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7話 ~漆黒のドラゴン~

 



 耳に障る電子音と共にエレベーターの扉が左右に開く。


「なんだここは………」


 強制的に連れてこられたそこは地下66階。サウナのような熱気の中に血と生き物の臭いを感じていた。


 本能が、全身の細胞が、「今すぐ引き返せ」と狂ったように警報を鳴らしている。


 目の前にあるのは一寸先も見通せないほどの蒸気と赤茶色の土の地面。ここが火星だと言われても、納得してしまいそうな光景だった。


(この奥に何かがいる………)


 恐怖のあまり震えている足は踏み出すことを拒否している。


「行くしかない………」


 この先に声の主がいるはずだった。


 自らの意志で無理やり一歩、前へと踏み出させた。ここで引き返せば、またあの息の詰まる檻(実家)に逆戻りだ。それだけは、死んでも御免だった。


 じっとりとした湿気と血の臭いの中を、這うようにして進む。

 やがて蒸気の向こうに、ソレは姿を現した。


「あ、あぁ……」


 餓狼の口から、声にならない悲鳴が漏れた。自分の体は、本能は一体何に怯えていたのか。その正体がはっきりとした実態を持って目の前に現れたのだ。


 漆黒のドラゴン。


 蒸気と纏いながら呼吸と共に上下させるその体は、大型トレーラーのように巨大。全身を覆う鱗と長い尾、そして知性を感じさせる金色の眼が自分をはっきりと見つめている。


 しかしながらそれは悠然とその場に立つとはとても言えなかった。


 まるで昆虫標本。


 巨躯は無数の太い鉄鎖が張り巡らされていて、肉体の至る所に、嫌がらせのように無数の巨大な『もり』が深く突き刺さっている。


 固そうな鱗の隙間からは赤い血が染み出していて、赤茶色の地面を濡らしている。


 囚われの姿からは安堵と同時に残虐性を感じた。


 暴力の権化のような存在が、一体どうしてこのような姿に。悪夢のような光景に理解が追い付かず、餓狼は息をすることすら忘れていた。


 黒い龍の口がゆっくりと開いた。


『待っていたぞ、餓狼………』


 空気を震わせる重低音が自分の名前を呼んだ。ただそれだけで餓狼は尻もちをつきそうだった。






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