20話 ~ヒーロー~
山を駆け降りた餓狼は、富士山の麓にある24時間営業のコンビニの前にいた。
しかし、すぐには店に入れない。
(……防犯カメラに映るのはまずい)
顔をバッチリ映されれば、警察や安倍家に足取りを掴まれるのは時間の問題だった。
どうやってカメラを避けて『ちゅ〜る』を手に入れるか――。
暗がりに身を潜めて餓狼が悩んでいる駐車場に、不快な爆音を響かせた車が何台も入って来た。
「最悪だ……」
餓狼は頭に血がのぼるのを感じた。他人の迷惑など何も考えないこういう奴らは、社会の屑だと思っている。願望だけで言うなら、今すぐ全員まとめて叩きのめしてやりたい。
しかし、今までそんな大立ち回りはしたことがないし、何より「今」やるべきではないことくらい分かっている。警察が敵に回っている現状、人の注目を集めるようなトラブルはできる限り避けるべきなのだ。
(……スルーだ。大人しく立ち去れ……)
自分にそう言い聞かせ、踵を返そうとしたその時だった。
「ひゅー!かわいいー!」
「お姉さん、今から俺たちと遊ぼうよ」
「やめて、放して……っ! 誰か、助けて!!」
強引に腕を掴まれ、必死に助けを求める彼女の悲鳴が夜の駐車場に響く。
視線を向けると、そこには数人の男たちに囲まれ、必死に抵抗しながら涙を浮かべる女性の姿があった。
「チッ……!」
理性のブレーキを踏み込もうとする頭とは裏腹に、餓狼の足はすでに、暗がりから一歩前へと踏み出していた。
「おい。その汚い手を放せよ」
暗闇からぬっと現れたフード姿の少年に、暴走族の男たちが一斉に向き直る。
「あぁ? なんだお前、ガキのくせにヒーロー気取りかよ!」
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