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17話 ~変化と異変~

 

 スーパー銭湯で心身ともに満喫し、十分に体力を回復させた餓狼は、夜の富士山へと足を踏み入れていた。


 夜闇が支配する本格的な山道。しかし、餓狼は足元をふらつかせることもなく、すいすいと斜面を登っていく。


 リイルと契約を交わして以降、驚異的な体力や身体能力の向上は自覚していたが、それだけではない。今の餓狼には、暗闇をはっきりと見通せる「夜目よめ」の力が備わっていた。


 足を止めて後ろを振り返る。


(……追手は無しか)


 少しだけ奇妙な疑問が湧き上がる。


 いくら人目に付かないよう注意して移動してきたとはいえ、自分は殺人事件の重要容疑者なのだ。国家権力たる警察が本気で探そうと思えば、とっくに網に引っかかっていてもおかしくはない。


 頂上に近づくにつれて、急激にあたりに白い霧が立ち込め始めた。視界を完全に遮るほどの濃霧だ。


 ニュースでは「ここ数日、富士山は謎の異常気象による濃霧に覆われている」と報じられていたが、餓狼はその正体を知っていた。


 ――これは、リイルの魔法だ。


 この霊峰の地で傷の回復を図るドラゴンの王が、目ざとい人間の目を欺くために生み出した結界なのだ。


「はぁ、はぁ、はぁ……っ」


 いくら契約によって肉体がパワーアップしたとはいえ、日本最高峰の夜間登頂が楽なわけがない。心臓が激しく脈打ち、息が上がる。


「リイルに会うために、毎回この山を登りきらなきゃいけないのは……さすがにキツすぎるって……」


 口から出るのは文句ばかりだったが、その表情には、どこか満足げな充実感が滲んでいた。


 白い霧の向こうに、お目当てである巨大な漆黒のドラゴンのシルエットが見えてくる。


「リイル、戻ったぞ――」


 声をかけようとした餓狼だったが、リイルが発した地響きのような低い声に、言葉を遮られた。


『――餓狼。大変なことが起こったぞ』


「え……?」


『予期せぬ訪問者だ』


 その言葉の意図を察した瞬間、餓狼は深く息を吸い、すっと背筋を伸ばした。


 神経が研ぎ澄まされていくのを感じる。


 餓狼は爛々と輝く狼の目で霧の深淵を睨みつけ、静かに戦闘態勢へと入った――。






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