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31話

 


「んぐっ!?」


 鈍い衝撃音の直後、短い呻き声を漏らしたのは、攻撃を仕掛けたはずの三河屋の方だった。


「ふふ、蟻の甲殻というのは元々とても頑丈で、人間に踏まれた程度では死ななかったりするのですよね。それが私の特殊魔法『昆虫大戦争インセクト・ウォーズ』の力によってこれほど大きく、力強くなったのです。人間の生身の攻撃程度では、ビクともしませんよ」


 ロンドンは胸元にステッキを添え、勝ち誇ったように語る。しかし次の瞬間、その余裕の顔色が一変した。


 三河屋に蹴られたはずの巨大な蟻が、突然ガチガチとハサミを鳴らしながら、ロンドンたちのいる方向とは全く違う明後日の方向へとフラフラと歩き出したのだ。


「これは、一体……!?」


 戸惑うロンドンが蟻に気を取られた、その一瞬の隙だった。

 ロンドンの目の前に、いつの間にか青い蒸気を纏った三河屋が肉薄していた。


「喰らえっ!!」


「フンッ!」


 三河屋の空気を切り裂くような鋭い蹴りと、ロンドンが咄嗟に振り抜いたステッキの薙ぎ払いが激しく交錯する。キィンと金属がぶつかり合うような甲高い音が響き渡り、両者は互いの衝撃で大きく後ろへと弾き飛ばされた。


「……今、何が起きたんだ?」


 一連の奇妙な攻防を見ていた餓狼が、背後のリイルに問いかける。


『特殊魔法だな。三河屋という男の蹴りは、ただの物理的な打撃ではなかった。触れた対象の『感覚』を狂わせるような、特別な効果を付与するものだったらしい』


「なるほど。だからあの蟻、急に変な方に歩き出しちゃったのか」


『とぼけた顔をしておきながら、中々に強か(したたか)な戦い方をする男だな』


「これが契約者同士の戦いか………普通の喧嘩とは別次元だな」


『それほどの違いはない』


 リイルは断言した。


『やっていることは確かに派手だが、足の運びや間合いは魔法を持たない戦いと共通している。断言できるが、あの者達は例え魔法を持っていなかったとしても、一流の戦士としての基準には十分に達しているはずだ』


「そう言われてみれば………」


『だからお主が幼少の頃より鍛えてきた事は無にはならない。よく見て学べ、そうすればお主もあの領域まで到達することが出来るはずだ』


「わかった」


 餓狼は二人の戦いを食入るように見つめた。奇しくもそれはロンドンが最初に発言していた「教育」そのものであった。







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