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第二話 なろう系テンプレと勧善懲悪 ~”イマドキッズ”と”ナルキッソス”という言葉は似ている~

 ケリーのノートの表紙に書かれたのは、『なろう系作品から学ぶ現代社会攻略法』というタイトルだった。


(タイトルはまともじゃん……)(何ならとっかかり方も含めて、わりと面白いチャレンジかも?)という思考が追いつくよりも早く、「なろう系・非なろう系を問わず今期のアニメ作品に出てくるエッチなお姉さんキャラ」「今期のアニメに登場したとっても強そうな敵ランキング」「今期のアニメで出てきたあまりにも凄すぎるチート能力」と項目ごとに分類された情報の羅列が怒涛のように押し寄せてくる。


「――えっ!?これ、攻略法でもなんでもなく単なるケリーが観たアニメの特徴を並べただけじゃないか!?」


 思わず口に出して驚愕する縁。


 だが、対するケリーは不敵な笑みを浮かべながら答える。


「へへっ……ストレスフルかつ時間も気力も足りない現代人にとって、最新作の情報を網羅したこの一冊は流行の話題についていくうえでこれ以上ない攻略サイトそのものと言っても過言じゃないはずだぜ!!大人も子供も課題どころか娯楽が溢れすぎたこの現代社会において、俺のこの書こそが時代の転換点になること間違いなしって代物だぜ!!」


 ……確かに最近は、つまらない作品に時間を使いたくないからネタバレ動画などを見て面白い内容だったらその作品を見る、という傾向の人もいるらしい。


 けれどそれを”なろうユーザー”になるために転移してきたはずのケリーが、自身の書いた作品ではなく既に世間に発表された既存の作品のデータをまとめたくらいのもので『世の中を変える』と言ってしまうのは――ケリーがこの社会にある変に目立った者勝ちの価値観に染まってしまったというか、小説を執筆せずになろうエッセイでやたらと持論を主張することに夢中になったなろうユーザーを見ているようで、やや本末転倒ともいえるものを縁は感じていた。


 ……とはいえ、冷静に分析したところで最初にケリーの課題を見せつけられた時の衝撃でだいぶ精神力を削られてしまった。


 ここから何とか持ち直そうとした縁に、とどめとばかりに瑣吉の正の手が迫る――ッ!!





『ヤバそう!ひょうたん発見伝』


 タイトルからして「なぁに、これ?」としか言いようがない代物である。


 そんな縁の僅かな思考の隙間をついて開かれるページの数々。


 それは、瑣吉が手入れをしている瓢箪の観察日記だった。


 この瓢箪は夏休みからではなく、なんと四月の段階から瑣吉が種まきをして取り組んでいた思った以上に真面目な取り組みだったのだが……途中から雲行きが怪しくなり始める。


「――オイラは育てているひょうたんに水と単なる栄養だけでなく、仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌の礼節を教え込むことで勧善懲悪を兼ね備えた天下無双の瓢箪を完成させることに成功したのさぁッ!!」


「ッ!?な、何ッ!!」


 不敵な笑みとともに勝ち誇った様子の瑣吉に思わず狼狽する縁。


 ノートを読み進めていくと確かに、瑣吉に礼節を教え込まれたひょうたんには八つの文字のどれかが表面に浮かび上がっており、植物でありながらそれらに対応した振る舞いや能力(すべてのベースである”仁”のひょうたんは攻守ともにバランスにすぐれたステータス、”智”のひょうたんはつるを介した情報分析ならびに共有が得意、”悌”は他の七文字のひょうたんの効果を底上げすることが出来る……etc)を発揮している様子が詳細かつ克明に添付された資料とともに記載されていた。


 ――間違いなく、これは凄い。


 ……だが、それ以上に拭いきれない違和感がある。


 ここまで来ると、例え勧善懲悪を兼ね備えていたとしても普通の瓢箪の在り方という正道を逸脱しすぎているのではないか?という疑問が縁の脳裏に浮かぶ。


 外法というのは言い過ぎかもしれないが、この瓢箪からは『他よりもスゴイものを作り出そう!』という功名心というか、それはひいてはありのままではなくとにかく目に見えてわかりやすい実用性を重視しがちな”現代社会しぐさ”とでもいうべきものが感じられてならなかった。



 ……とはいえ、それらも縁による個人的な感傷に過ぎない。


 現に、ケリーと瑣吉は小学生の自由研究としては十分なまでに課題を完成させているのである。


 これが自分と同じように夏休みの宿題に追われている同類だと思っていた――声をかければ「俺たちも終わってないよ!」という仲間意識すら生まれたかもしれない、という淡い期待が裏切られたことによる勝手な失望、既に出来上がった者達に対する僻み・やっかみの類でしかないことは他でもない縁自身が理解していた。


 ……これで、八月の残照に取り残されるのは自分のみ。


 圧倒的かつ残酷な現実を前に、膝をついた縁がすべてを諦めかけていた――まさに、そのときである。





 ――ドォン……ッ!!





 刹那、大地が震えた。

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