第123話「告白みたいだな」
俺の言葉に、五十嵐は呆気にとられたように目を見張った後、くつくつと笑った。
「なんだか、告白みたいだな」
指摘され、俺は顔が急激に熱を持つのを感じた。
しまった。伝えることに必死すぎて俺めっちゃ恥ずかしいこと言ってた!? 恥ずかしいっていうか、青臭いっていうか……あーっ、意識したら滅茶苦茶恥ずかしくなってきた。
五十嵐に幸せをたくさん与えたいってなんだ。確かに思ってるけど、マジでガチめの告白じゃんこんなの。そりゃ、五十嵐をそういう意味で好きだけどさ! そういう告白は告白でちゃんとしたかったよ! こういう勢い任せの熱弁が告白になるの良くないよ!
せめてもの救いはここが学校じゃなかったことだろうか。学校だったら佐竹辺りを筆頭に全員からいじり倒されたかもしれない。いや、店内で奥様方のひそひそ声が聞こえるよ。あーっ、この店には五十嵐母がいるんだった! 完璧に聞かれてたよ! 傷の深さがとんとんだわ。
だが、待て、落ち着け、咲原唯人。ここで勢いのままに本当に告白ってことにしてしまう方が最低じゃないか? 告白きちんとしたいって思っているからこそ、ここは告白じゃなくて、五十嵐にそうあってほしい、という姿勢を貫き通すべきではなかろうか。
「真剣な話なんだ。茶化さないでくれよ」
言った! 偉い、俺!
「悪い悪い。本当に告白されてるみたいでその……つい、照れてな」
っ……あーーーーーーーー……心臓止まるかと思った。
五十嵐が、あの五十嵐がほんのり頬を赤く染めて、ガチの照れ顔するんだぜ? 死ぬかと思った。顔のいいやつの照れ顔って急に来ると心臓に悪いな。
いや、ヤバい。俺これただの五十嵐のオタクじゃん。お冷やを飲んで落ち着こ。
「釜玉二つ、お持ちしました」
穏やかなにこにこ笑顔の乙奈さんがお盆を持ってやってくる。この雰囲気、絶対さっきの聞いてたよな。
乙奈さんってしっかり大人の女性なんだなっていう反面、佐竹みたいに色恋の様子をからかうところがあるんだよな。口達者な方の五十嵐でさえ、乙奈さんには言い返せないみたいだし、俺もからかわれたら憤死しそう。
けれど、乙奈さんは何も言わず、そのまま去っていった。それはそれで気まずいというか。
「あの、だから、その」
言い淀むなよ、カッコつかないだろ、俺。
「五十嵐だって、嫌なことは嫌って言っていいし、気まずいときは人と距離置いていい。自分の気持ちを大事にして、しんどいときは、話聞くから、っ」
喉に言葉がつっかえる。
言ったことのない言葉だからだ。俺を頼ってくれ、なんて。
ちょっと図々しいかもしれない。あの五十嵐舞華相手に俺を頼れとか、身の程を弁えろとか言われるかもしれん。
でもさ、やっぱ。
「そのときは、俺を頼ってくれ」
好きな子にはこれくらいのカッコはつけたいわけで。俺もそれくらいは思うお年頃なわけで、男なわけで。
五十嵐が好きなわけで。
「さ、冷めないうちに食べよう」
飲み込んではいけない言葉を飲み込まずに言い切った。だから、もううどんを啜ってしまおう。変なことを言ってしまう前に。
この言葉を告白にしてしまう前に。
「咲原」
五十嵐が俺の名前を呼ぶ。あっぶな、うどん口に含んでたら、絶対に喉に詰まらせてたよ。
「な、何?」
恐る恐る五十嵐を見ると、五十嵐は見たことがないくらい笑顔だった。
「ありがとう」
ああ。
あーあ。
これが恋なんだって思った。
五十嵐が俺のことをどう思っているか、なんて怖くて聞けない。甲斐性なし? 五月蝿いやい。
俺の五十嵐への気持ちが、自分でもドン引きするほど本物で、怖いんだ。だって初恋だし。
五十嵐にまた笑ってほしいとか、泣かないでほしいとか、俺以外のやつに親切にしないでほしいとか、わけわかんないくらい醜い気持ちが自分の中でぐるぐる渦巻いて、食べた釜玉は醤油をかけすぎたくらいしょっぱかった。美味しくいただきましたけどね。
叫び出したいような気分だけど、気軽に話せる相手もいないし。
「さーきはーらクン♪」
そんなとき、最近よく聞く声がした。
「夢先生」
「やあやあ少年、随分悩み深そうじゃない? ここは遠慮なく大人の胸を借りたまえ」
無い胸を張るな。
危ない危ない。女の人にセンシティブワード振るとぶっ飛ばされるよ。
まあ、夢先生は所謂合法ロリというやつなので、胸がないのは仕方ないのかもしれない。俺が小学生の頃から変わらずつるぺただ。
それはさておき。
「咲原クンの波長から、甘酸っぱい匂いがするんダナー♪さては恋をしておるじゃろう?」
「ぐっ」
「あ、図星?」
くっそう……波長って匂いするのかな? それとも俺の態度が露骨だったか?
「仕方ないナ~、悩める青少年の相談に乗ってあげよう!」
夢先生がじゃーん! という。
「アイたんが!!」
自分じゃないんかい。




