24話 ~チキン~
コンビニでチュールを手に入れ、山頂に辿り着く頃には、東の空から厳かな朝日が昇り始めていた。
「おい、リイル。買ってきたぞ……って、あれ?」
辺りを見回して首を傾げた。
あれほど黒龍の尻尾に猛攻撃を仕掛けていた、三匹の子猫たちの姿がどこにもないのだ。
『……ぬぅ。遅かったではないか、餓狼』
巨大な岩陰から這い出してきたリイルは、なぜかあからさまに肩を落とし、見るからに落ち込んでいた。
「どうしたんだよ? あいつらは?」
『……しばらく前に、凄まじい眼光の母猫がやってきてな。ワシを睨みつけながら、子猫どもを首根っこに咥えて連れ去ってしまったのだ』
「なんか残念そうな顔をしてるけど、母猫がちゃんといたのなら良かったじゃないか……」
思わず同情混じりのツッコミを入れつつ、餓狼は両手の袋を差し出した。
「ほら、お目当てのちゅ〜るだ。あと、おもちゃとか他のおやつも適当に買ってきたから、今度またあいつらが来たらこれで懐柔しろよ」
『おお……! なんと、言った以上のものを揃えてくるとは。お主、なかなか気が利くではないか!』
金色の眼眸を輝かせ、素直に感心するリイル。そしてちょっと嬉しくなっている餓狼がいた。
「ん?何だこの匂いは」
「匂い?」
『……お主、なんとも美味そうな肉を持っておるな?』
「あ、これ? コンビニのチキン。後で食べようと思って――」
言いかけた餓狼の背筋に、ゾクリと冷たいものが走った。
見上げれば、漆黒の巨躯を持つ龍の王が、口元から滝のようなヨダレをダラダラと垂らしながらこちらを凝視しているのだ。
その姿は、チキンではなく自分を丸呑みにしようとしている捕食者の絵面そのもので、本能的な恐怖が這い上がってくる。
「あ、あげる! 全部あげるから、そんな目で見るな!」
餓狼は慌ててチキンの入った袋を差し出した。
「何をそんなに怖がっておる」
リイルは鼻で笑いながらも、その目は鋭くチキンを見据えていた。
「足りないと思うけどな………」
「いいから食わせるのだ」
「分かったよ。っていうか牙すごすぎ!こんなのに噛まれたら一瞬でお陀仏だな」
餓狼は袋から取り出したそれを大きく開かれた口の中に放り込んだ。
『――美味い!!!』
山頂が震えるほどの歓声が上がった。
『な、なんだこのジューシーな肉は!? 人間ども、いつの間にこれほどの美味の魔法を開発しておったのだ! ……しかし、全然足りんぞ! 餓狼、今度はもっと、それこそ山盛りにたくさん買ってこい!』
「簡単に言うけど、コンビニに入るのもこっちは気を使ってるんだぞ!」
『うむ、満足じゃ! 約束通り、お主に魔力を強化するための特訓をしてやろう!』
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