第112話「壊れていても、まともじゃなくても、それを八つ当たりの免罪符にすんな!」
若い女の人が出てきて、正直面食らった。情報屋というと老獪なイメージがあるから。偏見偏見。
しかもこの感じ。
「超能力者じゃないんですね」
「あ、やっぱりわかっちゃう?」
わかっちゃう、というかまあ、わかるよな。同調がすんなりできるし。ただ、波長が滅茶苦茶静かだ。暗殺者より静かかもしれない。
これくらい静かな波長だと同調で捉えるのが難しいかもしれない。
というか、[空の街]そのものが波長が薄い。波長や強制力が建物や水なんかの形成に注がれているとしても、余分な波長とかがなくてすごい。歴代の[空の街]の能力者の工夫の結果なんだろうな。
「知実さんから、[空の街]は超能力者の街って聞いてたんで」
「マ、超能力者が多いのは事実ダヨ。ボクはレアキャラだネ」
レアキャラって……そんなカードゲームみたいな。
「まあでも、夢先生による許可制なら、超能力者以外が入れるのも納得です。セキュリティも万全ですし」
「うんうん。物分かりがよくていいネ。先生ってコトはニーノが担当したことある学生サンカナ?」
「あ、はい。小学生の頃の話ですけど」
この人もなんか喋り方の癖がすごいな。
「ボクはね、外国人ダヨ。あるちっさい王国の馬鹿一族の生き残りサ」
一族って響きがなんか重いな。というか、情報屋が自分の情報出してくるのそこそこ胡散臭い。
「今胡散臭いとか思ったデショ?」
「えっ」
心読まれたんだが?
「顔に書いてあるヨーん」
うっわー……なんか倉伊の知り合いに対して悪いとは思うけど、健一朗さんの女バージョン的な胡散臭さがあるな。
「そんな引かないでヨ~。ちょっとした読心術と鎌かけジャン」
怖い怖い。
超能力を使っている様子がないけどこういうタイプの人のが怖いって。能力者じゃない分、どうやってんのかわかんなくてまじで怖い。
倉伊がそこですっと間に割って入る。
「はいはい、リンさん、そのくらいにしてください。咲原くんはただでさえ人に狙われすぎて人間不信気味なんですから」
「いや、人間不信は言い過ぎだと思う」
コミュ障なだけだから。
まあ、コミュ障の原因は狙われ続けているからだけど……
「あ、そうそう、[憑依霊]のときはゴメンネー。まさかバンシーが気づかないとは思わなくてサ」
「え、あれもあなたが絡んでるんですか?」
「リンでいいヨー。マ、情報屋の大きな仕事って殺し屋の仲介だからネー」
物騒だけど、こんなところで暮らしているのならまともな稼ぎ方はできないよな。倉伊が超能力を生かした殺し屋をやっているのも然り。まあ、追われる身としてはたまったもんじゃないし、謝られたくらいで許せるようなことでもないけどね。
[憑依霊]バンシー・クレイアの話はリーンズも知っていたらしい。バンシーが娘の体を乗っ取って仕事をしていることも含めて。その矛先が李王さんだったので、倉伊を巻き込んで、どさくさ紛れに五十嵐を始末できないか画策したらしいが、俺の力の有効活用と倉伊の超能力者としての格の違いでなんかこう、後味の悪い感じになったらしい。
リーンズという情報屋は超能力者の殺し屋御用達の情報屋らしく、[殺刃鬼]や[憑依霊]など大物と取引することが多いらしい。仕事だからと言われてしまうとどう返したらいいかわからなくなる。人の命や情報を売り買いするなよな、と思うものの、それだと倉伊はどうなるんだよ、という気持ちもあり、複雑だ。
「あれだけリオウに恨みを抱いているナラ、イガラシって子に反応すると思ったんだけどネ。その辺はバンシーもポンコツだったネ」
ちょっと聞き捨てならない。
「あなたも五十嵐の命を狙ってたっていうんですか?」
俺の命は結構日常的に狙われてきたからまだわかる。でも、五十嵐は、ただ普通に生きてきただけだ。
DV男の子どもということで弄られ、いじめられ、五十嵐自身が誰よりも李王を憎んでいるのに、李王が死んでいるばっかりに、その矛先が五十嵐に向くのは絶対おかしい。そりゃ、倉伊に向くのだっておかしいと思うけどさ。
子どもに復讐したって、李王は死んでいるんだから、痛くも痒くもないのに。
俺がむっとして睨んでいると、リーンズは肩を竦めた。
「いやネ、わかるヨ? 五十嵐チャンに復讐心ぶつけてもどうともならないことくらい。わかってるヨ。でもサ、言っちゃアレだけど、リオウみたいなんに引っかかるようなヤツらヨ? マトモな精神求めちゃダメヨ?」
「大人がまともじゃないのに、子どもにどうしろっていうんですか?」
俺はぐっと拳を握りしめた。倉伊を軽く横に追いやり、ずい、とリーンズに迫る。
「まともじゃないことを理由に逃げないでくださいよ。五十嵐だって被害者なんですよ。なんで[まともじゃないから]なんて理由で唯々諾々と復讐を受け入れなくちゃならないんですか。ふざけんな!」
「ちょっと、咲原くん」
「何がわかるよ、だ。全然わかってないじゃないか! 五十嵐も倉伊も、何も悪いことしてない。したくてしたんじゃない。なんで、それを止めるんじゃなくて大人が助長するんだよ。大人でも、壊れていても、まともじゃなくても、それを八つ当たりの免罪符にすんな!」
ぱし、と手首を掴まれて、はっとする。いつの間にか俺はリーンズの襟首を掴んでいた。それを咎めるように、倉伊が俺の手首を掴んでいる。
俺はそっとリーンズの襟首を解放した。
「……すみません、言い過ぎました」
でも、と付け加える。
「散々俺は[お前にとっては他人事だろう]みたいな感じで主張を流されてきて、苛立ってるんですよ。そりゃ、五十嵐李王がどんな人だったかなんて実際は知らないですけど。五十嵐も倉伊も友達だから、その友達が貶められてるんなら、それは俺にとって他人事じゃないんです。だから、その……」
ぐっ、いい感じに言えたのに、締めるの上手くいかない。
そう、俺はなんか蚊帳の外にされて、苛々していたのだ。それをぶつけてしまったのは申し訳ないとは思うのだけれど。俺にも俺の主張があるわけで。
上手く言葉にならなくて口ごもる俺にリーンズはきょとんとした後、くすくすと笑った。
「ちょっ……笑わないでくださいよ」
「いやいや、そこまで言ったんだからちゃんと締めなよ」
「だって、あんまりこういうの、言い慣れてなくて」
「アハハ、でもヨカッタ」
リーンズは晴れやかに笑う。
「ローくんのことを本当に思ってくれる友達ができて、本当にヨカッタ」




