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恋人未満の初デート

 人生初のデートの相手が男の子で、しかも貴族の子弟だなんて……


 うん。毎度のことだから分かっていましたとも。僕の、意見なんか聞き入れられない事くらい。沙羅の着せ替え人形にされながら、そう思った僕。ため息なんてつこうものなら沙羅に怒られるので、無理に笑顔を作って、ぎこちないポーズまでとりながら。


 自分ではシンプルな男の子っぽい服しか着ない沙羅が、こういう時だけはコーディネートに異常なまでの執着を見せる。まるで我が娘をモデルデビューさせるために気合の入った母親のようだ。




 「良かった。怒らせてしまったのかも知れないと心配していたんです。だから、キョウからお誘いを受けた時はすごく嬉しくって、即答しちゃいました」


 待ち合わせ場所で会った開口一番、カウルはそう言って、茶目っ気のある笑顔を見せた。そんな風に屈託無く笑われると、色々悩んでいた事が、無意味だったように思えてしまう。指定されたのはアンヌの喫茶店みたいな場所だ。たぶん、人払いの魔法とか結界とかに囲まれているのだろう。中はとても静かで、客は僕たち二人だけ。


 「誘ったのは僕じゃないけど……」


 「知ってましたよ。沙羅の使い魔からの着信だったので。でも、こうやって、キョウが来てくれたんだから、同じことです」


 カウルは、駅馬車の時と同じローブを着ているが、フードは脱いでいるので、笑うと、金髪がふわふわ揺れる。


 「カウル様が、女の子とデートだなんて、珍しいわね」


 メイド服姿の店員さんがそう言って、ホットココアを二つテーブルに並べた。


 「デートじゃないよ。アメリア」


 カウルは、照れた様子もなく、そう言った。ま、そりゃそうだよね。と思う僕。


 「可愛い子ね。ジャイルマ出身でしょ。顔立ちで分かるわ。北国のジャイルマには美人が多いから。古代の妖精の子孫だって伝説もあるのが分かる気がする」


 アメリアと呼ばれた店員さんも情報通なのだろう。僕は、うつむき加減の曖昧な笑顔でうなずくしかなかった。出来れば、その話題は避けたい。デートじゃないと言われた僕への気遣いか、ただのお世辞だと思うけど、僕の体、キョウという少女に関する事は、僕には応える記憶すら無い。


 「あのさ、カウルは、どうして来てくれたの? あ……、僕も会えて嬉しいよ。今は、本当にそう思ってる。でも、カウルは……」


 僕は、思い切って話を切り出した。


 「直接会って、謝りたかったんです。黙っていたこと。領主の弟だって。結局、キョウを騙したみたいになったから」


 「僕も、謝りたかったんだ。せっかく招待してくれたのに、断って。その……、悪いことをしたなって」


 「じゃあ、お互いさまだね」


 屈託の無い笑顔でそう言って、カウルは、無言でアメリアに指図を送った。彼女は別室に移り、部屋の中、二人だけになった。


 「本当のことを言うと、沙羅の使い魔からの着信には驚いたんだ。キョウは沙羅が好きなんだよね? それなのに彼女からキョウの名前でデートのお誘いだなんて」


 「あ、あれね。あれは……、そう、沙羅のいたずら。勝手に面白がってさ。デートだなんて、め、迷惑だったよね」


 「俺はもう君に気持ちを伝えたよ。デートに誘われて嬉しかったって」


 「でも、デートじゃないって、さっきはっきり言ったし……」


 僕の言葉に、カウルはまた悪戯っぽくクスッと笑った。


 「アメリアの前ではそう言わないとね。俺、女の子には興味が無いことになっているから」


 「ん?」


 「キョウはどうなの? 俺の質問にまだ答えてくれてないよ。沙羅のこと、どう思ってるのか」


 僕、沙羅が好きだった。今でも、気持ちは同じだと思う。でも……


 「……僕、もう、資格が無いから」


 「何の資格? 女の子同士だからってこと?」


 僕は、ただ首を横に振った。


 「人が人を好きになるのに資格なんていらないでしょ?」


 「僕、自分でも自分の事よく分かってないから……、変なこと言うけど、驚かないで。僕、人間じゃないみたいなんだ」


 カウルはしばらく無言のまま、濃い青の海のような瞳で僕の目をじっと見た。何? この沈黙。気まずいんだけど。やっぱり、言わなければよかった。僕が後悔した時、カウルは吹き出すようにクスクスと笑い出した。


 「笑ってごめん。キョウが、あんまり深刻そうに言うから、つい、可笑しくって。あのケルピーの女の子が一緒にいた時点で、そのくらい気付いていたよ。幻獣がただの人間に懐くはずないもの。やっぱり、キョウは面白い」


 「面白いって……」


 「一緒にいて、楽しいってこと。駅馬車での一緒の旅はすごく楽しかった。だから、あのまま終わりにしたくなかったんだ」


 「カウルはいいの? 僕が人間じゃなくても、いいの?」


 んんん? 自分でも色々と話を飛ばしている気がする。でも、僕にとっては、カウルに受け入れてもらえるかどうかが、今、一番の関心事に思えた。人間として? それとも、友達として?


 「俺が今、こうして、君の前にいることが、その答えになってない?」


 「カウルは、やっぱり優しいんだね。僕、誤解してた。身分の違いがあるから、友達になんてなれないって、勝手に思い込んで、意地を張ってた」


 僕の言葉に、カウルの表情が一瞬険しくなった。


 「キョウもそんなことを思うの? 伯爵家の子弟は、自分の意志で友達も恋人も作ってはいけないって。俺は嫌なんだ。産まれついた家柄に縛られる形式だけの生活なんて。男の子にしか興味が無いって、公言してるのも、カモフラージュのため。そうでもしないと、すぐに、政略の道具として婿養子にされてしまうから……、あ……」


 気色ばんだカウルが、そこで、口ごもった。


 「ごめん。キョウに言うべきことではないね」


 「カウルが謝る必要なんか無いよ。思い込んでた僕が悪いんだから。僕、カウルと友達になりたい。いいよね、こんな僕でも」


 「もちろん。そのつもりだよ。友達から始めましょう」


 「え……? え、えっと……」


 ……から? から、が付け加わっただけで、ずいぶん意味が違う気がするんですけど……。僕、友達になりたいって思ったけど、始めるって、何を? そう意識した途端、僕、顔が火照って、赤くなっているのが自分でも分かった。あれ、僕、大胆なこと言っちゃったのかな、そんな意味じゃ……


 「どうしたの? 急に顔を赤くして」


 「あ、あの……、ともだち、から?」


 「うん。今はまだ、友達以上、恋人未満だよね」


 にっこり笑うカウル。こ、こ、こ、こいびと? 何それ? む、無理なんですけど……。顔から火を噴きそう。いや、噴いてる。カウルの笑顔を見ると目がチカチカするし、頭がぼっとしてめまいがするもの……




 「カウル様のせいね。こんなウブな子に刺激の強い言葉を使うなんて」


 「アメリア。俺、ただ、恋人未満って言っただけで……」


 「ジャイルマのエルフは、とても純真なの。特にこの子は、存在自体が奇跡と言ってもいいわ。恋愛関係には全く免疫が出来てないみたいだから、言葉一つにも気をつけないと」


 「分かったつもりではいたけど、まさか、こんなに繊細だなんて……。あ、目を開けた。良かった」


 カウルが初めて見せる心配そうな顔で、覗き込んでいるのに気付いた。僕、気を失っていたみたい。喫茶店のソファに寝かされている。


 「はい。気つけのハーブティを飲んで。むせないようにゆっくりね」


 アメリアが僕の背中を支えて身体を起こしてくれた。ソファに座って、差し出された香りの強いお茶を飲むとお腹が暖かくなって気持ちが落ち着いてきたけど、まだ、カウルの顔は直視出来なくて、思わず目を背けてしまった。




 「で? 首尾はどうだったの? カウル君とのデート」


 「お友達になれた」


 宿に戻った僕は、沙羅にそれだけ言って、ベッドに顔を伏せた。


 「あのね、わたし、あなたのおままごと遊びに付き合う気も暇もないの。ちゃんと、伯爵に会うきっかけ作れたんでしょうね!」


 「その点は、問題ありません。マスター。今、イフ=レーミンから、着信がありました。兄上に紹介したいから、城で待つ、と」


 いつも通り抑揚の無い声のルゥちゃんが、パタパタ尻尾を振りながらそう言った。


 「なんだ。ちゃんと話しつけてきたんじゃない。上出来よ。キョウ。……でも、服が皺になるから起きてね」


 と、ベッドにうつ伏せのままの僕の背中を撫でる沙羅。


 「カウル」


 と、シャルマが僕の耳元でささやくように言った。


 「ねえ、沙羅。面白いよ。キョウに、カウルって言うと、耳を赤くして、体をプルプル震わせるんだよ」


 「キョウをおもちゃにして遊ぶのは止めて。シャルマ。それより、作戦会議。どうやって、全員で伯爵の居城に乗り込むか。宮廷魔術士のオシリスもいるから、用心しないと」


 「オシリスは、怖いから、沙羅に任せた。ハニートラップっていうのしかけたら?」


 パシッと、鋭い音がして、シャルマの小さな悲鳴が聞こえた。沙羅に思いきり叩かれたようだ。


 「ひどいよ。沙羅。ぶつなんて。本気で言っただけなのに。沙羅、胸が大きいから、そういうの得意なんじゃないの?」


 さらに大きな音と共にシャルマの悲鳴が上がったので、僕、沙羅を止めに起き上がるしかなかった。シャルマが殺される前に。


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