五話【現れた脅威、絶望する吸血鬼】
体から血が流れていく...。
俺は、自分の血が流れるのを見ながら理解した、このまま死ぬだけだ。
もう考えるのも疲れた。眠ろう...待て、俺が死んだら子供達はどうなるんだ?
あの男に、皆殺されてしまうんじゃないか?
見捨てるのか? できない...見殺しにはできない。
見殺しには...絶対にしない!!
「うああぁぁぁぁっ!!」
せめてもの足掻きだ、油断してる男の首もとを噛みちぎってやる。
高笑いしてた白髪の男は虚をつかれたのか、俺は首を噛みつく事に成功する。
「血だってなんだって吸い付くしてやる!!絶対に離さないぞ!!」
「てめぇ、まだ動けんのかよっ!汚い口で触れてんじゃねぇ!離せっ、偽者の分際でやめろっ!!早く死ねよっ!!」
必死に白髪の男の首に食らいついたが、簡単に振り払われてしまう。
すぐに離されてしまったので、男に致命傷を負わせることは出来なかった。
もう少し深く噛みつく事ができていれば、男に深手を負わせる事ができたかもしれないのに。
「てめぇ...その出血で動けるとか、化け物かよ...って」
白髪の男は、珍しい物を見るような目で俺を見ている。
何かあるのか? それより頭が痛い、倒れたい...。
俺は自分の頭を手で押さえて痛みを我慢する。
力を使いすぎてしまい、自分の頭を腕の力で支えきれず足がもつれてしまう。
「駄目だ、両腕でも支えきれない...両腕?」
俺の左腕は白髪の男に切り落とされたはず...なのに、どうして両腕があるんだ?
現に俺の左腕は、すぐそこに転がっている。
確かに腕を切られたのは、まぎれもない事実だ...どういう事だ?
「そうか、腕を切り落としても死なないってか~。吸血鬼っつーより、ただの化け物じゃねぇか。クククッ...なら心臓か頭でもぶっ壊してやりゃいいって事だろぉ?」
白髪の男は、指先を俺に向けてきた。
まずい、何か攻撃がくる。
俺がその場を離れた瞬間、後ろの建物が粉々に砕け散る。
「いっちょまえに避けるのか~。俺に噛みついた代償を払わしてやるからよ、最高に痛ぶってから殺してやる。だから逃げんじゃねぇよ偽者~」
逃げよう、今は出来るだけ遠くに逃げるしかない。
おそらく、あの白髪の男は見えない何かを飛ばしている。
あの男には正面から戦っても絶対に勝てない、なぶり殺されるだけだ。
だが、もしかしたら勝機があるかもしれない。
...とにかく頭が重い。既に痛みすら感じなくなっている...体が重い。
こんな状況で逃げ切れるだろうか...いや、やるしかない。
俺は男に背を向け、全力で走り出した。
「だぁから、逃げんなって言ってんだろ」
当然、白髪の男は俺を追ってくる。
これでいい。こうする以外に選択肢はない。
白髪の男に追われてから、5分程が経過した。
たどり着いた場所には、白いコンクリートの壁が立ちはだかっている。
完全に行き止まりだ。逃げ場はもう無い。
「狭い道ばっか通りやがって、追いかけにくいだろ。でも逃げた場所が悪かったな。自分から行き止まりに逃げるなんてよぉ、ゲームオーバーだ。さようなら~」
白髪の男は、指先を俺に向けてきた...この時を待っていた。
この状況で白髪の男が力を使えば、おそらく周りのコンクリートの壁は崩れ落ち、俺とあの男には、コンクリートの雨が降り注ぐだろう。
俺も逃げる事は出来ないが、あいつも無事には済まない。
俺は、白髪の男から逃げながら、俺の腕が戻った理由をずっと考えていた。
もしかして、あの男の首を噛んだ際に、血を吸いとったからではないのか?
前に本で見たことがある。吸血鬼は心臓を潰されない限り死ぬことがない、不死の生物だと。
他人の血を吸うことで、体を再生する能力があると書いてあった。
ならば話は簡単だ。心臓を守って、死ぬほど痛いのを我慢すればいいだけだ。
確証は無いけど、この方法に賭けるしかない。
「お前も終わりだぞ」
白髪の男は何かに気づいたみたいだが、もう遅い。
コンクリートの壁が割れる音と共に、コンクリートの塊がお互いの体に落ちていく。
「成功したのか...」
俺の体は、コンクリートに挟まれて身動きが取れない。
あの白髪の男も、コンクリートの山に埋まっている。
「なんとか、勝った...」
「誰が勝ったって?」
白髪の男は、コンクリートの下から這い上がると、怒りに震えながら俺を見ている。
あの攻撃でも致命傷を負わせることはできないのか...なんて奴だ。
「人を舐めんのも大概にしろや!!偽者野郎がよぉ!」
俺の体は動かない。
気力とかどうこうじゃない、指一本すら動かせない。
これだけ、時間を稼いだんだ...皆、俺を置いて逃げてくれてるといいな...。
「いい加減、死ねや!!」
男はまたも、指先を俺に向けた。終わりだ...
「やめなよ」
白髪の男ではない、違う誰かの声が聞こえてきた。
体を起こせないので、顔はよく見えない。
髪は金髪に見える...そして首に、白い十字架のネックレスをつけた男みたいだ。
「偽者ごときに手こずるなんて...ヴリコラカス、君も落ちぶれたね。そこまで粘られたんだ、生かしてあげなさい」
白髪の男の仲間か...?
ヴリコラカスっていうのは、白髪の男の事だろう。
「それは出来ません。つーか、今更出てきて何を言ってるんですか? 俺はコイツの事をぶっ殺しますよ~?」
「そうか、残念だよ」
もう一人の男がそう呟くと、白髪の男の悲鳴が聞こえてきた。
腕...、白髪の男の腕と思われるものが、俺の目の前に落ちてきた。
そうすると、もう一人の男が俺に向かって歩いてくる。
「ごめんね。君とヴリコラカスの追いかけっこは見ていたんだけどね、君の逃亡っぷりに魅力されてさ、僕は君のファンになってしまったのさ」
もう一人の男は、まるで昔から知っている友人に話しかけるような、柔らかい口調で話しかけてくる。
「お詫びにヴリコラカスの左腕も切り落としといたからさ、それで許してくれない? まぁ、君と違ってヴリコラカスの腕は再生しないんだけどね」
金髪の男は腰を下ろし、俺に顔が見えるような位置に顔を持ってくる。
「僕達は退くことにするよ。でも次に会った時は多分殺すからさ。頑張って強くなってね」
その男の顔は笑っていた。とても穏やかな表情をしている。
だが、白髪の男に殺されかけた時以上に寒気がした。
優しそうな表情とは裏腹に、その男の瞳は、妖しい赤色に光っていた...。




