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25話 ~修行~

 


「ちょっと待ってくれ、富士山を登って来て疲れてるんだ、少し休んでからに――」


『時は金なり、だ!』


 リイルが低く吼えると、その漆黒の身体を薄い青白い光が覆った。その途端、周囲の空気に微かに金属のような、ツンとした独特の臭いが混ざる。


 リイルが前足を一振りした。


 次の瞬間、餓狼の目の前に、空間を歪めるようにして「50メートルプール」ほどもある巨大な水滴の一粒が出現した。


 宙に浮く巨大な水の塊。だが、それはただの水ではない。水滴の中には、まるで高速回転する時計の針のような、あるいは洗濯機の中のような、凄まじい水流が渦巻いていた。


『この渦を、逆に泳ぐのだ』


 リイルはいとも簡単に、散歩にでも行くような口調で言った。

 だが、その渦の勢いは、どう見ても大雨の日に氾濫した濁流そのものだ。


「不可能だろ、こんなの!!」


『案ずるな。単なる筋力で逆らうのは不可能だが、己の体内に魔力を充填させ、それを制御すれば容易に泳ぎきれる。つまり、これはお主の身体に魔力の使い方を『強制的に』覚え込ませるための特訓だ。さあ、行け!』


 有無を言わさず、リイルの尾が餓狼の背中をポンと小突いた。


「うわあああっ!?」


 ドボン、と巨大な水滴の中に放り込まれる。


 直後、強烈な水流が餓狼の全身を襲った。上下も左右も分からない。凄まじい水流に一切逆らうことも無く流された。


「ぶ、ふ、げほっ……!」


 魔力をどうこうする余裕など一瞬もない。ただ両手両足の力で水面から顔を出そうと精一杯だった。呼吸をしようとした瞬間に口の中に大量の水が入って来る。


「ごぼっ!」


 餓狼の意識が飛びかけ、完全に限界を迎えたその瞬間、パチンと音がして巨大な水滴が霧のように消失した。


 どさっ!


 支えを失った餓狼は、地面に容赦なく叩きつけられた。


「げほっ! ごほっ……! う、うぷっ……」


 涙目で激しく咳き込む餓狼。地面を這いつくばりながら、息も絶え絶えにリイルを見つめる。


『ふむ、最初はそんなものか。――安心せよ、出来るようになるまで、何度もやるだけだ』


 当たり前のような顔をしているリイルと、今にも泣きだしそうな餓狼がそこにいた。








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