34話
午前二時。
富士山の麓に佇む二十四時間営業のスーパー銭湯『駿河富士の湯』は、深い静寂に包まれていた。
その平穏を切り裂くようにして、突如、激しい排気音を響かせた二台の車が滑り込んでくる。
フロントガラスを真っ黒なスモークフィルムで覆ったハイエースとミニバンは、駐車場ではなく、正面玄関の自動ドアの目の前へと文字通り横付けされた。ハザードランプが深夜の暗闇を不気味に点滅させる。
スライドドアが勢いよく開き、車内から吐き出されたのは、黒系のセットアップジャージや無骨な作業服に身を包んだガラの悪い男たち――総勢四人。
その先頭を突き進む男の姿は、異様の一言に尽きた。顔全体に痛々しい包帯を幾重にも巻き付け、わずかに露出した片目だけをギラギラと血走らせている。
男たちは自動ドアが開くスピードさえ待ちきれないと言わんばかりの勢いで館内へ押し入ると、一直線にフロントへと向かった。
ねむけ眼だった深夜バイトの青年は、胸ぐらを引きずり回され、鋭い怒号に蛇に睨まれた蛙のように硬直する。
「……あ、あの、三階の……休憩室です……っ」
怯えるバイトを脅して案内させたのは、広い館内の最上階。
薄暗い空間の中に読書灯の淡い光だけが灯り、あちこちから心地よさそうな寝言やいびきが聞こえてくる、平穏な暗闇の世界だった。
――バチンッ!!
突如として、無慈悲な音が響き渡る。
壁のスイッチを乱暴に叩き切ったことで、天井の蛍光灯が一斉に全点灯したのだ。あまりのまばゆい強烈な光に、満身の安眠を貪っていた一般客たちが「うおっ!?」と一瞬で視界を奪われる。
「起きろぉおおお!! オラァッ!!」
静まり返っていた休憩室に、興奮した猿のような大声が響き渡った。
男たちが一斉に怒鳴り散らし、シートから一般客を叩き起こしていく。あまりの恐怖に、誰もがスマホを握りしめたままガタガタと震えることしかできない。
「芦屋餓狼! いるのは分かってんだよ、出てこいやぁあ!!」
顔に包帯を巻いた男――袴田健太が、狂気的な叫び声を上げながら懐からギラリと光るサバイバルナイフを引き抜いた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
「ブックマーク」と「いいね」を頂ければ大層喜びます。
評価を頂ければさらに喜びます。
☆5なら踊ります。




