七話【強くなる方法、焦る吸血鬼】
「強くなりたいとは言ったものの、これからどうすればいいんだろうか」
俺は、珍しく一人で街中を歩いていた。
普段ならミツキが付き添いに来るのだが、ミツキの怪我も治ってないし、付き合わせるのは悪いので今回はついてこないように言っておいた。
ミツキは不満そうだったが、俺が一人の時間が欲しいと思ったのか何とか了承してくれた。
「歩いてるだけで強くなれるわけないしなー」
かれこれ一時間くらいは、目的も無く彷徨いているだけだ。
そもそも俺の能力は血を吸うと体が再生するだけなので、根本的に強くならない限り傷つけられる回数が増えるだけだ。
どうにかして強くならなければ、真吸血鬼になすすべも無く殺されてしまうだろう。
「あれ? 朝日君? どうしてこんな所に居るのっ?」
俺の事知っているのか?
この明るい声は聞き覚えあるけど、誰だろう。
明るい声...もしかして
「楓さん? どうしてここに居るんですか?」
そこに居たのは、青髪のポニーテールの女性。
前にギルドで自己紹介をした楓さんが、大量の荷物を抱えながら、ふらふら歩いていた。
「荷物持ちましょうか?」
「ありがとっ! じゃあ半分お願いねっ」
俺は楓さんの荷物を半分持ってあげることにした。
半分持っただけでも重い。
楓さん、一人でどれだけの荷物を持ってたんだよ...。
「それでっ、朝日君は一人で何してたのっ?」
「今すぐ強くなりたいんですけど、方法がわからなくて...」
「ふーん。それで街中を無駄に歩いてたんだねっ」
「ぐっ」
心臓にグサッと槍が刺さったような気がした。
確かにその通りだけど、人から言われると結構キツい。
「そだっ、買い物に付き合ってよっ」
「えっ? でも...」
「いいからいいからっ」
楓さんは、俺の腕を無理矢理引っ張ろうとしている。
そんなに引っ張られると、持っている荷物が落ちそうになって危ない。
「わかりました! わかりましたから引っ張らないで下さい!」
楓さんの買い物に振り回される事、二時間が経過した。
「いやー、こんなに付き合わせてごめんねっ。凄く助かったよっ」
「い、いえ...」
やはり俺は、楓さんの事が苦手かもしれない。
勿論、楓さんの容姿が嫌いなわけではない。
こういう突き抜けて明るい性格の女性に、俺は断るという事が出来ないので苦手意識がついてしまっている。
「で、強くなりたいんだっけ? 買い物に付き合ってもらったお礼に、特別に強くなる方法を教えてあげるよっ。ついてきてっ」
楓さんが強くなる方法を教えてくれる?
本当に大丈夫だろうか...正直、期待出来ない気がする。
だけど、方法が思いつかない以上、なりふり構ってる場合じゃない。
素直に楓さんの後をついていく事にした。
「ここまでくれば、大丈夫かなっ」
楓さんに連れられた場所は、人の気配が全く無い森の中だった。
こんな場所で、一体何をするつもりなのだろうか。
楓さんは手に抱えた荷物を床に置くと、自分の指先を軽く噛んだ。
指先からは、少し血が滲んできている。
「何してるんですかっ!?」
「朝日君、吸血鬼ってどういう存在だと思う? 血を吸うだけ? 空を飛べるだけ? それだけじゃないんだよっ」
そう言うと、楓さんの指先から出た血は形を変え、刀の様な形状に変化した。
血が...固まった!?
「吸血鬼はねっ、血を使って普通では考えられない能力を発揮できるから吸血鬼なの。朝日君も心当たりあるでしょ?」
なるほど、俺の再生する能力の条件は血を吸う事だけど、吸うという行為に限定しないで、血に関わる事全般で吸血鬼の力は発動するって事か。
「あの...それと俺が強くなる事と、何か関係があるんですか?」
「私が言いたいのはね、うじうじ悩む前に行動すればいいんじゃないかなっ?って事だよ。私の能力と違って、朝日君は死にさえしなければ、傷自体を無かった事にできるんだしさっ」
確かに、俺は心臓や頭を潰されない限り不死身だ。
でも真吸血鬼達には簡単に殺されてしまうだろう...前に真吸血鬼を間近で見た俺にはわかる。
「だけど、今の俺では真吸血鬼を相手に死なない事なんてできるはずがないです。皆を守るどころか、自分の心臓を守る事すら出来るわけないです」
真吸血鬼を相手にして死なない。そんな事ができるなら、俺だってこんなに悩んでなんかいない。
やはり楓さんを頼ったのが間違いだったのか...。
時間も遅いのでそろそろ帰るよう提案しようとした時、いつもの明るいテンションとは違い、楓さんは真剣な顔で口を開いた。
「朝日君、本当にそう思ってるの?」
「え?」
「危険な事から逃げて、真吸血鬼と対等に戦えるようになると思ってるの? 一瞬で強くなれる方法があると思ってる? そんな良い話は、そうそうないよっ」
それは、自分でもわかっている。
だからこそ、歯痒くて仕方ないんだ。
早く何とかしなければと、自分を追い込んでしまい、また焦る。
さっきからずっと、この負の連鎖の繰り返しだ..俺はどうすればいいんだ。
「朝日君、教える約束だった強くなる方法を教えてあげる。それは、焦らない事っ。目先の事ばかり見ている人に、皆を助ける事なんてできないよっ」
楓さんは厳しい表情をしているが、俺に向けた言葉はとても優しかった。
楓さん自身だって大変なはずなのに...。
それでも焦らなくていいと言えるなんて、本当に優しい人なんだなと、心の底から思った。
「朝日君は、常に戦闘に参加して第一に自分の命を大切にする事っ。自分の命を大事に出来ない人に、人の命は救えないからねっ」
...俺は間違っていた。
戦う前から逃げていたんでは、永遠に強くなれるわけがない。
「まぁそゆことで、一応これをあげるから頑張ってっ!」
楓さんは、俺に何かの本をひょいっと投げてきた。
本のタイトルは、簡単に強くなれる100の方法...。
「それ読んだら、もしかしたら一瞬で強くなれるかもしれないよっ」
なんというか、楓さんらしい...。
気休め程度にはなるかもしれないし、一応貰っておく事にしといた。
家に帰ると、ミツキが体育座りで待機していた。
また不法侵入か...まぁいいや。
「表情が明るいですね。何か良いことでもありましたか?」
「いやぁ、特に無いよ」
それよりも、楓さんから貰った、簡単に強くなれる100の方法を読むことにした。
こういう本はすぐに読みたくなってしまう。
やっぱり俺は、この手の強くなれる系の話に弱いんだろう。
「それ、何の本ですか?」
「...ただの気休めの本」




