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crown taker  作者: 九JACK
知った気になっていたけど俺はまだまだ何も知らないただのガキだった
83/125

第83話「二人で主人公だ」

「夢、か……」

 健一朗さんが呟く。どこか寂しげな、諦めたような声色に、二人が不思議そうに彼を見た。

「健一朗はどんな夢を持っているんだ?」

 知実さんが聞くと、健一朗さんは苦笑いした。諦念にまみれた笑みだ。

「僕は、人並みの幸せを手に入れられれば、それでいいかな」

「欲がないな」

「慎ましいネ」

 じゃあサ、と希さんが健一朗さんと知実さんの首根っこを捕まえ、引き寄せる。

「私たち三人で幸せになろう!」

 希さんの言葉に健一朗さんが目を見開く。

 たぶん、健一朗さんは家族と幸せになりたかったんだと思う。母親が生きているように語って、母親が迎えに来てくれるのを待つようなことを言って。本当は出水の家などに引き取られず、母親と暮らしていたかったのかもしれない。その母親が死んでいるのだから、それは叶わぬ願いだ。健一朗さんが諦めたような表情をするのもわかる。

 けれど、その事実を知らないにせよ、希さんは新しい幸せを健一朗さんに提示してくれたのだ。それは友達と幸せに過ごすこと。

 知実さんも、笑っている。

「お前がどんなにつらくとも、あたしたちが必ず助けるから」

「知実……」

 そんな約束と共に場面がまた変わっていく。今度は階段の踊り場だ。健一朗さんが柄の悪そうな生徒にたむろされていた。

 踊り場って嫌な予感しかしないんだが、と思いつつ、流れてくる音声に耳を傾けた。

「いいなあ、オマエ。佐倉知実と新乃希だっけ? 女の友達が二人もいて、両手に花だなぁ? それとも友達じゃなくてそういう関係?」

「うわ、サイテーじゃん」

「だってコイツ愛人の子だろ? 二股くらいしそうじゃん」

「言えてる」

 うわあ……すごい頭の悪い言い掛かりだな。ここまで露骨だと真顔になってしまう。

 隣の五十嵐が凄まじい怒気を放っているのでほどほどにしてほしい。俺も聞いていて気分のいい話じゃないし。

「ってかコイツいつも女に守られてんの! なっさけねー!!」

「佐倉はこんなヤツのどこがいいんだかねー。オレたちのがよっぽどイケてるっしょ」

「おいおい、冗談は顔だけにしろよ、醜男」

 その男子たちの背後からぬっと現れたのは知実さんだった。通りすがりのようで、手には教科書などを抱えている。移動教室だろうか。

「あ? 今なんつった?」

「冗談は顔だけにしろよ、醜男、と言った。我ながら名言だから、何度でも言ってやってもいいぞ?」

 ガンを飛ばしてくる男子に怯むどころかガンを飛ばし返してそう告げる知実さん。知実さんはわりとボキャブラリーがユーモラスなのは知っていたが、こういう喧嘩売るタイプの切り返しもできるんだな。

 完全にキレて血走った目で、醜男(笑)が知実さんに殴りかかる。醜男(笑)の拳は掠りもしない。知実さんはひょいひょい避けた挙げ句、足を引っ掛けて転ばせる。え、知実さんってこんなに身のこなしいいんだ。

「てめえ、舐めた真似してんじゃねえぞ」

「先に舐めた真似をしたのはどっちだ? 男尊女卑はもう古いぞ。大体、生き物は雄より雌が強いのが多いんだから、男尊女卑なんてしてる人間という種がそもそもおかしいんだよ」

「インテリ気取りか?」

「気取ってはいない。少なくとも貴様よりは頭がいいというのは事実だろうがな」

 もう一人が突っかかってきたのに対して知実さんが煽る煽る。男子は見る間にぶちギレて、知実さんに殴りかかる。

 まあ、頭に血が昇った輩の動きなど、知実さんを捉えられない。知実さんはひょい、と避けて、健一朗さんを自分の方に引き寄せて避けさせる。

「暴力しか能がないのか。学校としては遺憾な輩だろうな」

「うるせえ!!」

 すると、醜男(笑)が立ち上がり、知実さんと健一朗さんを突き飛ばした。後ろは階段だ。踏ん張れない。

「きゃあああああ!!」

 上方から女の子の悲鳴が聞こえてぎょっとする醜男(笑)たち。悲鳴を上げたのは、希さんだった。

「ったく、骨でも折れたらどうしてくれるんだ……大丈夫か? 健一朗」

「あ、ああ」

 希さんが能力を使ったのか、二人は無事だった。騒ぎを聞きつけ、教師がやってくる。醜男(笑)たちはやべ、と逃げていった。

 教師たちは知実さんの顔を見て「またこいつか」という顔をしていた。前科何犯なのだろう。

 生徒に突き飛ばされた、という証言を降りてきた希さんも説明してくれて、教師も信じてくれたようだ。これで健一朗さんへのいじめが和らぐといいのだが。

 教師たちに念のため保健室で休みなさい、と言われた知実さんと健一朗さんは保健室に向かう。希さんも付き添った。

 誇らしそうな眼差しを知実さんに向ける。

「すごい。さっきの佐倉サン、主人公(ヒーロー)みたいだった」

 その褒め言葉に、知実さんは明らかにかっこつけて「ちっちっちっ」と告げる。

「新乃の声と能力の手助けがなかったら、無傷では済まなかったし、教師にも信じてもらえなかったさ。だから、二人で主人公(ヒーロー)だ」

 希さんはその言葉に目を輝かせていた。

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