二人に感銘を受けたのは、縁だけではなかった。
「――感動いたしました。私も心を悔い改めて、今からでも自由研究に取り掛かることにいたします……!!」
「ピュア猿……!!」
そう縁が呼びかけた先にいたのは、彼の自由研究の奔流に吞まれた結果、河川敷に墜落したはずのエテ吉であった。
お目めをキラキラさせながらこれまでとは打って変わって改心の言葉を紡いでいるあたり、どうやら極悪拳法最終喝采術:暴力最高を使用したことで砕け散るはずだったエテ吉の理性と精神が、縁の自由研究からもたらされた歴史と地域が織りなす人々の絆の力が強制的かつ大量に流れ込んだことで損傷した部位が急激に癒され、内面から浄化されたに違いなかった。
とはいえ、もともとの人格とは著しい乖離があるためこの効果は一時的なものであり、数日後か……ひょっとしたら、明日には元の状態に戻っていてもおかしくはない。
それでも、この場においては同じ自由研究を終えられていないかけがえのない同志であることに変わりはなかった。
「ケリー、瑣吉、ピュア猿。……もし君達がよければ、今から全員で協力して自由研究に取り掛からないか?――一人では到底無理でも、みんな一緒でなら出来ることがきっとあるはずだから」
それは、エテ吉が提唱した『生徒全員が課題を提出出来なかったことによって、学級崩壊を引き起こす』という破滅の形とは異なる創造と再生を目指す指向性。
そんな”縁”という少年に名実ともに相応しい提案を受けて、三人がそれぞれに笑みを浮かべながら答える。
「――あぁ、いいぜ!!泣いても笑ってもこれが夏休み最後の一日だ!!そんなら、ド派手に”漢”の文字に恥じぬ生き様をなろうユーザーとして轟くくらいにブチ撒けてみせらぁッ!!」
「――”勧善懲悪”と”完全燃焼”という言葉は似ている。こうなれば、とことん灰になって燃え尽きるまで貫き通すことこそ!この現代社会に生きて未来を担う者達の正道と心得たりッ……!!」
「――暴力と恫喝ではなく、対話と協力で紡ぐ未来のカタチ。この猿山 エテ吉、心底感服いたしました。皆様に最後までご一緒させて頂きます」
「みんな……!!本当に、本当にありがとうッ!!」
そんな縁の心からの感謝に、他の者達も無言で頷く。
そうして誰からともなく、いっせいに同じ方向に向かって駆け出していく。
――夏休み終了まで、残りわずか。
それでも四人の少年たちの表情はまだ夏まっさかりだと言わんばかりに、眩いまでの希望にあふれていた。




