↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
crown taker  作者: 九JACK
慌てない慌てない、一休み一休み
PR
116/125

第116話「ローをどうか、嫌わないで」

 リーンズの言葉に、渋々といった様子で女性が姿を現す。超能力者でないのはわかった。害意がないようだし、リーンズが何も言わないから大丈夫なのかな、と思っていたのだけれど。

 その婦人はとてもやつれていた。ただ、その表情の冴えなさとは対照的なまでに目に焼きつくような真っ赤な髪をしている。オーバーサイズであることが一目でわかるだぼだぼとしたワンピースを着ていて、その人物が知実さんの言っていた超能力研究の先駆者とされるカーネーション女史だとは俄には信じがたかった。

 言っては悪いが研究どころか生きるのもいっぱいいっぱいなほどに生気がない。鈍い金色の瞳はどこかぼうっとしている。

 学校で倉伊が言っていたのを思い出す。倉伊の母が亡くなってから、精神を病んだという倉伊の保護者。その人もカーネーションという名前で、そちらの方がしっくりとくる佇まいだ。

「かーさん」

「……ロー」

 弱々しい声が倉伊に応える。無理して笑っているのがわかる笑顔が痛々しかった。倉伊はどんな気持ちでこの人を[かーさん]と呼ぶのだろうか。

 倉伊はカーネーション女史に微笑み、俺を示す。

「かーさん、紹介します。彼は咲原唯人くん。今通っている学校で、友だちになってくれた人です」

「はじめまして。倉伊にはいつもお世話になっています」

 一応、挨拶はきちんとしないとな。第一印象は大事だし。倉伊と友だちを続けていくなら、この人と顔を合わせることもあるだろうし。

 こっちはついでだが、知実さんよりも超能力研究に精通しているであろう部分を教えてもらえれば万々歳だ。俺の求める内容をこの人が持っているかはわからないけれど。

 カーネーション女史は微笑みを引っ込め、真顔になる。

「……[傀儡王(パペットマスター)]咲原唯人」

 うっ……その肩書きで呼ばれると気まずいな……この人に俺を殺そうとか、そういう害意がないのはわかっているんだけど、[傀儡王(パペットマスター)]と呼ばれると、超能力者としての俺しか見てもらえていないようで複雑だ。

 俺が渋面を浮かべるのを見て、カーネーション女史の表情がふっと和らぐ。え、もしかして性格悪いですか?

「その肩書き、超能力殺し屋に追われることも多いでしょうに、ローの正体を知ってなお、友だちでいてくれるのですね。感謝します」

 ……なんてことはなかった。普通に我が子を案じるいいお母さんだ。

 母親、というものを思い浮かべると、やはり俺を盾に父親を金蔓扱いしていた実の母親が真っ先に出てくる。あまり気分のいいものではない。

 幼いながらに、俺には求める母親の理想像というものがあって、それがたぶん、このカーネーション女史のような人だったのだと思う。そんな温かさをこの人は持っていた。

 倉伊の母であるローザさんとは親しかったようだし、それを直接的に殺した倉伊に対して、思うところはたくさんあるだろうが、それを全部飲み下して、倉伊の保護者として、倉伊をこんな優しい子に育てた人だ。聖母と称しても過言ではないだろう。

「いえ、こちらこそ……倉伊とは色々ありましたし、これからも色々あると思いますけど、倉伊とはこれからも仲良くしていきたいと思います。よろしくお願いいたします」

 畏まってしまうが、俺にしてはコミュ障が発揮されてなくて、きちんと挨拶できたと思う。やればできるじゃん、俺。

 なんかちょっと自信がついた。佐竹が言っていた、いい加減克服しろよ、というのに、一歩近づけたような気がする。

 挨拶が済んだところで、リーンズがぽんぽん、と自分の隣を示す。

「とりあえずカーネーションもお茶飲んでいきなよ。咲原クン、次いつ来れるかわかんないしサ」

 さすが情報屋。誘い文句が上手いな、と俺は感心したが、カーネーション女史はふるふると首を横に振った。

「私は……咲原くんに、お願いに来ただけなの」

「俺に、ですか?」

 こくり、と頷き、その鈍色が俺の目を真っ直ぐ見る。

 それはなんだか、すがるような、乞うような、切なる願いを祈るような視線だった。目を逸らせなくなる。

 何をお願いされるのだろうか、と緊張していると、カーネーション女史は徐に口を開いた。

「ローをどうか、嫌わないで」

 それは切なる願いだった。同調能力で伝わってくる、倉伊の保護者としてのカーネーション女史の葛藤。それが精一杯込められた一言だ。

 カーネーション女史は倉伊に対して、深い慈愛を持っている。それと同時にどうしようもない憎しみを胸の中に抱え込んでいる。相反する二つの感情の狭間で、倉伊を愛しきるのはつらいのだろう。五十嵐李王への怨嗟の気持ちは膨大で、それが倉伊を苦しめることがわかっていても、呪うことをやめられない。そんな自分が本当は嫌で嫌で仕方ないのに、どうしようもないのだ。

 俺には[嫌わないで]という言葉が[愛してあげて]という風に聞こえた。こんな慈母のような人でも、倉伊を心の底から愛することができていないのだ。それを本人が自覚しているのも踏まえて、俺は悲しく感じた。

 だから、俺は頷いた。

「倉伊の身の上は、軽くですが、聞きました。李王さんのことも、呪いのことも。だからこそ、俺は、俺だけは、何があっても倉伊の味方で、ずっと友だちでいたいと思っています」

 倉伊が凄腕の殺し屋とか、そんなのは関係ないし、五十嵐に対してだって同じ気持ちだ。

 俺はカーネーション女史やリーンズと違って、李王さんへの呪いに関しては蚊帳の外もいいところだ。だからこそ、李王さん関係なく、倉伊という存在を気兼ねなく受け入れられることが俺の立ち回りなんじゃないかと思う。五十嵐に関しても。

 救いたいし、救われてきたから、その分を返したい。諸々の事情があって、李王め、と思うほど難しいことではあるけれど。

「俺は倉伊を信じていますから」

 決然とそう告げると、カーネーション女史は満足したように穏やかに笑い、その場から去っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。