第124話「応援してるよ」
ぽん、と夢先生と手を合わせる。改めて思うが……
「これ、ハイタッチじゃないと駄目なんですか?」
「ダメじゃないケド、わたしが一番繋ぎやすいんだヨネ」
超能力者視点で制御しやすいと言われると、反論できない。やりやすさというのは能力を暴走させないためには重要なのだ。
と、まあ、そんな感じで俺は[空の街]に入った。いや、ノリが軽い。
どうやら、夢先生は俺のことはある程度信用しているらしい。そうでもなきゃ、こんな簡単に[空の街]への出入りを許してはくれないだろう。知実さんのことと、俺のことは切り離して考えているらしい。
るんるんで[空の街]を歩いていく。俺の隣ではあ、と大きな溜め息がした。
「す、すみません、ayさん。なんか、巻き込んでしまって」
「きみのせいではないでしょう。はあ。カナエはいつもこうですよ」
「そうなんですか?」
「ええ。いつも唐突で、思い立ったが吉日みたいな行動力で……強大な能力を持つと、性格もぶっ飛ぶものなのかしらねえ」
「ayさんの[超律者]というのも、名前だけなら、結構壮大な感じですけど」
「ははは、そんな大したことじゃないよ」
歩いていくと、夢先生がファミレスっぽい建物に入っていく。ファミレスだった。
ただ、人の入りは少ない。[空の街]に何人住んでいるのかは知らないけど、許可制なら、人数は思うより少ないようだ。
「何名様でしょうか?」
「三名です」
「では、お席にご案内致します」
本当にファミレスみたいだな。メニュー表もあるし、呼び出しのボタンもある。
「これも全部夢先生のの」
「しぃーっ」
夢先生の能力に感嘆していたら、夢先生に口を塞がれた。
「わたしが長ってことは一部を除いて秘密なの。もし、どこかからバレたら、咲原クンと同じで、殺し屋に狙われちゃう」
なるほど。[空の街]にいるのは訳アリの人間ばかりだ。中には殺し屋に狙われている者もいるだろう。ターゲットが最強の隠れ場所の中にいるなら、その場所の管理者をどうにかするしかない。この場合、管理者は夢先生だ。
夢先生が死んだら、[空の街]がどうなるのかわからない。だから安易に情報を公開しないのだろう。その点、俺は知ってしまったイレギュラーなのだ。
信頼されている分、それに応えなければならないとは思う。
「で? で? 咲原クンの意中の相手はド・ナ・タ?」
いきなり本題かよ。というか簡単に答えると思っているんだろうか。
「黙秘で」
「なんてネ! リオウの娘デショ」
「んな!?」
お冷を飲んでいたayさんが軽く口元を押さえる。しまった。図星なので滅茶苦茶わかりやすい反応をしてしまった。
「それでそれで~? コクった?」
「カナエ。野暮なことはお聞きでないよ。告白は告白としてちゃんとやりたいんだろう。カナエがどうして私を誘ったのかも見えてきた。大方、この子とリオウの娘とやらをくっつけたいんだろう?」
「え!?」
思わず大きな声が出る。まさか、応援されるとは思っていなかったから。
でも、そこにどうしてayさんが絡んでくるんだ?
「私の[超律者]の能力は、どんなものもまるで運命的、奇跡的であるかのように、演出すること、なんだ。HITOKATAeyesの楽曲が不思議な魅力を持っていると言われるのも、私が編集してるから」
「能力を使って、曲を作ってるんですか?」
「そう。卑怯なやり口かな?」
問われて、俺は首を横に振る。持っている能力を何かに活かせるのは一種の才能だ。同じ能力を持っていたって、ayさんと同じく音楽に活かすかはわからない。そこはみんな違っていいと思う。
俺の能力だって、社会に溶け込ませることができれば……と一瞬考えたけど、それは土台無理な話だ。命令強制能力なんて、碌なことに使えないだろう。
「羨ましいです。そういう、人を喜ばせるために力を使えるなんて。俺は全然で」
「まあ、能力なんて、持ちたくて持つものではないしな。それで引け目を感じるのは違うが」
「別に、五十嵐に引け目なんて感じてないですよ。ただ……」
告白みたいなことをしてしまった、という話を口に出した。なんだか誘導された気がしないでもないが、まあいい。夢先生タイプの行動力と、ayさんタイプの誠実さには敵わない。タチが悪いのは、夢先生がそれをわかって、キューピッドごっこをしていることだ。まあ、相談できる相手もいなかったし、ちょうどいいと利用させてもらっている。
夢先生がひゅうひゅう言っているのが喧しいが。
「なんで、告白ということにしなかったんだ?」
うぐ。ayさんも結構ぐさぐさくるなあ。
「勢い任せで言った言葉……というか、告白のつもりじゃない言葉を、告白にしたくなかったんですよ」
「なるほど」
「あれれ? 咲原クンってば、ロマンチストだな?」
そうですよ! これがいばら姫派の男子です!
「それなら、尚更、アイたんを頼りなよ」
「嫌です」
「即答」
ayさんの能力の詳細を聞いて、より頼るわけにはいかなくなった。
「ayさんの能力で演出してもらうのって、俺が[傀儡王]で『好きになれ』っていうのと同じじゃないですか。そんなの嫌ですよ」
俺が宣言すると、夢先生はぽかーんとしてから笑った。
「あっははは! やっぱりロマンチストじゃん!」
「ちょっと! 静かに」
くふくふと笑う|夢先生に、俺は周りの目が気になった。幸い、店内に人は少ない。よかった。
でも、ayさんまで微笑ましそうにしているので、恥ずかしいことに変わりはないです。はい。
「応援してるよ」
「叶うといいね」
謎のエールをもらって、俺は二人に頷いた。
改めて、決断する。五十嵐のことを幸せにしよう、と。




