六話【赤い瞳、震える吸血鬼】
「ここはどこだ...?」
確かヴリコラカスとかいう白髪の男に殺されかけて、その後に...変な男が現れて...。
「そうだ、皆は無事なのか!? 痛っ」
「あまり大きな声を出さないで下さい。傷口が広がりますよ」
ミツキ? ミツキが居るってことは...ここはギルドか?
そんなことよりも皆がどうなったのかが気になる。
「子供達もマリアさんも無事です。朝日さん、貴方のおかげです。本当にありがとうございます」
そうか、無事なのか...何とか皆を守れたみたいでよかった。
自分の体はボロボロになってしまったけど、皆が無事なら体を張った甲斐があったというものだ。
多分、俺の事はミツキが運んでくれたのだろう。
今ここに居られるのもミツキのおかげだ、礼を言わなきゃいけないな。
「ここまで運んでくれたのってミツキだよね? ありがとう」
「いえ、気にしないでいいです。それより朝日さん、あの後に一体何があったんですか? 私が到着した時には、朝日さんがコンクリートの下敷きになっていたんですが...」
どこから説明すればいいだろうか...とりあえず俺は、ミツキと離れた後に起きた事を、一から全て説明する事にした。
俺の腕が切り落とされたが再生した事、自ら白髪の男と相討ちを狙った事、赤い瞳の金髪の男が現れた事...。
「なるほど、その金髪の男が見逃してくれたから、生きているって事ですか?」
「うん」
あの金髪の男が見逃してなかったら、俺は確実に死んでいた。
あの男の笑顔を思い出すだけで、震えが止まらない。
ミツキは少し考えた様子で俯き、腕をこちらに伸ばしてきた。
「朝日さんの体が、血を吸って再生したという事が、事実かどうか確かめたいので、血を吸ってみて下さい」
確かに証拠は無い。
でも、俺がこうして生きている事が証拠ではないだろうか。
ミツキの目は真剣だ、こんな事を言っても無駄だろう。
仕方ないので、ほんの少しだけ血を吸ってみて、証拠を見せる事にした。
「確かに朝日さんの傷口が少しずつ塞がっていきます。朝日さんの勘違いかと思いましたが、どうやら本当みたいですね」
信じてもらえた所で、俺はミツキの腕から口を離した。
わかってくれたならそれでいい。ここまで傷が塞がれば、完治するのも時間の問題だろう。
「何故止めるんですか? 傷が完全に治るまで、血を吸えばいいと思いますが」
「いやいいよ、もう大丈夫。それより急に現れたあの男達は一体何者なんだ? ミツキは知っているみたいだったけど」
「それは...」
「朝日君。その事は僕から教えるよ」
部屋の端の方で、マスターが立っていた。
ドアを開ける音は聞こえなかったが...いつから居たんだろうか?
「君の話に出てきた男達も、吸血鬼なのさ」
吸血鬼? ならどうして俺や子供達を襲おうとしていたんだ?
同じ吸血鬼同士なのに,敵対してるって事なのか?
「ただ僕らと彼らには、決定的な違いがある。それは...彼らは産まれた時から吸血鬼だって事さ」
あの男達が、俺の事を偽者と言っていたのはそういう事だったのか。
「彼らは僕達吸血鬼の事を偽者と呼んでいる。そして偽者を駆逐するという思想のもと、派閥を作っているのさ」
たったそれだけ? それだけの事で、子供達を殺そうとしていたのか?
要するに、差別で襲ってきたって事だろ?
なんだよそれ...勝手すぎるだろ。
「彼らの首についていたネックレスは見たよね?」
「...はい。黄色の十字架と、白い十字架のネックレスをつけていました」
「その十字架の色が、彼らの中で位を示しているのさ。赤が一番下で、黄色が真ん中、白が一番上という風にね」
あの赤い瞳の金髪の男は、白い十字架のネックレスをつけていた。
白という事は、あいつらの中で最も高い位という事だ。どうりで...いつまでたっても恐怖心が消えないはずだ。
今まで生きてきた中で、あんな冷たい笑顔の人間は見たことがない。
「本来、十字架は吸血鬼の弱点だと言われてるんだけどね。あえて、彼らは十字架を身に付ける事によって、自分達は聖なる存在だと主張しているのさ。彼らは自分達の事を、真吸血鬼と言っている」
「真吸血鬼...」
「そうだ。そして僕は真吸血鬼の目論見を潰すために、このギルドを設立したんだ。朝日君、改めて聞くよ、僕達のギルドに協力してくれるかな?」
寒気が止まらない...でも、あんな小さな子供達まで、自分勝手な理由で殺そうとするなんて、絶対に許せない。
元々は病気を治したくて吸血鬼になっただけだけど、見てしまった以上手を出さずにはいられない。
「はい、勿論。でも...マスター」
「なんだい?」
「俺は弱いです。あんな奴等が真吸血鬼だっていうなら、勝てる気はしないです。だから...俺は、強くなりたい...強くなって、真吸血鬼達を全員ぶっ倒してやりたい!!」
マスターは、俺の言葉を聞いて小さく笑った。
笑われるような事は言ってないんだが...。
「そうか、朝日くんは真吸血鬼に遭遇したにも関わらず、立ち向かう道を選んだか...。いい傾向だ...そうでなければ、ゲームはつまらないからな...」
「えっ?」
マスターの声は小さく、何を言っているのか聞き取ることが出来なかった。
ミツキも首を傾げている。ミツキも聞き取れなかったようだ。
「何でもないさ。その気持ちがあれば大丈夫だ。僕は依頼があるから、もう行くよ。朝日くんとミツキは、まだ休んでいてくれ」
マスターはドアを開け、部屋から出ていってしまった。
さっきは何を言っていたんだろうか?
まぁ...何でもないと言っていたんだし、気にしない事にしよう。
「朝日君、やはり君は僕を楽しませてくれる...見込みどおりだ」




