第七話 連なる歴史と重なる聖地 ~必然に導かれしもの~
ここまでメモを取ってから、ふと縁の鉛筆が止まった。
いや、それも正確ではないのかもしれない。
彼の動きは停止したのではなく──文字通り弾かれた。
メモ帳の上で鉛筆が跳ねる。
まるで手が自分の意志を持ったかのような動きに、縁の瞳孔が開く。
「──あ」
小さな声だった。
だがその一声の中に、これまでの聞き取り時間の沈黙より多くのものが詰まっていた。
メモ帳に書かれた三つの都市の名前を凝視する縁。
――金沢。草津。新潟。
――神聖都市。発展都市。外法都市。
――……そして、源太郎が語ってくれた三つの物語。
……藤五郎の泉。……天日槍命の技術。……酒呑童子の謎。
刹那、縁の脳内でそれらの線が超高速で一気に繋がっていく――!!
「そ、そうか……すべては、そういうことだったのか!?」
「……どうしたんじゃ、縁坊?」
縁の尋常ならざる雰囲気を前に、戸惑いの声を上げる源太郎。
それに答えることなく、縁がメモする手順すらかっとばしたかと思うと、必死に勢いよく自由研究ノートへと書きなぐっていく――!!
「金沢を舞台にした『ラブライブ!蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ』!滋賀県を舞台にした『さよならララ』!そして、新潟県を舞台にした『君と花火と約束と』!!――この短期間に、これらの聖地を舞台にしたアニメ作品が公開されたのには、もしやなんらかの意味があるのでは!?」
縁の瞳孔が極限まで開いている。
それはまさに覚醒の象徴という他ない代物であった。
「ララときみはなの聖地は草津と新潟じゃなくて、大津と長岡じゃぞ?」
冷静に事実を指摘する源太郎だったが、その声も今の縁の耳には入っていないようである。
縁はこれまで集めた情報と自身の脳内で組み立てた理論をもとに、一心不乱に研究ノートを書き殴っていく――。
そうして、どれだけの時間が過ぎたのか。
とにもかくにも、まさに酒呑童子を彷彿とさせる鬼気迫る表情をしながら、縁は自由研究を完成させた。
「源太郎さん」
開ききった瞳孔のまま、縁が呼びかける。
「今日は手伝って頂き、本当にありがとうございました。金沢も草津も新潟も貴重なお話を全部聞けてよかったです。――自由研究、これにて完了です!!」
――『令和小学生奇譚・自由研究~どのようにして金沢・草津・新潟は世界三大都市になったのか?~』
紛れもなく縁がこの短時間の間で仕上げた成果を前に、思わず息を飲む源太郎。
圧倒されるしかなかった源太郎を尻目に、正座で痺れた足すらもなんのそのと言わんばかりに縁が雄々しく堂々と立ち上がる。
――すべては、夏休みの期間中に終わらせるためだけではなく、大切な友を救うため。
そんな縁の悲壮な覚悟を宿した瞳を見て、思考するよりも先に源太郎の口が勝手に動く。
「──東洋へ向かい、その神秘を見よッッ!!」
源太郎の声が、縁側の静けさを切り裂いていく。
――蝉の声が一瞬止んだ。
――池の鯉が驚いて水面を跳ねた。
――風鈴が激しく鳴った。
……それは、何の意味もない喝だった。
東洋? 神秘?
源太郎自身、なぜそんなことを言ったのかわからなかったが……縁の目があまりにバッキバキに冴えわたっていたので、何か言わずにはいられなかった。
言ってしまえばただの意味のない老人のたわごとに過ぎないにも関わらず、縁は「ハイッッ!!行ってきます!!」と勢いよく返事をしたかと思うと、ここに来た時同様に颯爽と駆け出していく――!!




