第115話「他でもないあんたたちが、倉伊を呪ってるんだよ!!」
「わからないネ」
リーンズがティーカップを弄びながら言う。
「キミは第三者なのに、どうしてローくんたちをそう思えるノ? ローくんと出会ったのはつい最近だし、五十嵐マイカと出会ったのも、高校に入ってからデショ?」
把握されているのとか、もうどうでもいい。ここは俺の譲れないところで、譲ってはいけないところだ。
「時間だけが人との関係性を育む手段なわけじゃないですよ。こちとら、超能力のせいで友達作る暇もなかったんです。友達できたら嬉しさが濃縮されてるんですよ」
「それはいいケド。嬉しさが肩を持つ理由じゃないデショ。何か弱味でも握られてる?」
「弱味握って脅すような人と友人関係を築こうとは思わないです」
「それはまあ、そうネ」
なんだろう。この人本当、苛々するな。
「倉伊がいいって思ったから倉伊を選んだ。五十嵐がいいって思ったから五十嵐を選んだ。それだけじゃ駄目なんですか?」
「不愉快なだけダヨ。部外者に復讐者の気持ちはわからないし、復讐が達せられなかったボクたちの苦しみも、呪いを受けているローくんの苦しみもわからないサ」
へー、ほー、ふーん?
「さ、咲原く」
「ふっざけんなよ!!」
俺の心中を察したらしい倉伊が止めに入ってきたが、コンマ一秒くらい遅かった。
第三者第三者言われてぴきぴき来ていたけれど、俺はこらえていた。病み上がりじゃなきゃもうちょっとこらえられたかもしれないけど、さすがに堪忍袋の緒が切れた。
普段は出さないような大声が出る。だんっとテーブルを叩いていた。茶器が揺れる。
「不愉快なのはこっちだよ! なんだよずっと第三者第三者って。そうだよ苦しみわかんねーよ。だってその人の苦しみはその人のもんだろ? 同じ苦しみを味わうには同じ人生を歩むしかない。そんなの誰にもできっこないさ。そりゃ最近知り合ったばかりのぺーぺーにはわかりませんさ。でもさ」
一つだけ、はっきりとしていることがある。
第三者の俺でも、五十嵐李王の話をきちんと聞いていれば、理解できるような、簡単なことだ。それをこの人はわかっていない。
「もういない五十嵐李王のことを恨んで、呪ってるのはあんたたちの方だろ? 李王の子どもに生まれたために、倉伊も、五十嵐も、呪いに苦しんでる。つまりさ、他でもないあんたたちが倉伊を呪ってるんだよ!!」
五十嵐李王への恨みつらみが呪いとして累積して、倉伊や五十嵐といった李王の子どもを苦しめている。リーンズは李王を呪っているうちの一人だ。それはリーンズの恨みが倉伊たちの呪いの一部なわけで。倉伊たちはリーンズのせいで苦しんでいるといっても過言ではないわけで。
「第三者で結構! 俺は俺の大事な友達を呪いながら生きたくないよ」
叫びたいだけ叫ぶと、なんだか目頭が熱くなったが、泣くのはこらえた。俺のこれは暴言だってわかっていたから。
暴言を吐かれた方が普通は泣きたいだろう。見ればリーンズは驚きに目を見開いて、今にも泣きそうに顔をくしゃりと歪めていた。
わかっている。別にこの人たちは呪いたくて倉伊を呪っているわけじゃない。だからこそ厄介でやるせないのだ。本当に呪いたいほど憎んでいる相手は死んでいて、その行き場のない怒りたちが超常の力で子どもたちが苦しむ、なんて誰が予想できるだろう。
そうだね、つらいよねって寄り添うのは身近な人にしかできない。俺みたいな五十嵐李王を知らない第三者がつらかったよね、なんて寄り添おうとしても、言葉が軽くていけない。
「──咲原は、ロデオの呪いを解きたいと思うか?」
「え」
一瞬、誰に何を言われたのかわからなくて戸惑う。俺の名前呼び捨てするやつ少ないし、倉伊のこと下の名前で呼ぶやつもいないから。
倉伊が困ったようにその人を見る。
「葬儀屋さん」
「このままじゃ、何も変わらない。呪いは蓄積し続ける。それを止めないと、ロデオは死ぬ」
「死なせたくありません」
俺はすぐに答えた。
「倉伊も、五十嵐も、俺にとってはもう[いない]なんて想定ができないくらい大切な友達なんです。生まれがどうとか、そういうところは理解してやれないかもしれないけど、そんなことで死んでほしくない。そんなことで折れてほしくない。ずっと俺の隣で笑っていてほしい」
わ、やべ、言ってからめっちゃ恥ずかしい。こんなの告白みたいじゃん。よかった、一緒にいるのが五十嵐じゃなくて、倉伊で。
……と思って倉伊を見たら、その澄んだ碧眼とばったり出会って。あ、あれ? 倉伊顔赤いんだけど、気のせい?
「なんだか、告白みたいだね」
「言うなああああ! ただでさえ恥ずかしいんだからさあああああ!」
もう頭爆発しそうなレベルで熱くなっている。無理無理無理。倉伊、お母さん似だから頬赤らめている姿がなんていうか、美しいんだよな。やめてくれよ、破壊力の高い美貌の暴力……
「あははははっ」
すると不意にリーンズが笑った。
「咲原クン、なかなか言うじゃない。あー、ヨカッタ。こんないい子が、ローくんの友達になってくれたんだ」
しみじみと紡ぐ一言一言は、親のような、姉のような実感を放っていた。
「でもサ、リオウを呪わないっていうのはさすがに無理ダヨ。ボクたちはリオウを呪うコトで辛うじて精神を保っているようなものなんダ。ゴメンネ」
そこまで追い込まれているのか。五十嵐李王、予想を越える業の深さだな。
「で、カーネーションはいつまで立ち聞きしてるつもり?」




