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crown taker  作者: 九JACK
慌てない慌てない、一休み一休み
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108/125

第108話「あれ、なんか、不思議……」

 音楽の授業。

 学校の授業というのを能動的に受けたことがない。全くないというわけではないが、美術とか音楽とか、芸術方面のことに俺は極端に興味がなかった。心に余裕がないから。

 同調能力を使えば、他人の波長から心の声が聞こえる。超能力を持ったばかりの頃、俺にとって学校は地獄だった。子どもの無邪気な声に重なって、自我が芽生え、安定したことにより得られる自意識。善悪の区別がまだついていない子どもの悪意なき棘の数々は俺の心に擦り傷を作っていった。

 教師は親身になってくれる人と、面倒くさそうにしている人、真面目で融通が利かない人に大きく分かれた。真面目で融通が利かない人は楽だ。心と実際の言動に差異がないから、話しやすい。問題は他二つ。

 変に大人ぶるから、心と現実の差異が激しい。そういう点では理想と現実に区別をつけない上に、超能力者だった夢先生はいい先生だったと言える。

 俺の人格形成期、どんな方向に人格が振れたかと言ったら、それは人間不信の一言に尽きるだろう。おまけにレアリティの高い能力だったために、超能力者の暗殺者に追われまくった。

 俺は[傀儡王(パペットマスター)]を使うのが怖かったから、逃げの一択だ。[傀儡王(パペットマスター)]という能力は人の心を読み解く同調能力を無視した能力。人の心を無視して命令に従わせる能力だから。

 両親は離婚したがっていた。俺というお荷物を抱えていてなお、離れたがっていた。俺はある意味[傀儡王(パペットマスター)]でその願いを叶えたのかもしれない。

 けど、いいことをした、なんて全然思えない。最悪な気分だった。取り返しのつかない過ちとは、ああいうことを言うのだろう。そう心に戒めた。

 勉強は人並みにできればいい。個性はいらない。超能力が個性だというなら、[傀儡王(パペットマスター)]という心を無視するような個性なら、いらない。

 そう思ったら、図画工作なんて無意味な気がした。自分なりの何か、を求められて、俺の中から差し出せるのが[傀儡王(パペットマスター)]しかなかった。絶望したし、失望した。自分自身に。

 それでも、傷つけたのが両親だったのは不幸中の幸いだ。他の誰も傷つけることなく、俺は[傀儡王(パペットマスター)]という個性を抑え込むことに成功したのだから。

 個性を抑え込むということは、人に馴染みつつ、人と関わらないことだと俺なりに解釈した。だから、目立とうなんて思ったこともないし、間違っても人の上に立とうだなんて思わなかった。

「一組の指揮者の咲原くん」

 そう、指揮者だなんて、もってのほかである。

 でも、先生に呼ばれてしまったので返事はしなければならない。しかも前に立たされる。学校で前に立たされることのデメリットは何か。言わずもがな、教室中の視線を釘付けにすることだろう。晒し首のようなものである。

 数多の視線に、既に逃げ出したくてたまらない俺の心情など知ったことではない、というように、音楽の先生は俺の肩をがっしりと掴んだ。

「いいですか、みなさん。合唱コンクールの指揮者なんてパフォーマンス程度にしか思っていないでしょうけれど」

 先生が俺を掴まえていない方の手で、かちゃりと眼鏡をかけ直す。きらりと眼鏡が漫画みたいな反射をした。インテリ腹黒主人公が何か閃いたときみたいだ。

 まあ、実際「スイッチが入った」と言える状態だ。

「指揮者とはその場にいる奏者の音楽性を取りまとめ、導く存在です。合唱でも吹奏楽(ブラスバンド)でも交響楽(オーケストラ)でも、指揮者は演奏しない重要人物。今回の合唱曲は特別に提供されたものですから、殊更みなさんの息を合わせて素晴らしい曲にしないといけません。ですのでまず、原曲のメロディラインを咲原くんの指揮を見ながら歌いましょう」

 音楽教師与理科。絶対に音楽教師ではなさそうな名前をしているこの御仁、音楽に対する情熱が半端じゃないのである。

 ドウシテコウナルノカナ。

「先生、俺、指揮なんてしたことないですけど……?」

「合唱曲は四分の四拍子の基本的なリズムです。一定リズムですし、拍子が変わることもない簡単な曲ですよ」

 簡単かどうかということは問題じゃないんですよね。

 だがまあ、俺みたいな平凡な生徒は教師に逆らったりできないわけで、ちょっとの練習と倉伊とのピアノ合わせと、であっという間に指揮者台に立たされた。

 倉伊に目が集まるだろうな、と思っていたが、想像よりずっと、みんな真面目に俺を見るじゃん……

 それを画角外からぱしゃぱしゃ撮ってる佐竹が憎らしい。

 うじうじしていても仕方ない。俺は一つの訓練だと思うことにした。

 知実さんに言われたのだ。


『お前は同調能力を厭う割に、同調能力が精神と密に接している。殺し屋をかわす上で気配の読み取りや悪意の察知のために使い続けてきたというのもあるが、使役系超能力者としては、同調能力に元々の値が秀でていた部類だ。

 何度も説明したが、超能力の基本は同調からの強制力(フォーシング)による発動。お前は[傀儡王(パペットマスター)]の発動を怖がっているが、能力発動の入りである同調能力を使いこなせば、[傀儡王(パペットマスター)]の発動を完全に意のままにできる。だから、今度の訓練では、同調能力を完全に切れ』


 同調能力を切る。それは普通の人間と同じ状態になる、ということだ。同調能力が乱れている今、同調を断ち切ることができれば、精神衛生的にも良くなる。

 俺は目を開いた。

 現実の音を聞け。

 指揮のために空を凪ぐ音。倉伊の呼吸音。みんなの歌声。

 それ以外の音はないと思え。

 すると、次の瞬間には演奏が終わっていた。意識が飛んだとかそういうことはない。体感が一瞬だったのだ。指揮をしていた記憶はあるし、みんなの歌声もまだ耳に残っている。

「ブラボー、咲原」

 佐竹が拍手を送ってくる。え、何?

 みんながきょとんとしていた。

「あれ、なんか、不思議……」

「咲原がどんなやつか全然わかんないのに、心がすんなり咲原の指揮に従った感じ」

「悪い感じしない」

 え、好感触?

 どゆこと、と思って佐竹を見たら、ばちこーん、とウインクが飛んできた。いや、どういうことだよ。

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