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歌姫と半妖狩り

 「わたしの見込んだ通り。あいつ、随分貯めこんでいたわ」


 魔人から奪った金貨を積み上げて数えながら、沙羅は上機嫌。そこは、凱旋した村おさの屋敷の一室だった。


 「うちのキョウが受けた精神的苦痛への損害賠償は、また、別よ。お情けで、三十五年ローンにしてやったわ。やっぱり、わたしって、優しいのね」


 いや、十分鬼畜です。お金に関しては。沙羅さん。


 「本当にあれで良かったのでござるか。拙者、納得行かないでござる。切りたかったでござる」


 小次郎、おまえはただの人切りマニアだ。


 「大丈夫。今後、村も歌姫も襲わないって、証文も取ったから」


 「もちろん、破るともれなく死の呪い付きです」


 と、得意顔で指と尻尾をフリフリ、沙羅の言葉を補足するルゥちゃん。



 「ねえ、私も分け前もらえるのよね。ヴァーチャルキョウのバージョンアップにお金が必要なの」


 「だから、そのヴァーチャルキョウって、何なの? 三ヶ日」


 「仕方ないから、神無月にだけ少し試用させてあげる」


 梓は、町から抱えてきた荷物の中から、ごそごそとボディスーツのような物を取り出した。


 「何それ? 三ヶ日。あんた随分大きな荷物だと思ってたけど、中身そんなガラクタだったの」


 「まあまあ、旦那、まずはこれを」


 三ヶ日は、沙羅にVRヘッドセットのような器具を装着させた。


 「おおっ! これは! っごい!」


 「ね♪ さらに、ボディスーツを装着すると」


 「うんうん。これはいい! いけるわ」


 「今度、ビチョビチョのトロッとろ機能を追加しようと思って。どう?」


 「うんうん、わかる。三ヶ日。あんた天才かも」


 何やってんですか? 少女二人の騒ぎを呆れて見ている僕を、部屋のドアから覗く歌姫が、例の謎の眼差しで招いた。




 「こたびの働き、ご苦労じゃったの」


 歌姫は、僕を別室に呼びこんで、後ろ手にドアをぴったりと閉めた。隙の無いその動作に、僕は少し悪い予感を覚えた。


 「ええ、でも、僕、座ってただけで、歌姫さんの……」


 「セイナじゃ」


 歌姫は、僕の片手を握った。


 「謙遜とは、また、殊勝な。いやつ」


 そう言いながら、セイナは、僕の手をぐいっと引き寄せたかと思うと、いきなりスカートの中に右手を突っ込んで僕の股間をつかんだ。一瞬の早業だった。


 「な……!」


 僕は、とっさに飛びのいた。ばれた? ばれたよね? どうして? 僕の顔から血の気が引いた。


 「やはりの」


 慌てた僕の顔を見て、セイナはにっこりと笑った。


 「付いている物も可愛いらしいの。そなた」


 そう言って目を細めるセイナの前で、僕は蛇に睨まれたカエルのようになった。


 「ぼ、僕、別に隠してたわけじゃなくて……。ただ、みんなが、僕を女だと信じて疑わないものだから、ついそのまま……」


 セイナの前で、慌てる僕。男だと、沙羅にバレたら、僕、殺されるかも。いや間違いなく殺される。一緒のベッドで寝てたし……。でも、僕、嘘は言ってないからね。みんな面白がって、僕に女の子の服を着せてただけで……


 「何をぶつぶつ言っておるのじゃ。初めてそなたを見た時から、妾には分かっておったわ」


 セイナは、上目づかいにクスクスと笑った。


 「そなた、男になるのか、女になるのか、まだ決めておらぬのか?」


 「え? 決めるって? 男と女? それって、自分で選ぶものなの?」


 この世界でも、性転換手術とかあるのだろうか。もちろん、僕、そんな気、皆無だけど。頭が混乱してきて何がなんだか。


 「自分のことじゃろ。そなた、ジャイルマ生まれであろう。しかも、妖魔の血を引いておるの。見たところ半妖か」


 確か、魔人も、僕を“はんよう”だと……、それって、どういう意味?


 「その、ほうけた顔、まさか、本当に知らぬのか? ならば、特別サービスで教えてやろう。そなたは、まだ、妖精体。男にも女にもなっておらぬ」


 「え?」


 「なんじゃ。知らなかった割には、大して驚かぬの。つまらん」


 「いや、驚くもなにも、そんな突拍子もない事、いきなり言われても……、つまり、僕って、男じゃないの? 女でもないって、えええ? 僕って、何者? 妖精? 人間じゃないの?」


 「今のところ人間には違いない。今のところはの」


 なに? その意味深な言い方。悪い予感しかしないんですけど。


 「強いて言えば、中性かの。幸い、まだ両性具有にはなっておらぬ。そなたのような年頃になるまでには自ずとどちらかの性を選ぶべきなのじゃ」


 「そ、それって、この世界では常識? みんなそうなの?」


 「そんなはずはなかろう。人間の妖精体は極めて稀なケースじゃ。そして、特殊な力を持っておっての。見る者の心を魅惑するのじゃ。だから、妾のような歌姫稼業の者と本人ぐらいしか知らぬ。営業秘密というものじゃな。妾とて、妖精体を見たのは初めてじゃ」


 「魅惑するって……」


 「魅了であったり、幻惑であったりすると聞く。詐欺師紛いの者もおるらしい。一つだけ言っておくぞ。妾からの助言じゃ。助けてくれた恩義があるからの。


 これまで通り少女として振る舞い、あの者たちには妖精体の事はくれぐれも秘密にしておれ。そして、出来るだけ早く、男か、女、どちらかを選ぶがよい。残された時間は少ないと思え。


 妾のお勧めは、もちろん女じゃぞ。そなたのような美少女が男になるなど勿体ないわ。美への冒涜というもの。と言うのは冗談」


 セイナは、言葉を区切った。彼女の顔から謎めいた笑顔が消えた。


 「流れている妖魔の血とその濃さによるが、男になると、妖魔の特徴が発現し、あのダングレアのような化け物になる可能性がある。ダングレアも遠い昔、妖精体じゃったそうな」


 「へ? えええええっ!」


 「妖艶な美少年だったと言い伝えられておる。魔王の呪いで魔人にされたと一般には信じられておるが、実のところは妖精体変幻よ」


 つまり、どういうこと? 僕もあの魔人みたいになるってこと? 可能性? いや、マジで無理なんですけど。そんなこと……。あいつが沙羅に恐喝されていた時、微妙に同情したい気になったのはそのせい? いやだ! 絶対いやだ! あんな怪物になるなんて。


 「危険な犬耳使い魔もおるから。用心せよ。妖精体だとバレたが最後。魔王軍に通報され、散々な辱めを受けよう」


 「ルゥちゃんが……? 辱めって、まさか……」


 「もちろん、妾は、そなたの味方じゃぞ。だから、……その」


 そこで、急にセイナの目にトロンとした表情が浮かんだ。顔が近すぎる。


 「も、もう一度、触らせてくれぬかの。そなたの、可愛いらしい物を……。一度触るも、二度触るも同じであろう。減るものでもあるまい」


 いや、減るかもしれない。もう、何も信じられない! こんな世界。僕は、吐息が荒くなったセイナを見ながら、また危険人物が一人増えたことを確信した。


 「これ。そんなに恥ずかしがるでない。妾を萌え死にさせる気か?」


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