第四話 カッコよさの極致と極悪拳法の神髄 ~至高の領域~
「――この、文化系気取りどもが!!お寒い正義を語ったところで、圧倒的な”暴力”という現実の前ではお勉強や綺麗ごとなんざ無力で無意味で無価値なんだよぉッ!!」
しびれを切らしたエテ吉が、瞬時に前衛であるケリーと瑣吉へと迫る!!
「極悪拳法奥義!”けたぐり小学生”ッ!!」
圧倒的な威力をともなったけたぐりによって、二人のノートがガガガッ……!!と勢いよく削られていく。
そんな中、苦悶の表情を浮かべつつも瑣吉がふところからあるものを取り出す。
「やむを得ん。貴重なオイラの成果ではあるものの……ここで躊躇って友を見捨てるような真似をするのはまさに”義を見てせざるは勇無きなり”というものだな!!」
瑣吉が左手に掲げたもの。
それは表面に”義”の文字が浮かび上がったひょうたんであった。
それにより、自由研究に挑もうとする友のために立ち上がり、他者の懸命な祈りと努力と成果のすべてを挫かんとする悪に立ち向かうために”義”を成そうとするケリーと瑣吉の能力が大幅に底上げされていく――!!
「な、何ッ!?……コイツ等、これまでとは格段に動きが違うぜ~~~!?」
「なんだよ瑣吉!こんな便利なものがあるなら、もっと先に使ってくれても良かったんじゃないか!?」
エテ吉の眼前で高速で今期アニメキャラのエッチなお姉さんキャラをまとめたページをパラパラめくりながら翻弄している間にも、そのように軽口を叩くケリー。
それに対して、瑣吉が「馬鹿を言うな」と答える。
「オイラが育てたひょうたんは無条件で使用出来るものではなく、それに応じた正道を示さなければ効果を発揮しない代物なんだ。……ましてや、今持ってきてるひょうたんは出来栄えが良かったからみせびらかすために持ち歩いていただけで、そこまで数はないんだ。ここからは慎重に挑むぞ」
「おぅ、まかせろッ!!」
そう言うや否や、ダンッ!と文科系キッズとは思えないやんちゃっぷりで地を蹴ったケリーと瑣吉が、エテ吉を見下ろす形で宙へと飛翔する――ッ!!
「この一瞬のために――お前を”信”じるぞ、ケリーッ!!」
「ガッテン承知!!――一世一代の”漢”、背負わせて頂きますッッ!!!!」
新たにふところから取り出した”信”の文字が表面に浮かんだひょうたんを掲げる瑣吉。
そんな彼からの信頼を背負いながら、ケリーがエテ吉に向かって”漢”の文字を纏った背中を見せつける――!!
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?――あ、あまりにも、カッコよすぎる~~~ッ!!」
単なる格好つけとも違う、仲間の信頼を背負った”漢”の文字。
それを見上げたエテ吉が両目を押さえてうずくまりながら、盛大に地面をゴロゴロと転がっていく。
――どれだけ強がっていても、猿山 エテ吉という少年は虚勢を張ることでしか自我を守ることが出来なかった無力な、ある種どこにでもいそうなイキり小学生だった。
そんな悲哀を感じさせる光景を見やりながらも、ケリーと瑣吉が綺麗に着地する。
死闘を終えたばかりの二人に、縁が駆け寄る。
「スゴい……本当にスゴいよ二人とも!!まさか、あの傍若無人かつ暴虐の化身ともいえる猿山君をやっつけちゃうなんて!」
「おぅよ!――ケリー様による現代無双伝説はここからだズェ~~~ッ!!」
「今この時だけは天に恥じない生き様を示せたことを誇ってもバチは当たらんだろう。――そうだ、”勧善懲悪”の理は、確かにこの世にある……!!」
各々が安堵とともに勝利への感慨にふけっていた――そのときである。
「――これくらいで終わった気になってんじゃねぇぞ……お前らが拝むべきは日の光なんかじゃなくて、俺の背中だってことをすぐに思い知らせてやるよ、文化系気取りのナード丸出し雑魚野郎ども……!!」
声に気づいた三人がハッ、と振り向く。
そこには、立ち上がったエテ吉が朦朧とした眼付きながらも縁達をはっきりと睨みつけていた。
その眼光を受けて縁が怖じ気く中、ケリーと瑣吉は勝負がついたと言わんばかりに険しい顔つきでエテ吉に対峙する。
「もうそれ以上はよしておけよ。お前も既に限界だろ?」
「然り。この地において義は既に示されたのだ。猿山も悪あがきなど辞めて今からでも宿題に取り組みさえすれば、先生は叱りはすれどもその頑張りをきっと認めてくださるはずだ」
その後に「然りと叱りという言葉は似ている」と余計な一言を呟く瑣吉だったが、流石にそれは縁もケリーも反応せずにスルーする。
対するエテ吉は、「うるせぇよ……」と呟きながらも両手を高らかに掲げる。
既に満身創痍かつ距離も離れているため、この状態ならどんな攻撃をしてきたとしても――ページが既にボロボロで残りの数が少なくても、自由研究と瑣吉のひょうたんで対応することが出来る。
……だがその甘すぎる判断は、瞬時に崩されることとなる。
エテ吉は掲げた両手の指をすべて広げると――二カッ!と笑いながら、それらの指を勢いよく自身の胸板へと突き刺すッ!!
「これぞ、極悪拳法最終喝采術……”暴力最高”ッッ!!!!」
――最高。再構。さぁ、行こう。
……どこまでも響き渡り途切れることのない暴力への礼賛。
――刹那、世界が崩れる。
音を置き去りにして、エテ吉の姿が消える。
気づいたときには、白目を剥いて身体が倍近くにまで膨れ上がったエテ吉が、ケリーと瑣吉の眼前にまで迫っていた。
「~~~ッ!?クッ!!」
「ケリー、そして縁も!ぼさっとすることまかりならず!!」
動揺して動きが遅れたケリーと後方の縁を庇うように、瑣吉が礼儀作法に満ちた所作で”礼”のひょうたんを取り出し、丁寧に自身の自由研究を眼前に掲げる。
これにより、尋常ではない膂力と速度を誇るエテ吉の攻撃を”無礼”な振る舞いとして、その威力を削ぎ落すことに成功していた。
「ぐ、がは……ッ!?」
……その結果、自由研究越しの拳による殴打を受けて盛大に吹き飛ばされる瑣吉。
”礼”による減衰と自由研究による防御。
そのうえでこれだけの威力を誇る純粋な暴力の化身と化したエテ吉の攻撃。
……もはや、この戦いは小学生の域を超えていた。




