第125話「んまっ、坊っちゃまったら、おませさんでございますわね!」
「それでそれで? 五十嵐にコクったのかよ?」
「うるせー」
翌日、俺は案の定というか……佐竹に絡まれた。俺や五十嵐がいなくても、クラスの合唱練習は回ったらしい。良いことだ。だが、佐竹は俺が五十嵐を連れ出したことを目敏く嗅ぎ付け、俺に迫っているわけだ。
惚れた腫れたは女子の分野じゃなかったのか。
「コクってねえよ。あと声でかい」
「コクれよ、そこは!!」
「あーーーーーーーーーっ!!」
[傀儡王]を使って「黙れ」と一言言えば済むのだが、超能力を多用するのは良くないし、気分も良くなくなるから、使わない。ただ、本当に五月蝿いなこいつは。
まあ、佐竹のことを言えないくらいの声量で遮りましたけども。見ないでくれ……
「わっかんねーやつだな。五十嵐は五十嵐でモテるんだぜ? そんな五十嵐とそこまで仲良くて、何を躊躇うんだよ」
「五十嵐と仲はいいよ。けどそういう仲いいじゃないじゃんか」
「そういうとは?」
「こ、こう……その……恋愛、的なアレ」
「んまっ、坊っちゃまったら、おませさんでございますわね! んもー!」
「その口調キモいぞ、だいぶ」
「ひでえ」
相変わらずの軽口の応酬である。が、佐竹は気づいているんだろう。俺がそこそこ五十嵐にどっぷりってことに。
そりゃ、男なら玉砕覚悟で告白すべきだと、俺も思う。俺だってそうしたいけど、無意識告白はノーカンでしょうが!
「無意識告白したんか」
俺の告白に佐竹が唖然とする。その沈黙は昨日の五十嵐の「告白みたいだな」の瞬間を彷彿とさせるほど。恥ずかしい。
「五十嵐に指摘されて気づいたわ。本当、危ねー……」
俺の言葉に、ふむ、と考え込む佐竹。いや、黙るな黙るな。このタイミングで深刻そうに黙られると気まずいだろ!?
と、そんなところで、いつも空気のカロンこと、知実さんの発明品、小バエ型探知機が佐竹の肩にぴとっと留まる。な、なんだ? 佐竹に気づかれて潰されても知らんぞ?
『いや、バレバレではあったけど、無意識とはいえ告白まで行くとはな……咲原、本気なんだな』
そこはかとなく失礼ですね!? と佐竹の声にツッコもうと思ったが、これはもしかしなくても、カロンの同調能力……!?
そういえば、知実さんがたまにかちゃかちゃ弄っていたけど、こんな機能追加してたの!? 言えよ!?
し、しかし、これはこれではずいな……相手の声が聞こえる、しかも普段浮かれた佐竹の真面目声を再現とか。
これ、もはや、カロンそのものが超能力みたいだな。知実さんにレビューしとこ。
それはさておき、だ。
「なんで、お前はそんなに俺にかまうんだ? そこまで暇じゃないだろ」
「えー、わかんねえ? 同中の同級生がお前くらいしかいないからだよ」
まあ、それは確かに。
というか! 俺は、よりにもよってこいつが!? とずっと思っている。別に他の学校だってあっただろうに。
「お前の側が一番面白いって思ったからだよ」
「人を面白がるな」
「いてっ」
通常運転の佐竹すぎて、俺は佐竹にデコピンをした。お前に面白がられるために、俺は存在するんじゃねえよ。
とは思うものの、カロンが送ってくる、佐竹からの優しい波長で何も言えない、奇妙な気持ちになる。
佐竹が俺に絡むのも、理由は知らんが、ちゃんと目的あってこそのことらしい。
「それはそうと」
「はい?」
佐竹が油断していた俺の首根っこを引き寄せ、囁き気味に尋ねてくる。
「告白でなんて言ったんだよ? あ、本気で言うつもりの方でもいいz」
思い切り、佐竹の顔面に拳を入れた俺は悪くない。悪くない。
「今日も二人は仲がいいね」
そこへ舞い降りたのは、天使も裸足で逃げ出すような美貌の持ち主、倉伊。うーん、目の保養。ただし、発言の意味がわからない。
「え、どの辺が?」
仲のいいやつは顔面をぐーで殴ったりしないと思うが。
倉伊はきょとんとしてその碧眼で俺を見つめ、ゆっくり、こてん、と首を傾げる。かわいいか?
「咲原くん、他の人とは話しづらそうにしてるのに、佐竹くんとは普通に喋るから」
「そりゃまあ、付き合い長いからな」
意識はしてなかったけど、それが仲良く見えるものなのか。なるほど。
「それに、佐竹くんも楽しそうだし」
「ははっ、咲原はおもしれーやつだからな」
「それは僕も思う」
え、俺ってそんな面白おかしいかな? まさか倉伊にまでそう思われているとは。
「合唱コンクール、楽しみだね」
「揉め事が起きないといいんだが……」
「咲原くん、ちゃんと対処できてるんだから、自信持ってよ。五十嵐さんのフォローもしてくれて、助かってるよ。僕にはできないから」
倉伊の言葉に、佐竹がきょとんとする。佐竹にはまだ説明していない。というか、誰彼に吹聴できるような内容ではないだろう。倉伊と五十嵐の関係は。
腹違いの兄妹、なんて話、簡単にできるもんか。その辺、五十嵐も倉伊も、飲み込めてないし、距離の取り方に戸惑っている様子が散見される。無理もない。二人の父親はろくでもない男で、到底自慢できるものではないし、その因果のせいで、二人共、普通の生活を送れていないのだ。親の不倫でできた兄妹同士だなんて、複雑以外の何者でもない。
ふと、五十嵐が、倉伊を気にかけていた一時期を思い出した。倉伊が転校してきてから、妙にアプローチをするから、もしかして、倉伊に気があるんじゃないか、とやきもきしたものだ。血の繋がりがあるとわかった今、五十嵐の心境は、どんなものなのだろう? 気にはなるが、聞く勇気はない。安易に触れてはいけない部分だとわかるから。
「ま、倉伊も転校してきたばかりだし、その辺は気にすんなよ。咲原たち以外とも、ちゃんと関わるんだぞ? 中二病が移るからな」
「俺は中二病じゃない」
五十嵐の発言が中二チックなのはわかるが、俺は違うぞ。
といっても、佐竹は聞きやしないんだろうな。なんか、諦めの境地に達したような気がする。だが、何度でも言おう。俺は中二病じゃない。
「はいはい。まあ、交流は多いに越したこたぁねえだろ。とりあえず、中二ムーブは控えめで頼むぜ、指揮者さん」
「中二ムーブってなんだよ。ったく……」
そんな他愛ない話をしているうちに、予鈴が鳴った。そういえば、五十嵐が話しかけてこなかったな、と気づく。まあでも、そんな日もあるだろう、と俺はホームルームに耳を傾けた。




