18話 ~猫~
「無事か、リイル!?」
最強の黒龍であるリイルが、そう簡単に痛手を負うはずはない。
だが、今は怪我の治療中だ。
その深刻そうな口調からして、もしかしたら戦うことすらままならないほどの強敵が来たのではないか――餓狼の脳裏に最悪の予想が過る。
『……ああ、かなり元気だ』
「ん?」
なんだか会話が噛み合っていない気がした。リイルと出会って以降、こんなことは初めてだ。
「……殺したのか?」
『何を言っている! ワシがそんなことをするわけなかろう!』
餓狼の物騒な問いかけに、リイルは心外そうに少し怒った口調で言葉を返した。
「ってことは、力ずくで追い払ったのか?」
『むぅ……そこまでするほどのことでもないだろう』
餓狼は怪訝そうに首をひねる。
深刻な事態だと言いながら、殺してもいなければ、追い払ってもいない。一体どういうことだ。
「ごめん、リイルが何を言っているのかさっぱり分からない。……で、その敵はどこにいるんだ?」
『敵? いったい何の話をしておるのだお主は』
「え?」
『ワシが言っているのは『こいつら』のことだ。ほれ、こっちに来て見てみよ』
言われるがまま、戦闘態勢を解かないまま濃霧の中を近づいていく。
そして、餓狼が目にしたのは――。
「ミャー」 「にゃ〜お」 「みゃう」
リイルの巨体の足元で、身を寄せ合って鳴いている三匹の子猫だった。
『お主がいなくなって、しばらくしてからどこからともなくやって来たのだ』
漆黒のドラゴンの王が、困ったように巨大な尻尾をゆらゆらと動かす。すると子猫たちは、その先っぽに飛びついたり、夢中で猫パンチを食らわせたり、小さな歯で甘噛みしたりして大はしゃぎで遊んでいる。
「…………なんだよ。予期せぬ訪問者って、こいつらのことかよ……っ!」
一気に全身の力が抜けた餓狼は、へなへなとその場に座り込んだ。
道中、警察やヤクザの影に怯え、夜目を凝らし、命がけで富士山を登ってきた自分の緊張感を返してほしい。
しかし、世界のすべてを敵に回して張り詰めていた餓狼の心は、リイルの尻尾にじゃれつく子猫たちの愛くるしい姿によって、いつの間にかじんわりと解きほぐされていた。
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