28話 ~面子~
新宿・少年刺殺事件、外国籍の男を逮捕
容疑者は黙秘、新宿署が動機解明へ
東京都新宿区の路上で少年が刺殺された事件で、警視庁新宿署捜査本部は23日までに、殺人の疑いで住所不定・職業不詳で外国籍の、ソムチャイ・ラタナパン容疑者(28)を逮捕した。
逮捕容疑は今月上旬、新宿区歌舞伎町の路上において、少年(15)の背中などを刃物で複数回突き刺し、急性失血死により殺害した疑い。
調べに対し、ソムチャイ容疑者は「何も言いたくない」と供述し、黙秘を続けているという。捜査本部は、容疑者と被害者の間に何らかのトラブルがあったとみて、詳しい犯行の動機や背景の解明に全力を尽くす方針。
手渡された新聞記事を貪るように読んだ餓狼は、驚愕のあとに、心の底から大きな安堵の息を吐き出した。
(……俺じゃ、ない……!?)
安倍鮫肌が殺された事件は外国人の仕業だったらしい。どうりで警察の姿が見えないわけだ。自分は容疑者リストから外れていたのだ。
「それならとっとと教えてくれよ! 余計な逃亡生活をしてたってことかよ!」
餓狼は警察に対して一応の文句をぶつけた。だが、胸を満たしているのは「警察に追われていない」という圧倒的な解放感だ。
「……ってことは、もう安倍家も引き下がるってことだよな? 犯人が別にいるなら、俺を追う理由もないし」
これでもう、ビクビクしながら街を歩く必要もない。コンビニもスマホも自由に使って良いのだ。
「やっと、家に帰れる……」
そう呟いた瞬間、自分の家がヤクザのトラックによって無残に破壊し尽くされた光景が脳裏をよぎった。帰る家は木っ端微塵に破壊されたのだ。
そんな餓狼の様子を、三河屋はちょび髭をさすりながら、どこか気の毒そうに、だけど冷徹な目で眺めていた。
「いやいや餓狼君、話はそう簡単じゃないんだよねぇ。――私の情報によればさ、どうやら『松葉会系 剛城組』が、今も君のことを血眼になって探しているらしいよ」
「……剛城組?」
「そう、新宿区の百人町に本拠地を構える、小規模だけどイケイケの極道さグループさ」
「ふざけるな! なんでだよ! 人の家にトラックで突っ込んできて、よくそんな文句が言えるな!」
「まあまあまあ、気持ちは分かるよ? でもねぇ、ヤクザってのは何よりも『面子』を大事にする生き物だからさ。あんな風に若い衆をボコボコにされて、黙って引き下がるわけにはいかないんだろうねぇ」
「殺したわけでも無いのに!」
「そうだね。でも、彼らにしてみれば『ガキ一人に組の面木を丸潰れにされた』って事実だけが残るのさ。少しやりすぎちゃったかもしれないねぇ」
「くそっ……!」
餓狼は到底納得がいかない様子で、激しく舌打ちをした。
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