八話【新たな出逢い、犬猿の仲の吸血鬼】
「よしっ、今日から気合いいれて頑張るか!」
今日の俺は、いつにもましてやる気に満ち溢れている。
昨日、楓さんに貰った『簡単に強くなれる100の方法』を読んだ今なら真吸血鬼なんか、相手にすらならないと思っている。
実際にはそんな簡単にいくわけないのだが、とにかくそれぐらい俺はやる気だ。
「真吸血鬼なんて、俺が倒してやる!」
「バカかお前...」
気分良くギルドへの道を歩いていると、キリッとした目付きの茶髪にピアスをした男が、俺に向かって辛辣な言葉を浴びせてきた。
誰だ? こんな奴は見た事ない...いや、そんな事より、今俺の事をバカって言ったよな? 初対面の人に向かってなんだよその言い方。
歳も俺とあまり変わらないか、ちょっと歳上ぐらいだしガツンと言ってやる。
「おい! 今俺の事をバカって言っただろ!」
「お前以外に誰が居るんだ? 真性のバカかよ」
ピアスの男は頭を押さえると、ため息混じりでこちらを見ている。
こいつ...重ね重ねバカって言いやがって。こうなったら実力行使だ。
「こんなバカが新入りとはな...」
「え?」
新入り? こいつもギルドのメンバーなのか?
ピアスの男は、こちらに背を向けてギルドの方角へ歩きだしていった。
ギルドのメンバーなら悪い事したかな...って、よくよく考えると、俺は何も悪い事言ってない! 何なんだアイツ!
「朝日さん、遅いですよ」
ギルドに到着すると、ミツキが外で待機していた。
「あー、ごめんごめん。変な奴に会ってさ」
「誰が変な奴だ。変な奴はお前だろバカ」
ミツキと一緒に俺を待ってたのは、さっき会ったムカつくピアス男だった。
また人の事をバカって言いやがって...何でこいつがミツキと一緒に居るんだよ。
「朝日さん、こちらの方はジェノスさんと言います」
「いや、ピアス野郎って呼ぶからいい」
人をバカにする奴の名前なんか、口にする気はしない。
こんな奴ピアス野郎で充分だろう。少なくとも、俺の事をバカって言わなくなるまでは名前で呼んでやるもんか。
「糞バカ...死にたいみたいだな」
「お前こそ、俺の事をバカって言うのをやめろピアス野郎」
「二人共、喧嘩してないで早く行きますよ」
それから三十分程で、依頼の場所に到着した。
そこには何かの施設と思われる、雰囲気からして怪しい気配が漂う建物が存在していた。
現実世界にこんな建物が建っていたら、間違いなく肝試しの聖地になっているだろう。
「ここには赤い十字架の真吸血鬼が6人潜伏しています。その真吸血鬼達を討ち取るのが、今回の任務です」
「真吸血鬼が6人も? 無理じゃない?」
ごめんなさい楓さん...昨日、やる前から諦めたら駄目って言われたのに、既に心が折れそうです。赤い十字架が一番格下とはいえ、前にたった一人の真吸血鬼にすら勝てなかった俺が、複数の真吸血鬼に勝てるわけない。
「朝の威勢はどこへ行ったのやら...俺が一人で片付けるから、指をくわえて見ていろバカ」
ジェノスは自分の指先を、腰につけてたナイフで軽く切って血を流す。
そして手で銃のジェスチャーを作ると、そのまま血の銃弾を発射した。
銃弾は小さくあまり威力が無いように見えるのだが、その威力は凄まじく、施設の三分の一を破壊していた。
大きな音を聞きつけた真吸血鬼の、6人全員が施設から出てきた。
「ゴミがわらわら湧いてきやがったな」
そのうちの4人の真吸血鬼が、ジェノスに向かって近接戦闘を挑んできたが、ジェノスは持っていたナイフで頸動脈をピンポイントで切り裂いていく。
残りの2人の真吸血鬼は遠距離から攻撃を試みるが、ジェノスに隙はなく、血の銃弾で心臓を貫かれてしまう。
俺の戦闘とジェノスの戦闘では、レベルがまるで違かった。ただの口が悪い役かと思ったが、実力は確からしい。
「凄いね、ジェノス君。ファンになりそうだよ」
この声は...あの時の金髪の男!?
白い十字架のネックレスをつけた金髪の男は、ジェノスを見ながら、にこにこ微笑んでいた。
相変わらず、冷たい笑顔だ...見てるだけで足が震えてくる。
「何でここに居るんだ!!」
金髪の男は自分の口元に指を当て、考えるような素振り(そぶり)を見せると、笑顔のまま俺の質問に答えた。
「んー、気まぐれかな...あっ、前に自己紹介してなかったから一応しとこうかなって。僕は吸血鬼を皆殺しにして、真吸血鬼の楽園を作ろうとしてるミランだよ、よろしくね」
ミラン...吸血鬼を皆殺しにするだと。残虐な事を言っているのに、終始満面の笑顔でこちらを見ている。
ジェノスは、俺とミツキに対して小声で話しかけてきた。
「お前ら、隙を見て逃げろ。あいつは次元が違う、お前らが居ても役に立たない」
「逃げろって...ピアス野郎、お前なら大丈夫だって言うのか?」
「少なくとも、お前らよりは生存確率が高い。俺が囮になってやる、その隙に逃げろ」
そう言うとジェノスは、ミランに向かって血の銃弾を撃ち放った。
しかしミランの前に現れた、赤いガラスみたいな物に弾かれてしまう。
あれだけの威力の攻撃を、容易く受けきるなんて...やはりあのミランという男は、そこらへんの真吸血鬼と比べ物にならない力を持っている。
「朝日さん、行きますよ」
ミツキに腕を引っ張られ、その場から逃げ出してしまう。
ミランに追いかけられるかと思ったが、意外にも追ってはこなかった。
「あのバカ共を追わなくていいのか?」
「うん、君にも興味あるし君で我慢するよ」
「ほざけ」
俺達はミランから逃亡する事に成功した。
これもディランのおかげだ、無事逃げ出せて良かった...良かったのか?
仲間を見捨てて逃げて、それで本当に良いのか?
「ミツキ、俺戻るよ」
「何を言ってるんですか、朝日さん」
「糞ムカつく奴だけど、あいつは俺達を逃がす為に体を張ってくれたんだ。そんな奴を見殺しにするなんて俺には耐えられない」
俺は急いでミランとジェノスの居る場所へ走り出した。
急がなきゃ、ジェノスは殺されるかもしれない。待ってろ、すぐに行く! それまで耐えてくれ。
「君、中々強いよね。惚れ惚れしちゃうなぁ」
「ぺちゃくちゃ喋ってんじゃねぇよ」
ジェノスは、ナイフをミランの心臓めがけて突きを繰り出す。
赤いガラスに防がれたと思いきや、ガラスは粉々に砕けてしまった。
「簡単に割れた?」
ジェノスの手には、ガラスの破片が突き刺さっていく。
ガラスが割れた事により、大量のガラスの破片で、逆にダメージを倍増させる事が狙いだったようだ。
肝心のミランは、ジェノスのナイフをかわしている。
「こういう事かよ...」
「ガラスっていいよね。綺麗だし、敵を痛ぶるのにも使えるし、最高だよ。さてジェノス君。そろそろ死んでもらうよ」
ジェノスの周りには、20枚以上の赤いガラスが出現している。
どんな吸血鬼でも、このガラスを全て同時に喰らったらひとたまりもないだろう。
「ここまでか...」
「おーい!! 糞ピアス野郎! 助けに来たぞー!!」
ジェノスは、まさか朝日が戻ってくるとは思ってもいなかったようで、唖然とした顔で朝日達を見ている。
「せっかくジェノス君が囮になってくれたのに、朝日君戻ってきたよ? 流石朝日君、楽しませてくれるね。ジェノス君はどう思う?」
「ただの、バカ野郎だ...」




