第113話「下手に手出ししたら……」
「ローくんはこーんなちっちゃい頃から殺し屋しかしてなかったからね」
リーンズは腰くらいの高さを示して言う。リーンズは決して背は高くない。倉伊の方が高いくらいだ。足の長さは普通。となると、倉伊はかなり幼い頃から殺し屋をやっているということだ。まあ、[殺刃鬼]は有名だしな、と思うと同時、世界に名が轟くほど、そんな幼い頃から人殺しばかりしていたのか、と胸が痛くなる。
別に、人を殺す以外にもできることがあったはずだ。でも……
倉伊はそれを選ぶ権利を得られなかった。幼かったから仕方ないことなのかもしれない。
「学校行くってなったときは心配したヨォ~。周りと馴染めるか心配だったし、ローくん、これで天然だからネ」
「あ、それはわかります」
「天然って何? 天然水?」
そういうところだよ。
少し肩の力が抜けた。
「ええと、聞きたいことがあるんですけど、お金とか取られます?」
「んー、内容次第カナ。でも[傀儡王]に恩を売っておくのも悪くないと思うのよネ」
あ、しっかり強かなタイプの人だ。
まあいい。そういうスタイルの人の方が気兼ねなく要求を伝えられる。
五十嵐李王という巨大地雷源も踏まなきゃならないけど、いくらか楽だ。
「マ、とりあえずウチに来なヨ。こんな拓けたところで話すような内容じゃないデショ?」
それもその通りだ。超能力でできた街とはいえ、それが安心できる要因にはなり得ない。
超能力の世界だからこそ、口にするのが憚られるというのもある。俺の願いはまんまそれだ。[超能力を消したい]なんて、超能力に助けられている人たちからしたら、言語道断だろう。
リーンズは俺を案内して歩いていく。異空間隔離街すごいな。竹藪があるぞ。これも波長や強制力からできてんのかな。知実さんが来たら滅茶苦茶研究始められそうだな。まあ、管理者の夢先生が入らせないと思うけどね。
竹藪を過ぎると、あばら屋が見えてきた。
「もしかして、あれが家ですか?」
「ん、マーネ」
女の一人暮らしにあばら屋一つって、外だったらあり得ないな。人の家捕まえて言うのもあれだけど、おんぼろ感が半端ない。
いくら[空の街]暮らしとはいっても、家がぼろくて不安にならないのだろうか。超能力者は倉伊の他にもいるだろうし、情報屋って情報で売り食いしてるからなんかこう、恨み買いそうだけど。
「心配しなくても大丈夫だよ。リンさんには僕と[葬儀屋]さんがついてるから、下手に手出ししたら……」
お、おおう……親指を下に向ける物騒なポーズ。笑顔でやられると怖い。[殺刃鬼]にゴートゥーヘルさせられるの恐ろしく思わない猛者はおらんか。うんうん。
と、ギャップの倉伊に気を取られてスルーするところだった。
「[葬儀屋]って、半田のときの……」
「あ……」
倉伊が気まずそうにする。あのとき、倉伊はほとんど関わっていないんだけど、[葬儀屋]とも親しいみたいだから、話は行っているだろう。
俺はあのときはなんてやつだ、と思ったけど、ほとぼりが冷めるには充分な時間が経っている。というかその間に死にそうになってたし、もう生きてるだけで充分かなって。
ただ、五十嵐は本当、連れて来なくてよかった。殴りかかるかもしれないから。
「やっぱり怒ってる? 田辺さんのこと……」
「俺はもうあんまり怒ってないけど……五十嵐は結構根に持つからな」
「根に持ってくれていい」
倉伊じゃない青年の声がしてそちらを振り向くと、片目が隠れる前髪をしている人物が立っていた。俺はぞっとする。全然気配を感じなかったんですけど!?
そういえば、田辺美星のときもそうだったな……五十嵐滅茶苦茶キレてたし。あのとき五十嵐が殺してほしかった[人でなし]が五十嵐李王なわけか……因果だな。
相変わらず喪に伏したような黒装束だ。
リーンズがやあ、と手を挙げる。
「[葬儀屋]、今日の仕事は終わったの?」
「ああ。そう難しい仕事じゃなかったからな。……[発火物]のときのやつと思ったが、ロデオの友人か?」
うわ、初めて見た! 倉伊のこと下の名前で呼ぶやつ! 倉伊が嫌だっていうから俺は呼ばないんだけどなあー……
倉伊をちら、と見ると、倉伊はにこ、と軽く笑ってはい、と答えていた。長い付き合いっぽいから、そこら辺の遺恨は少ないのかな。
なんとなく、倉伊の表情と波長が柔らかい感じがする。この二人にもお世話になっているんだろうな。
「あ、ええと、咲原唯人って言います」
ぺこ、と頭を下げると、[葬儀屋]は俺を一瞥した。
「俺は[葬儀屋]だ。よろしく」
んーと。
「[葬儀屋]は職業とか通り名ですよね? 名前って」
[傀儡王]を警戒されているのだろうか? [空の街]で厄介事を起こす気はさらさらない、というか、別に[空の街]じゃなくても、騒ぎは起こしたくない事なかれ主義なんだけど。
と見つめていると、[葬儀屋]さんはなんだか、味のしないガムを噛んでいるみたいな微妙な顔をした。限りなく無表情に近い困った顔?
「すまない。俺には名前がない」
「え」
「忘れたのかい、咲原クン。[空の街]に住むのは理由は様々だけど訳アリの人物ばかりだ」
聞くのは野暮って話か。まあ、それもそうだよな。倉伊の出生の話でお腹いっぱいだし、名前のない人物の事情なんて想像したくもない。
「えっと、じゃあ、俺も[葬儀屋]さんって呼べばいいんですかね」
「ああ。俺はそれでかまわない。[葬儀屋]という呼称以外、特に意味のある呼び名があるわけでもないから」
人外専門の殺し屋。需要があるから続いているんだけど、正直どんな仕事があるのかわからない。美星さんのときみたいに人間をモルモット扱いして殺させるとか多いのかな。
「俺を殴った女は許可が降りなかったのか?」
お、五十嵐のこと覚えてる。
「連れてきても許可降りないでしょうけど、今日はそもそも連れてきていませんので」
「大変だな。さ、中に。茶を淹れる」
悪い人ではないんだろうけど、声が乾いていてものすごく素っ気なく聞こえる。感情が死んでるのかな。波長がないように感じる。
ひとまず、あがらせてもらおう。




