偽りの再会
陽射しが暖かくて日向ぼっこでもすれば眠たくなるようなある日。
突然、ヴィンセントがアイリスの家族を見つけたと伝えてきた。
きょとんとするアイリスにヴィンセントは甘い微笑みを向けて尋ねる。
「貴女の家族に会いたいですか?」
ゼノは興味がなさそうだったが、アイリスが不安そうにしていることに気付くと、近寄ってきて頭を撫でる。
それから、アイリスの考えを見透かすように尋ねた。
「一緒に行こうか?」
そして、三人でお出かけ。
村の入り口に立った瞬間、どこからともなく懐かしい鐘の音が響き渡る。
アイリスの姿を見た誰かが走り出し、叫びながら報告をすれば、家々から住人たちが飛び出してきて感極まった様子でアイリスを囲んだ。
「おかえりなさい! ずっと、ずっと待っていたんだよ…!」
「ああ、面影があるな…。立派になって戻ってきて…」
アイリスの手を取りながら涙を流す見知らぬ老婆に胸で泣く妻の肩を抱いて涙を流す夫。
…記憶を失っているアイリスには彼らが誰かは分からない。
けれど、向けられる圧倒的な善意になんだか心が温かくなる。
“待ち望まれていた”という感覚がアイリスの心を満たした。
アイリスは戸惑いながらも微笑んだ。
「…私、まだ皆のことを思い出せないけれど…会えて嬉しい。私、こんなに愛されていたのね」
そう言って、アイリスは何だか自分の言葉に違和感を感じたが、気付かないふりをした。
ヴィンセントはアイリスの隣で満足げに目を細めていた。
「ええ、もちろんです。皆、貴女を心から愛している。こうして、ずっと貴女を待っていたのですから」
そんな中、村はずれの枯れた大木に寄りかかり、つまらなさそうに遠くからその光景を眺めている人物が一人。
ゼノだ。
彼は独り言のように呟く。
「…ふん。反吐が出る。よくもまあ、あんな嘘っぱちの芝居に浸れるもんだ」
ゼノは輪に加わろうとはしない。
彼はアイリスが父親と母親を自称する人物に抱きしめられている姿をひどく冷めた視線で、そして、どことなく苛立った様子で見つめていた。
そんなゼノに気付いたアイリスはもらった花冠を手に駆け寄ってくる。
「ゼノ!これ、私にって。ねえ、ゼノもこっちに来ない?」
駆け寄ってきたアイリスの笑顔に毒気を抜かれたようにゼノは息をつくと、アイリスに優しく微笑んだ。
「俺は遠慮しとく。…良かったね、お姫様。久々の家族との再会を楽しんでおいで」
「…ゼノが気乗りしないなら仕方ないね。また後で来るからね!待っててよ?」
アイリスはそわそわとゼノにそう言いながら、また家族の下へと走っていく。
ゼノは寝転んで頬杖をついた。
こんなことであそこまで喜ぶだなんて予想外だ。
ゼノはアイリスと家族を眺めながら、鼻で笑った。
「お姫様…あいつらの目を見てみなよ。愛してるなんて言ってるけど、瞳の奥は空っぽじゃないか。あいつらが愛してるのは君じゃない。ヴィンセントが書いた“台本”だ」
そう言えば、どこからともなくゼノに悪寒が走る。
気配の先を探ると、冷たく睨みつけるヴィンセントの姿があった。
「…ゼノ様、興を削ぐのはおやめください。彼女は今、ようやく安らぎを得ているのですから」
ゼノはその言葉に可笑しくて笑いを堪えられないように返した。
「安らぎ、ねえ。…偽物の家族に囲まれて、本物の自分を完全に捨てるのが王子様の言う“幸せ”か?…おめでたいね」
ヴィンセントはぴくりと眉を動かす。
村の奥からは再び楽しげな笑い声が反響する。
ゼノは独り言のようにまた呟いた。
「…あんな温い嘘に騙されてさ…。こんなことなら、死ぬまで僕だけを恨んでればいいのに…」




