↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/39

12話 ~取り調べ~

 


 ガチャン、と重い鉄の扉が閉まり、餓狼はパイプ椅子に深く腰掛けた。


 無機質な部屋。目の前には、三鷹の自宅前で待ち伏せていた最上刑事が、いくつかの書類を机に広げている。


「餓狼君、君は安倍鮫肌という少年を知っているね?」


「え?」


「昨夜、歌舞伎町の路地裏で遺体となって発見された」


 今度は言葉も出なかった。


 警察に連行された理由。それは、東京タワーへの不法侵入がバレたのだと思っていた。あれが犯罪であることは十分に認識していたから、それを言われたら素直に謝罪するつもりだった。


 殺人?


 最上刑事の発言はあまりにも予想外だった。


 安倍鮫肌。


 餓狼と同い年であり、平安時代の陰陽師である安倍晴明の血筋を引くもの。小柄な体格に強固な筋肉を搭載し、神通力まで使いこなす少年。


 好きか嫌いかでいえば大嫌い。神通力を使えない餓狼の事を見下していることを隠そうともせず、奴の傲慢な態度の全てが気に障る。


「死因は失血死。後ろからナイフでの一突きだ。……蘆屋君、昨日の夜十時頃、君はどこで何をしていた?」


「……俺を疑っているんですか?」


 オドオドしていた餓狼の瞳に、決死の熱が宿る。


「いや、そうではないよ。関係者には同じことを聞いているんだ。決まりきった質問だよ」


「――俺は殺していません。そんなことをする理由もありません」


 真っ直ぐに返した餓狼の言葉を、最上刑事は視線だけで受け止めた。


「私達の調べたところによるとね……君は三日ほど前に、鍛錬場で彼にひどくやられたそうだね」


「え……?」


 餓狼の表情が、一瞬で青ざめた。


 あの時、あの場にいたのは陰陽師の血筋の者たちだけだったはずだ。つまり、身内の誰かが警察にあの事件をリークしたのだ。


「それだけじゃない。もう一つ、気になることがあるんだ」


 最上刑事はたっぷりと間を置いてから、重々しく口を開いた。


「犯行現場の近くに、乗り捨てられた自転車があった」


 ドクン、と餓狼の心臓が跳ね上がった。


「黒のマウンテンバイクだ。防犯登録を照会すれば、持ち主を特定するのは簡単だよ。……餓狼君、あれは君の自転車だ」


 背中からナイフを突き立てられたかのように、背筋が凍りついた。


 リイルに呼ばれて東京タワーへ向かったあの日、自分は確かに愛用のマウンテンバイクで行った。しかし、今日戻ってきた時には、停めたはずの場所にそれはなかった。盗まれたのだと思って落ち込んでいたというのに、まさかそれが殺人現場に……。


(自転車泥棒が偶然、犯行現場に乗り捨てたのか? ………いや、違う。きっと誰かが、俺に罪を着せるために細工してそこに置いたんだ。でも、だとしたら一体誰が……!?)


 混乱が渦巻く中でも、餓狼はかろうじて頭を回して答えを探そうとする。


「顔色が良くないようだが、大丈夫かな?」


 心配そうな表情を浮かべた最上刑事が、のぞき込んでくる。


(……信用できない)


 餓狼の脳裏に、今までに見たドラマや映画の知識が過った。


 ここでの発言はすべて記録され、後で裁判の証拠に使われる。だとすれば、目の前にいるこの刑事は間違いなく『敵』だ。


(こいつらの目的は一つ――『自白』だ。


 決定的な証拠がないから、嘘や脅し、あらゆる手法を使って俺の精神を揺さぶり、自白を引き出そうとしているんだ。逮捕状が出せないのが、何よりの証拠だ!)


 搦めからめてでハメようとしてくる国家権力。ならば、ここで取るべき選択肢は一つしかなかった。


「帰ります」


「なんだって?」


 餓狼は、最上刑事の目を真っ直ぐに見据えた。


 あの規格外の怪物・リイルの圧倒的な恐怖を経験した今の餓狼にとって、目の前の刑事が放つ威圧感など、大して恐ろしいものではなかった。


「これは任意同行ですよね? だとすれば、僕には帰る権利があるはずです」


「……もちろんその通りだ」


 最上刑事の目が、わずかに細められる。


「しかしね、警察に協力しないということは、餓狼君が犯人であるという印象を我々に強く抱かせることになる。私なら、あまりお勧めはしないな」


「帰ります」


 餓狼は揺らぐことなく、はっきりと言い切った。







最後まで読んでいただきありがとうございました。


「ブックマーク」と「いいね」を頂ければ大層喜びます。


評価を頂ければさらに喜びます。


☆5なら踊ります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。