22話 ~警察~
「いや、俺は怪しいもんじゃなくて……」
「まー、怪しい人はみんなそう言うんだよね。……ん? あれ?」
フードを目深に被っている餓狼の顔を、下から覗き込んできた警察官がニヤニヤしながら言った。
「君、結構若そうだけど、何歳なの?」
「二十歳っス」
「本当? 十代にも見えるけどねー。今はもう夜の二時だよ。こんな遅くまで出歩いちゃいけないな」
「二十歳っス」
「じゃあ、念のため名前と住所を教えてくれる?」
「え、いや、その……」
「二十歳なら運転免許証とか持ってるでしょ? それをちょっと見せてくれる?」
(……くそっ、これ以上は無理だ。逃げるしかない!)
餓狼が地を蹴り、その場から強行突破しようと決断するまさに直前、予期せぬ方向から助け舟が出された。
「お巡りさん! その人、私の同い年の友達なんです!」
透き通った声の主は、先ほど暴走族に絡まれていた、可愛い顔立ちのあのお姉さんだった。
「私も二十歳で、免許証をちゃんと持ってますので。ほら、見てください!」
そう言って、彼女は小さな鞄から手際よく運転免許証を取り出し、警察官の前に差し出した。
「ふーん……。――三田原理恵さんね」
警察官は手渡された免許証をしげしげと眺めながらも、まだ疑わしそうな顔を餓狼に向けている。それを見た理恵は、さらに畳みかけるように言った。
「私達、この事件には全然関係ないんです。本当に、今さっきここに到着したばかりなので!」
「そうなの?」
「はい! ……実は私のお父さんも、お巡りさんと同じ警察官なんです」
「ほう、そうなの?」
その言葉に、警察官の眉がぴくりと動いた。
「職場は東京なんですけど、お父さんもお巡りさんたちも、いつも市民のために頑張ってくれているのですごく感謝してるんです。本当に、夜遅くまでありがとうございます!」
理恵が満面の笑みで頭を下げると、警察官の険しかった表情が目に見えて緩んでいく。
「ふんふんふん、君はよく分かってるねえ。最近はさ、警察に文句ばっかり言ってくる奴らばかりでうんざりしていた所なんだよ。こっちは夜通し死ぬほど頑張っているっていうのにさ……。よし、まあいいや。あんまり遅い時間に出歩いちゃ駄目だよ?」
「はい! 気をつけます!」
三田原理恵の完璧すぎる機転によって、警察官はそれ以上の追及を止め、ひっくり返った暴走族の車の処理へと戻っていった。
完全に包囲が解かれ、パトカーの赤色灯から離れた暗がりに滑り込んだ餓狼は、心臓のバクバクした高鳴りを感じながら、ほうっと深い安堵の息を吐き出したのだった。
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