21話 ~考えるな、感じろ~
うすら笑いを浮かべ、こちらの胸ぐらを掴もうとしてきた男の手を、餓狼は素早く取って引っ張り回した。
「うわぁーーーー! 離せーーーー!」
餓狼を中心として、メリーゴーランドのように勢いよく回転させられた男が、必死の形相で叫ぶ。
「ぐはっ!」
餓狼が手を離した瞬間、男は自分の車へと激突し、サイドミラーを巻き添えにしながら地面へと落下した。
「ユウタ!」
「てめえ! 調子こいてんじゃねえぞ!」
怒り狂って迫りくる二人の男を前にして、餓狼は軽快なステップを踏み始めた。脳内を支配するのは、往年の名作アクション映画のビートだ。
「アチョーーーッ!!」
奇声と共に鋭い助走をつけ、強烈なサイドキックを片方の男の鳩尾へと叩き込む。
ドゴォッ!! と凄まじい衝撃音が響き、金髪パーマの長身な男が、まるで漫画のワンシーンのように何メートルも吹き飛んでアスファルトの上を転がった。
「――Don't think, feel.(考えるな、感じろ)」
餓狼は親指でフッと鼻をこすり、残った敵を鋭く睨みつけた。
「な、なんだあいつ! 動きが見えねえ!」
「ホァチャアアアッ!」
完全に調子に乗った餓狼の無双劇が始まった。裏拳、回し蹴り、流れるようなコンビネーションパンチ。元々一般人を遥かに凌駕する身体能力を持っていたその力は、契約によっていっそう高まった。
一人二人三人………。恐ろしいほどのキレとスピードとパワーで、すべての技が正確無比に決まっていく。
「やべえ! 化け物だ、逃げろ!」
極めつけには、逃げようとして馬鹿げた改造車に乗り込んだ暴走族の目の前に回り込んだ。
「うぉーーーー!!」
フロントバンパーにガシッと両手をかけると、超怪力で前輪が浮くほど車体を持ち上げ、そのまま勢いよくひっくり返してしまった。
ズドーーーン!! と、深夜の駐車場に鳴り響く凄まじい大爆音。
「ひ、ひええええ! 助けてくれぇ!」
ひしゃげた車から命からがら這い出した男たちは完全に戦意を喪失し、うめき声を上げながら地面に転がっていた。
誰も立ち上がれない惨状を見下ろし、餓狼はポーズを決めて一人悦に浸る。
「ヒーロー気取りじゃない。――俺は、ヒーローなのさ!」
バシッとセリフが決まった、まさにその直後だった。
ウーウーと夜の静寂を切り裂くサイレンと共に、赤色灯を激しく光らせたパトカーが駐車場へと滑り込んできた。
「……やべっ!」
餓狼は分かりやすく狼狽えた。一気に頭が冷え、冷や汗が吹き出す。
警察沙汰だけは何としても避けなければいけない。今すぐコン
ビニの中に逃げ込んで、無関係な一般客のフリをするべきか
――しかし、そんなことをすれば店内の防犯カメラにバッチリ顔が映ってしまう。
(どうすれば……くそ、どうすればいいんだ……!)
明らかにまごまごしているフード姿の男を見逃すほど、警察も節穴ではなかった。
パトカーから降りてきた警察官が、鋭い視線をこちらに向けてすぐに声をかけてきた。
「おい、そこの君。ちょっと話を聞かせてくれるか?」
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