最終話 宿題が終わってなくても、必ず明日はやってくる!! ~最高のはじまり!~
――8月31日、新学期。
始業式を終えてすぐに、縁達のクラス担任である女教師:百日紅 鉄子は教壇越しに目に見えてわかるほどに激昂していた。
彼女の眼前で肩を縮こまらせながら立っているのは、ケリーと瑣吉とエテ吉の三名。
他の生徒がクスクス、と笑う中、鉄子が顔を真っ赤にしながら三人に対峙する。
「貴方達、一体どういうつもりなの!?――三人が三人とも、夏休みの課題において自由研究以外の他の課題がほぼまったく手つかずとかふざけてるんじゃないわよ!!」
鉄子からの厳しい叱責を受けて、三人がさらに縮こまる。
――そう、遊び惚けていたエテ吉だけでなく、なんとケリーと瑣吉も自由研究以外の宿題をまったくやっていなかったのである。
……確かに、縁との最初のやり取りでも自由研究が出来たことを誇らしく語っていたものの、他の課題にはまったく触れていなかった。
しかしこれには、エテ吉(昨夜の時点で浄化が解けてもとの人格に戻った。けれど、ぶつくさ言いながらも何とか縁達と協力してなんとか自由研究は完成)も鉄子同様に直前まで二人がそんな状態だと知らなかったため、ひそひそ声で問いただす。
(おい、お前ら!あんだけ自信満々だったくせに、結局二人とも俺と似たり寄ったりの有様だったんじゃねぇか!?しかも、瑣吉に至ってはあんだけ”正道”とか言ってたくせにおかしいだろ!?)
(……オイラは遊び惚けていただけのお前と違って課題に挑もうとしたものの現代社会に来たばかりで道理と勝手がわからずに、自由研究で得意のひょうたん育成に予想よりも熱が入ってしまった結果、他の課題に挑む力の入れどころを間違えてしまっただけだ。――なぁに、百日紅先生も宿題に挑もうとした心意気を真摯に伝えれば、きっとわかってくださるに違いない)
(いやぁ……エテ吉ほどでないとはいえ出来てない俺が言うのもなんだけど、俺達が何言っても焼け石に水な段階じゃねぇかな、コレ?)
「コラッ!!ひそひそと内緒話をするんじゃありません!!……こうなったら、アナタ達が唯一成し遂げたという自由研究すらも、厳しく判定してあげますッ!!ビー、シーッ!!」
そう叫びながら、三人の提出した自由研究課題に鉄子の魔の手が迫る――!!
☆エテ吉の自由研究:『ピュアピュア~♡極悪拳法レッスン♪』
・内容……人類の調和と発展のために必要なのは暴力と恫喝でなく、対話と協力の精神。そんな次世代への祈りを込めて、不肖、猿山 エテ吉が一時間ほどの正拳突きを行う姿を動画にして収録いたしました。
・総評……試み自体は素晴らしいのですが、のっけからいきなり”研究”じゃないんですよね~……。
それでも、小学生かつ本当にテーマ自体は素晴らしいので”自由”の名目での拡大解釈で(他の課題が全て全滅している猿山君とはいえ)これだけは合格扱いしてもいいかな?と思えたのですが、途中からそれまでのお目めキラキラした純真な態度から一転、なんか自分の主張した対話や協力の精神、人類の調和と発展を馬鹿にし出したかと思えば、そこからさらに露悪的な発言をしながら画面の前で舌をレロレロ動かす挑発映像を垂れ流しながら終了したので、当然の如くこの動画は論外です!!
☆瑣吉の自由研究:『百怪夜行髭無河童退治之記』
・内容……ニタニタ笑いを浮かべながら女性に自身の全裸姿を見せて喜ぶハゲた河童のような妖怪:ひょうすべ。河辺に現れながらうら若き女性にお節介と称しながら聞かれてもない助言から始まり、果ては卑猥な行為に及ぼうとするこの悪しき妖怪に、現代に生きる正義の心を持った武士の少年が立ち向かう一世一代の物語!!
・総評……「だから、自由研究じゃないんだよなぁ……」と思いつつも、お話自体は読みやすいし元気があるのと変にひねくれた展開をせずに、悪い奴を倒して善良な人たちが救われる!という道筋がしっかりしていてよかったです。
ただ、ちょっと作中の本筋じゃない部分での物知り自慢なところが長かったところと、こじつけみたいな「〇〇と△△は似ている~」なくだりがちらほら、あと本作の敵であるひょうすべの造形は卑猥な変態行為だけでなく「でつね~!!」っていう特徴的な語尾とか自分のことは語りたがらないわりに、理解力のあるふりをしながら他の人の行動にやたらと介入したがる『こういう人が身近にいたら嫌だな~……』要素が上手く書けているだけに、主人公の妖怪退治の少年がステレオタイプの武士すぎるというか、ヒロインや敵どころか名無しのモブよりもちょっと……いや、だいぶインパクトが薄かったのがマズイかな?と思いました。
とはいえ(色々と粗は感じつつも)、滝沢君はこの調子で執筆していけばどこかで跳ねる人だと私は思います。
☆ケリーの自由研究:『鉄砧一座を巡る冒険 ~BE‐POP山賊黙示録~』
・内容……裏社会を牛耳る”鉄砧一座”によって、赤子の頃に国ごと滅ぼされた悲劇の王子:ラクド。亡き祖父であるハインセッツ・ベンタロー陛下が遺した王刀:スカベンジャーを手に、天涯孤独の山賊として成長したラクドは、道行く女性を相手に次々と陵辱に見せかけた純愛劇を繰り広げていく内に、意図せずして仇である”鉄砧一座”との因縁に巻き込まれていく――!!
・総評……もう自由研究とか抜きにしても、純粋にまだ作品として評価しようと思ったけど、見れないこともないあらすじに反して本当にやることなすこと酷すぎです!!
国とか祖父の名前は目をつぶったとして、悪徳警官に無理やりケチャップ&マスタードをつけたフランクフルトを口に突っ込まれている女子高生を主人公が助けたかと思えば、そのまま意識を失っている彼女に酷いことするし、悪いネクロマンサーに蘇生させられた祖父王を「そんな糞みたいな名前の子孫とか恥さらし以外の何者でもないだろ」と問答無用で斬り倒したりとかおおよそ道徳心が欠落しているとしか思えない展開が延々と続いて見れたものじゃありません。
敵である”鉄砧一座”の方がなれ合いはないものの、あくまで職業意識とか責任感で動いている……という対比で作中のバランスを取ってる感じなんかも、小学生らしい可愛げがなくて鼻につきます。
ていうか、山賊だのBE‐POPだの陵辱に見せかけた純愛劇だの子供が書いてんじゃないわよ!!この馬鹿!
……今の段階でこれだと、冗談抜きで先生は君の将来が心配です。
「「「――ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!」」」
鉄子によるぐうの音も出ない審判。
それを受けたケリー、瑣吉、エテ吉があまりの衝撃で思わずその場に倒れ込む。
そんな三人を見やりながら、鉄子が勝ち誇ったように高笑いする。
「おーほっほっほっ!!これで分かったでしょう?……夏休みという期間がたっぷりあったにも関わらず、真面目に取り組まなかった人間が一夜漬けでなんとか出来るほど課題というのは甘くないってことをね!!」
そんな鉄子を見上げながら、三人が悔しそうに呻く。
「ちくしょう……俺の実力じゃ、学級崩壊は引き起こせないってことかよ……!!」
「まさか、『今さら悔やんでももう遅い』なシチュエーションを俺自身で味わうことになるとは、な……!!」
「無念……ここに来て、天はオイラを見放したか……」
……万事休す。
このまま行けば、鉄子が繰り出す圧倒的な正論の説教によって、クラスメイト達の前で心を砕かれるのは明白。
確実な敗北の予兆を前に、拳を握りしめる三人を睥睨しながら、鉄子が楽しそうに告げる。
「今さらどれだけ悪あがきをしようと裁定は覆らないわよ?――大人しく、教師歴18年を誇る私の”指導力”を喰らいなさいッ!!」
この教室の絶対的な支配者は、百日紅 鉄子ただ一人。
口に出すまでもない圧倒的な事実を前に、刑の執行を待つ三人を除くクラスメイト達がうやむやしく――かつ意思なき人形のように鉄子にこうべを垂れようとしていた。
――まさに、そのとき。
「”裁定”と”最低”は似ている。――百日紅先生、安易な決めつけで大事な生徒達を断罪するのは、まだ少し早いんじゃないかな」
教室にいた全員が、声のした方にいっせいに視線を向ける。
その中でもいち早く、教師である鉄子が声を荒げる。
「ホームルームの真っ最中にも関わらず、私の支配領域で許可なく声をあげるとは何たる無礼!!――貴様、一体何奴ッ!!」
そんな彼女の糾弾に、声の主は堂々と答える――!!
「冷奴、ってね。僕の名前はご存じの通り、模試山 縁。――少し遅刻しただけの、このクラスの男子生徒さ……!!」
教室の入り口で、ランドセルを背にノートを右手に持ちながら悠然と佇む縁。
その姿を目にして、追い詰められていたはずの三人が瞬時に沸き立つ――!!
「……縁!?そうか、無事に間に合ったのか!!」
「……勝手にオイラの口癖を真似するとは何という奴だ。――だが、ここまで来ると無粋を通り越して”粋”な心意気と言えなくもない……!!」
「なんでもいい、縁!!暴力が駄目だってんなら、それを否定したお前が完膚なきまでにこの教室の支配をブチ壊してみせやがれッ!!」
そんな三人の熱気に当てられたかのように、他の生徒もわずかながらざわめき始める。
クラスの変化を瞬時に感じ取った鉄子が、険しい目つきで縁を睨みつける。
「模試山くん、今さら登校して来ているあたりアナタは普通に全然間に合っていません!!……例え、他の三人と違って夏休みの課題が全て出来ていたとしても、遅刻に加えて教師である私への挑発による厳罰はもはや確定済み。――他の三人共々、ここで潰える運命と知りなさいッ!!」
……あまりにも無慈悲な鉄子による通告。
それは当事者ですら周囲の生徒すらをも、絶望のあまり言葉を失わせるほどの威力を秘めていた。
ケリー、瑣吉、エテ吉の三人ですら苦悶の表情を浮かべる中――ただ一人、縁だけは不敵な笑みを崩すことなく鉄子に対峙する。
「僕達のことを”落第生”と侮るのはまだ早いですよ、百日紅先生。――僕達の未来は、この一冊が決めるッ!!」
「……だから、自由研究一冊で覆るような状況じゃないって言ってんでしょうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!」
正論と激昂の相反する属性を組み合わせた、教師歴18年から放たれる渾身の叱責。
それを真正面から見据えながら、縁が堂々と自由研究のページを開く――ッ!!
☆縁の自由研究:『令和小学生伝説・自由研究~夏休みを超越せよ、新学期に語り継がれる少年達の物語~』
・内容……あまりにも説明不要の気迫に満ちた自由研究。”世界三大都市”と称される神聖都市:金沢、発展都市:草津、外法都市:新潟の歴史から始まり、現代においてそれらの聖地で短期間のうちにご当地アニメが公開されるという偶然にも似た必然の謎に迫りつつ、それらを織り交ぜながら四人の少年達のひと夏の色あせることないひとときを描く課題という枠に収めるにはあまりにも濃密すぎた超大作。
・総評……し、知らなかった!!――まさか、金沢と草津と新潟にそんな逸話があったなんて!?おまけに、点で見ればバラバラなはずのアニメ三作品にこのような共通点があったとは……!!そこからの譲れぬ信念をかけた少年達の激突と和解、単なる理想論を超えた魂の絆を描ききるとはこの教師歴18年である百日紅 鉄子の理解の範疇を超えているッッつ!!!!
な、なんなのだ……自由研究とは!歴史とは!ご当地巡礼とは!夏休みとは!そして、それ以上にそれらを繋ぎ合わせた人の”縁”とは一体、なんなのだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!?!??
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!あ、あまりにも凄すぎる!!こんなのは、新学期を通り越して私という支配からの卒業一直線ではないか!?」
縁の自由研究による衝撃で白目を剥いたまま盛大に吹き飛ばされながらも、鉄子が絶叫する。
しかし、すんでのところで左手で窓にしがみつきながら縁の方を睨みつける。
「――だが、模試山 縁よ。お前は間違っている!!……過ぎたる力は、身を滅ぼすぞ!!」
その叫ぶのと同時に、左手を離す鉄子。
縁達が何かを言うよりも早く、「先生、知りませんからね!!」という予言じみた言葉を残しながら鉄子が職員室へと吹き飛ばされていく――。
縁による完膚なきまでの自由研究提出を目の当たりにして、沸き立つクラス一同。
課題をほぼまったく出来ていなかったケリー、瑣吉、エテ吉だけでなく、夏休みの宿題をしっかり終えられた大多数の生徒達、実は自分もまだ出来ていない分があって密かにビクビクしていた生徒などもいたが――皆一様に、この出来事に歓喜し、祝福していた。
皆に見守られる中、助けられる形となった三人が縁へと向き合う。
「今回は助かったぜ、縁!!礼と言っちゃなんだが、お前が嫌な奴に絡まれたら俺が自慢の極悪拳法でそいつをぶっ飛ばしてやんよ!!」
「あんがとな、縁!!……この現代社会において伝説を刻めるのはなろうユーザーのみと思っていたが、こんな身近に俺と同じくらい”漢”の文字を背負えるようなヤツがいるとは夢にも思わなかったぜ!」
「此度も礼を言うぞ、縁。……オイラ達は正道に準じて、課題を終えられなかった罰を受けることになるだろうが、お前さんが示した魂の在り方を誇りに思うよ」
瑣吉の言葉を受けて、しんみりするクラス一同。
――そう、クラス担任である鉄子を退けたところでそれは一時的なものに過ぎず、『いまだ三人が夏休みの宿題を終えていない』という事実はなんら変わりはしないのである。
そんな残酷な現実を前に、勝利を掴みとった縁ですらうなだれていた――まさに、そのときである。
「あっ!?なんだ、これは!」
一人の男子生徒が、宙を指さす。
みながいっせいに顔を上げると、そこには眩い輝きを放つ粒子が教室内に漂っていた。
やがて、それらはこの教室内の生徒に等しく降り注いでいく――!!
「うわ~~~っ!!よくわからない力に包まれながらも、自己肯定感の高まりと”大丈夫”という確信に満たされていくようだぜ~~~!?」
「助けてー!!特に困っている感じはしないけど、なんだか無敵モードで今ならなんでも出来ちゃいそう!!」
「ち、ち、ち~~~んwww」
皆が軽くパニックになりかける中、一人の女子生徒が声を上げる。
「待って、みんな!これは”連鎖合格”反応よ!!おそらく、模試山くんの自由研究があまりにも凄すぎたから、余った力が粒子となって他のクラスメイトの足りない課題分まで”合格”の基準に引き上げてくれているんだわ!!」
「~~~ッ!?れ、連鎖合格だって!!……話には聞いていたが、まさか本当に実在したのかよッ!!」
見れば確かに漂う粒子は角度によっては兼六園の荘厳さや琵琶湖の雄大さ、長岡花火の華やかさを彷彿とさせる多彩な色合いを放っているようであった。
縁の自由研究を通じて皆で到達することが出来た素晴らしい景色。
そんな縁を讃えるように、クラス全員が歓喜する。
「こうしちゃいらんねぇ!!こうなったら"漢"の文字を背負いながら、縁をみんなで胴上げだッ!!」
「他の誰にも似ていない、己だけの道を往け……縁よ、お前さんの生き様に"真実"の形を見たりッ!!」
「ちょ、ちょっとみんな!夏休みが終わったのに、はしゃぎすぎだよ!!――だけど、本当にありがとう!!」
そう嬉しそうに言いながら、クラスメイト達から盛大に胴上げされる縁。
開け放たれた教室の窓からは、いまだに暑いものの爽やかな一陣の風とまばゆい陽の光が差し込んでくる。
……これほどの縁を紡いだクラスメイト達であっても、大人になってしまえば別々の道を歩き始めて離れる時が来るかもしれない。
だが今だけは、この瞬間こそがすべてだと言わんばかりに。
現代社会も異世界も江戸時代の境界すらも越えて。
――この澄み渡った青空は、どこまでも広がっている。
『思いっきり楽しめるのは今しかない!!とっておきの夏休み♡ ~終わらない自由研究~』 ~完~




