第59話「そういえばなんでお前は中二病なの?」
朝。
「あ、おはよう、咲原くん」
珍しい人物が家を出たらいた。倉伊だ。
「おはよう……って、倉伊の家近いのか?」
すると倉伊はんー、と言葉を濁した。
「まあ、近いといえば近いのかな……でも今日は途中で……」
「おはよう、咲原」
倉伊の後ろから現れたのは五十嵐だった。意外でもなんでもないが、倉伊が言いかけたことから察するに。
「二人で来たのか?」
「そうなんだ。たまたま会ってね」
「へえ……」
なんとなく、心がずきんとする。前々からそういう傾向はあったが、やはり五十嵐は、倉伊のことが……
それを本人に直接聞けない弱さも俺にはあった。たぶんだが、悔しいが、以前佐竹が俺に指摘した通りなのだろう。
「まあ、倉伊は仲間だからな」
その設定、まだ生きてたんだな。
倉伊は[憑依霊]の一件があるから、まだ禍根が残っているかと思ったが、五十嵐はさして気にしていないらしい。まあ俺もだが。
しかし、やはり五十嵐の中二病設定に巻き込むのはどうかと思うぞ。
そこでふと、疑問に思った。
「そういえばなんでお前は中二病なの?」
「私は中二病ではない。[万能な兵士]だ」
そう来たか。
だが、形勢はこちらに傾いている。倉伊も疑問に思ったのだ。
「[万能な兵士]って?」
そうなるよな。
五十嵐はいつも通り、crown takerを守るための兵士云々の下りを語って聞かせた。それは俺も承知していることだ。巻き込むなとは思うが。
「で、その[王]が咲原くんってこと?」
飲み込み早いなおい。
「確かに咲原くんって王様っぽいよね」
「どこがだよ」
横暴な振る舞いをした覚えはないし、天上天下唯我独尊なんて思想も持ったことはない。
「うーん、なんて言うんだろう? 人を惹き付ける力が強そう」
そんなことがあってなるものか。俺は能力が覚醒してから、佐竹に中二病と弄り倒された挙げ句、周囲にドン引きされて過ごしてきたんだぞ。それのどこにカリスマがあるってんだ。
……まあ、暗に[傀儡王]を指している言葉かもしれない。
倉伊にはまだ聞けていないが、超能力者だという疑惑がある。[憑依霊]に囚われていたときも、僅かながら自分の意思を保っているように見えた。それは[憑依霊]の強制力に逆らっていたことを示す。
五十嵐のように、強制力は強いが超能力者ではない事例もあるが、それは稀なケースだ。つまり、強制力を使える倉伊は超能力者である可能性が極めて高い。
更に言うなら、こいつが転校してきた時期と[憑依霊]、[殺刃鬼]がこの街に現れたのが同時期だというのが気にかかる。
……友人を疑いたくはないが。
「まあ、お前たちには話しておくべきか」
五十嵐はぽつりと呟き、語り始めた。
「私の親父はひどい男だった。DV野郎ってやつだ。そのせいで我が家の評判は悪くてな。小さい頃からいじめに遭ってきた」
五十嵐の口から彼女の過去が語られるのは新鮮だった。しかも内容は衝撃的なものだった。
五十嵐がいじめに遭っていた? 俺より遥かに人望の高そうな五十嵐が? 俄には信じ難かった。
「まあ、私の方は自分で解決できたからよかったのだがな……問題は、弟の方だった」
「弟?」
兄弟はいそうだな、とは思っていたが、実際にいると聞いたのは初めてのような気がする。
「ああ。白樺中学に通っているのだが、[DV男の子どもが大人になるとDV男になる]とか、謂れのないことを囁かれて、陰口を言われたり、無視をされたりしていたんだ。中学に入ってからそれはなくなったが、他人と関わることを厭い、人とのコミュニケーションを絶ってしまった」
ふぅむ、それは確かに問題だが……
「それが五十嵐が中二病になったのと何の関係が?」
「弟に寄らないやつらの意識改革のためだ」
何を言っているんだこいつ、と思ったところに言葉が連なる。
「姉である私が[変人]になって目立てば、[普通]に見える弟の周りには普通に人が集まるんじゃないかと思ったんだ」
それはあまりにも無謀というか、捨て身の作戦だった。
「あいつも死んだのだし、いつまでもあいつのことでうだうだ言われたり、振り回されたりするのは嫌だと思ったからな。それを振り払うための作戦だ。……上手くいっているかは、わからないのだが」
白樺中学と言ったら、ここからそこそこ遠い。五十嵐の家は黒輝山からそう遠くはないから、白樺中学への登校はかなりの距離になる。近くに他の中学がないわけではないのに。
けれど、近くの中学だと、いじめてきたやつがいたりするのだろう。それは俺でも嫌だ。まあ、佐竹に弄られるのが嫌でマイナー校の黒輝山に入学したのに佐竹と同じでは世話ないが。
珍しくシリアス顔の五十嵐。こっちが実は本当の五十嵐なのかもしれない。家族思いで、悩みと真摯に向き合いながら、日々を過ごしていく。せめてもの救いは、そのろくでなしの親父が死んでいることだろう。
「五十嵐さん」
俯く五十嵐に、倉伊が声をかけた。




