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浮雲(ふうん)な私は福幸(ふこう)へと至る  作者: 初摘みミント


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フラッシュバック

それは、いつものように仕事をしていた時だった。

レンの指示通りに指定の場所へ行き、そこにあるものを回収するだけ。

…それだけのはずだった。

なのに。

私はそこに落ちていた欠片でも部品でもない、何の変哲もないリボンから目を離せずにいた。

見覚えがある。

おそるおそる手を伸ばして、リボンがその指に触れた瞬間、異変が起こった。

指先がじゅわっと熱くなったかと思うと、覚えのない映像や音声が一斉に頭の中に流れ込んできた。


(な、なに…?)


時折どうしたら良いのか分からないとでも言うように見つめてくる父。

私の存在がないかのように振る舞う母。

慈愛の眼差しを向けてくる自分と同じ顔の誰か。

父を罵倒する母の声。

優しい子守唄。

美味しいはずなのに味がよく分からない食事。

暖房がついていてもいつだって寒さを感じる家。

窓際の初恋の人。

いつでも私の側にいてくれるぬいぐるみ。

たまたま見てしまった手記。

耳鳴りのように響く悲鳴と悲痛な叫び声。

焦げ臭さと共に充満していく鉄の匂い。

視界一面の赤。

熱い。

肌の表面をじわじわと焼かれるようなーーー


心臓がばくばくと脈打つ。

私は頭を押さえるが、その感覚の嵐にどうしても気分が悪くなり、よろめいて座り込む。

呼吸が荒い。

視界までぐるぐるとして気分が悪くて、いっそ吐き出してしまいたいのに。

何故だろう。

何も迫り上がってこない。

まるで、その全てが異物ではなくて自分の本来のものだったかのように。


(なんなの…?)


呼吸がだんだんと楽になる。

…気分も落ち着いてきた。

吸い込む酸素が美味しく感じる。


「おや、あんた。大丈夫かい?」


たまたま通りがかった夫婦二人組が声をかけてくれたらしい。

私は呼吸を整えながら、声の主を見る。


「………っ!?」


一瞬だけ、ほんの一瞬。

のっぺらぼうに見えたが次に瞬きしたときには“人の顔”だった。

心配そうな顔でこちらを向いている。


(…また、見間違えよね?)


さっきまで気分が悪かったから。

そのせいだと自分に言い聞かせながら、その人達に「大丈夫です」と答える。


「こんなところに蹲っているから驚いたよ」

「…おや、綺麗な桃色のリボンだね?髪でも結いたかったのかい?」

「…今、なんて?」


私はその言葉に目を瞠った。

相手はお互いを一度見合えば、首を傾げた。


「髪を結いたかったのかい?て」

「いえ、その前の…」

「ああ。綺麗な桃色のリボンだねって」


私は呆然とした。

相手はだんだんと私の態度を不審がる。


「もしかして、まだ気分が悪かったりするんじゃないのかい?」

「いえ。本当に大丈夫なんですけど…あの…このリボンは桃色なんですか?」

「桃色だろう?」

「うーん、どちらかと言えば薄紅色かねぇ。でも、それ以外の色には見えないね」


私はまたリボンから目を離せずにいる。

二人は私の様子に何だか気味が悪くなったのかそそくさと適当なことを言ってその場を立ち去った。


「桃色…薄紅色ですって?」


…私の目に映る“それ”は紛うことなく“赤”だ。

禍々しい程のどんよりと薄暗さを感じさせる赤。

なんだろう。

嫌な予感がする。

そして、気付いた。

このリボンの端に誰かの指の跡がついてることに。

脳裏にまた違う光景が浮かぶ。

勢いよく燃え盛る真っ赤な炎の中で自分を突き飛ばし、扉を閉めた誰かの血塗られた手をーーーーー。


「…おかしい。なんで?この前やっと会えた家族と顔も声も…皆、違うの…?」


そう尋ねた私の言葉に答える声はなかった。





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