表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
crown taker  作者: 九JACK
知った気になっていたけど俺はまだまだ何も知らないただのガキだった
PR
84/125

第84話「そんなことあたしに言う暇あんなら健一朗を探せよ、馬鹿野郎!!」

 保健室に着くと、希さんは授業へと向かってしまった。知実さんは養護教諭のいない保健室で、どかっと清潔感のある白いベッドに横たわる。

「はは、授業バックレるいい口実ができたな」

「知実……」

 その堂々たるサボり宣言に健一朗さんは呆れを示したが、ふと気づく。

 ベッドに横たわった知実さんは足を組んでいた。ただ、それが不自然に見えた。組んだ手に頭を乗せ、足をクロスさせて寝転がること自体には何の不自然さもない。それは普段から知実さんを知っている者にしか気づけない違和。

「佐倉氏、上にしてる足が逆だな」

「なんでお前が気づくんだよ」

 横合いから正解を口にした五十嵐にツッコむ。

「寝るときにクロスするとき、椅子に座っているときにクロスするとき、無意識、自然体の行動だと、このどちらも上にくる足は同じになる。椅子に座っているときと逆だから違和感を覚えたのだが」

 こいつ、観察眼もやべえな。

 五十嵐の解説した通りだ。特に指定なく、足をクロスさせろと言った場合、人は自然と慣れた方の足、つまりは普段から上に置いている足を前に出す。利き脚云々という話があるが、それは人それぞれで違いがあるので割愛しよう。

 知実さんは足をクロスさせると、普段は右足が前にくる。つまりベッドで寝転んだ状態で上になるのは右足だ。だが、今の知実さんは左足を上にしている。

 気紛れだのその時々で違うだの色々意見はあるだろうが、俺は一つの可能性に思い至る。それはスクリーンの向こうの健一朗さんも同じだったようだ。

 回想のように先程の階段での一幕が映し出される。

 階段から落ちるとき、知実さんは健一朗さんを落下の衝撃から庇うために体をひねっていた。おそらく、希さんの能力が間に合わない可能性と、希さんの能力で全ての衝撃を殺しきることはできないからなのだろう。きっと、希さんの能力を毎日のように体感している知実さんだからこその咄嗟の判断だった。

 希さんは全力で能力を使えない。[天使フォーリンエンジェルス]とバレたくないからだ。重力操作であろう能力を使えば、二人の落下を和らげるだけに留まらず、二人を浮かせることだって可能なはずだ。実際、放課後の空き教室では机や椅子を自在に宙に漂わせてバリケードを作っている。知実さんと健一朗さん以外に見られていないからだ。

 希さんが全力を出せないなら、知実さんが自分のパフォーマンスでどうにかするしかない。階段から落ちたら最悪死ぬだろう。打ちどころが悪ければ。次点が骨折だろうか。

 それに比べれば、捻挫の一つくらい、なんでもないと知実さんは思ったのかもしれない。

 それが健一朗さんの精神状態には裏目に出た。


 僕は守られてばかりで何もできない。

 二人に何も返せないのに、どうして二人は僕を助けてくれるんだろう。

 二人を危ない目に遭わせるくらいなら、お父さんの言っていた通り、二人と関わらない方がいいんじゃないか? 二人と友達でいる必要はないんじゃないか?

 本当に情けないよ。女の子二人に守られて、自分には何の能力もないのに[天使フォーリンエンジェルス]の子どもだからっていい家の養子になって。僕自身には何もないじゃないか。


 そこへ、養護教諭が入ってくる。養護教諭はあのとき通りかかった教師から事の次第を聞いたらしく、二人がいることに理解を示した。

 養護教諭はごめんね、遅くなって、と人のよさそうな笑みを浮かべつつ、健一朗さんに声をかける。

「伏見くん。親御さんに連絡したら、念のため病院で診てもらうためにお迎えに来るって。担任の先生にはもう言ってあるから、今日は早退なさい」

 健一朗さんが目を見開く。彼はどこも怪我をしていない。どこも痛くなんてないのだろう。

 戸惑うように知実さんを見ると、知実さんはよかったじゃないか、と返した。

「よかった? 何が?」

「優しい親御さんでさ。お前、母親いなくなってから塞ぎ込んでたから、ろくでもない父親なのかと思ってたけど、こういうときにちゃんと心配してくれ」

「それは僕がただ、[天使フォーリンエンジェルス]の子どもだからだよ!! 僕そのものに意味はないんだ!!」

「け、健一朗?」

 保健室の空気を震わせるほどの咆哮に、知実さんが呆気にとられる。健一朗さんがキレたポイントがわからないのだろう。

 家族なんて、健一朗さんにとっては虚しいだけだ。

「……帰る」

「伏見くん、迎えはまだ」

「そんなのいらない。知実、怒鳴って悪かった。じゃあ」

「健一朗?」

 保健室の扉に手をかけて、健一朗さんはちら、と知実さんを振り返った。

「さよなら」

 別に何の変哲もない帰りの挨拶だ。けれど、知実さんは健一朗さんを一人にしちゃいけないと思ったのだろう。慌ててベッドから飛び降り、足に痛みが走って転ぶ。

「大丈夫かい? 怪我を」

「っ……」


 その頃、希さんは移動先の教室で、異変に気づいた。

「あれ、伏見クン……?」

 鞄も持たず、昇降口から出ていく健一朗さんがいた。

 授業が終わる頃、保健室に行くと、知実さんが男性に襟首を掴まれていた。何事、と身構える希さん。

「あの子がいなくなったのは、お前の、お前たちのせいだろう!?」

 男性の凄まじい剣幕に知実さんが臆することはない。逆に襟首を掴み返して、ガンを飛ばす。

「知らねえよ! でもな、そんなことあたしに言う暇あんなら健一朗探せよ、馬鹿野郎!!」

「言われなくても!」

「佐倉サン!」

 男性が知実さんを捨てるように放るのを見兼ねて、希さんが駆け寄る。男性は希さんのこともぎっと見下ろして出ていった。

 混乱したまま、希さんが問う。

「どういうコト? 伏見クンがいなくなったノ?」

「ああ。手分けして探すぞ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ