第114話「五十嵐リオウがローザを殺したコト、誰も許してないからサ」
これは……どういう状況だ……?
友人の知人女性宅でそこそこ因縁の相手とテーブルを囲み、お茶を飲む状況。まあ、[空の街]に来たのは俺の意思だけどさ。まさか半田の義理の姉とも言える人を射殺した人物と呑気にお茶を飲むとか想像できたか? 半田が見たら怒髪天を衝かないか?
うーん、でも、半田は思ったより落ち着いている気もするんだよな。怒るのは半田ってよりやっぱり五十嵐か。
まあ、[空の街]を夢先生が管理している以上、健一朗さんと関わりのある半田を中に入れるとは思えないから、そこは深く考えなくていいか。
しっかし、何を喋ったらいいかわかんねえ。美星さん射殺の件は俺だって許せないし。でも五十嵐ほど怒ってるわけじゃないんだよな。お茶飲も。
「おいしっ」
お茶美味しくてびっくりした。うま。
リーンズが得意げに笑う。
「へへーん。依頼料でもらったやつダヨ。それに葬儀屋はお茶淹れるの上手いからネ」
「……一緒に住んでるんですか?」
「うん!」
うっわー、ものすごい笑顔。これはそういうことか?
パッと見の年齢が二十代そこそこの男女が一つ屋根の下で生活は邪推を禁じ得ない。とはいえ、ほぼ初対面の人間であるのにそこを引っ掻き回すほど俺は空気が読めないわけではない。
こういうとき、なんて言えばいいんだ?
「ええと……仲がいいんですね……?」
「そりゃそうダヨ。ボクと葬儀屋は幼馴染みだからネ! 葬儀屋が葬儀屋になる前からの付き合いサ」
「葬儀屋になる前?」
知実さんによると、人外専門の殺し屋[葬儀屋]というのは随分前から存在しているようだが、これも[空の街]みたいに引き継いでいく感じなんだろうか。
「あー、懐かしいな。葬儀屋、覚えてる? ブラインのこと」
「むしろお前が覚えていたことに驚きだが」
「失礼だナー! 情報屋のボクの記憶力を舐めてもらっちゃア困るヨ」
身内ネタらしい。倉伊を見るとぽかーんとしている。倉伊も知らない話のようだ。
「ブラインって誰ですか? [空の街]の人は把握してるつもりだったんですけど……」
「ああ、ローくん知らないか。たぶんニーノも知らないナ。葬儀屋の前に葬儀屋やってた葬儀屋の保護者ダヨ」
先代の葬儀屋だという部分しかわからなかった。葬儀屋の保護者とは?
「んとねー、葬儀屋は元々孤児なの。路地裏で生活してたのをブラインが拾って、[空の街]に連れてきたってカンジ?」
なるほどなるほど。[空の街]は表社会では生きられない人間の集まりだ。捨てられ子、孤児なんかはその最たるものだろう。未だに世には無戸籍児とかいるらしいし、外国では戦争もあるから戦災孤児とか生まれやすいんだよな。
平和な日本でさえ、児童養護施設なんてものが存在するわけで。[訳アリじゃない人間]は未来永劫いなくなることはないのだろう。
「というか、話してよかったんですか? 倉伊はともかく、俺は部外者ですよ?」
俺の一言にリーンズはんー、と少し悩んでから、にぱっと笑う。
「別に知られても何も問題ないしネ! 葬儀屋が孤児だってバレたところでそれ以上のコトはボクでさえ知らないワケだし、葬儀屋を特別恨む存在もいないし!」
軽いなー。
ただ、確かに、孤児なら一族郎党皆殺しってこともされないからいいのか? 仮に本当の親が出てきたところで、葬儀屋からすれば今更って感じだろうしな。
それにしたって情報屋がこんなに口軽くていいのかとは思うけれど。
「ボクの情報屋としての情報管理能力を疑ってるデショ?」
ぎく。
「ちゃんと話すべき相手、話すべき内容、話すべきシチュエーションを考えて情報を話してるんダヨ、咲原唯人クン。ボクがキミの前で色々話すのはキミのコトを信用しているからだとわかってほしいナ」
「信用ですか? ついさっき会ったばっかなのに」
それは却って信じられないのだが。
リーンズはノンノン、と指を振る。
「ボクは情報屋ダヨ? それに、キミの人となりについてはローくんから話を聞いていればわかるヨ。ローくん以外にもニーノと知り合いだし、あの五十嵐家とも健全な関係を築いているとくれば、いい子じゃない方がおかしいネ」
もしかしなくても、日常把握されてる!? っていうか夢先生は何を話したのさ。
あの五十嵐家……随分含みのある言い方をするじゃないか。この人も李王さんに何かされたクチなのだろうか。
いや、年の差。
「五十嵐自身は悪い子なんかじゃないです。身体能力が異常だけど、ただそれだけで」
「それでも五十嵐リオウがローザを殺したコト、誰も許してないからサ」
繊細な話題を持ってくるな。倉伊がいるのに。
倉伊は自分がローザさん……母親を殺したと思って、それを後ろめたく思っている。そりゃローザさんを身籠らせた李王さんにも罪はあろうってもんだが。
「アイツはあれだけローザに愛してるとか嘯いておきながら、身籠ったローザのところに一度も戻ってこなかった。ローザを捨てたんだよ」
俺はなんて言ったらいいかわからなくなる。
ローザさんが身籠った時期と五十嵐の母である乙奈さんが身籠った時期は大きく重なる。倉伊と五十嵐の誕生日はそんなに離れてないしな。
つまりは李王さんはローザさんではなく乙奈さんを選んだっていう、かなり最悪な結論が生まれるわけだけど。
「それで五十嵐まで恨まないでくださいよ」
本妻の子というだけでいいとばっちりだ。
けれど、俺を見つめ返したリーンズの目は強かった。
「だったら、ローくんのコトだって、恨まないでヨ」
「俺は恨んでません」
「それは第三者だからデショ? いいヨネ、気楽で」
ぐ、第三者と言われると何も言い返せない。
でも……
「俺は五十嵐のことも倉伊のことも好きなんですよ。二人共大事な友達なんです! それが親のことで俺からすれば見も知らない第三者に恨まれてるっていうのが気に食わないんです」




