四話【初めての依頼、困惑する吸血鬼】
「起きてください。朝ですよ」
疲れてるからまだ寝たい...。
...後、五分...後五分だけでいいから寝かせてくれ......って!? 俺は紹介してもらった家で寝たはずっ! なんで人が居るんだっ!?
俺は即座に起き上がり、周りを確認する。
「おはようございます。朝日さん」
ミツキは何事もなかったかのように、床に体育座りで座っていた。
前にもこんなような事があった気がする。
「なんで俺の部屋に居るんだ」
「侵入したからですが?」
キョトンとした顔でこちらを見ている。
本当に悪気は無いんだな...それはそれで問題だと思うが。
「まぁいいや。お腹空いたんだけど、吸血鬼世界には何か食べ物無いの?」
昨日から何も食べてないからな、空腹で倒れなかったのが不思議なくらいだ。
何か食べ物をくれるのかと思いきや、ミツキは指を俺に見せてきた。
どういう事だ? 意図がよくわからない。
「吸血鬼は、血を吸うことで食欲が紛れるものです。ですので、私の血をどうぞ」
血を吸えって事か...いやいや、それは駄目だろう。
つい最近に吸血鬼になった俺に、まだ人の血を吸う覚悟は無い。
それに、ミツキの指を傷つける事になってしまうのが精神的に辛いしな。
「いやいいよ。今日はギルドに行くんでしょ? ちゃちゃっと行こうよ」
「そうですか。では、ギルドに行く前に売店でパンでも買っていきましょうか」
何だ、普通にパンとか売ってるんじゃないか。
それなら初めから教えてくれればいいのに...
「うん。そうしてくれると助かるよ...ふわぁ」
寝不足の影響で、口を大きく開けてあくびをしてしまう。
「あのベッド、寝心地が悪いようでしたら、棺桶でも用意しましょうか?」
「やめてくれ」
「冗談です。それくらいわかって下さい」
何だ、冗談か。吸血鬼とはいえ棺桶で寝るのは嫌だ。
ミツキは無表情で冗談を言うから、わかりずらいんだよなぁ。
その後、俺は売店で適当に食事を取り、少し遅くなったがギルドに到着した。
「やぁ、朝日君。よく来たね」
入口に入ってすぐの場所で、マスターが俺達を待っていた。
もしかして待たせてしまったか?...申し訳ない事したな。
「今日は君に、吸血鬼の仕事をしてもらおうと思う」
ついにきたか...朝は血を吸えなかったけど、血を吸うくらいの事は覚悟しなきゃな。
慣れるまでは辛いけど、慣れてしまえばどうにかなるだろう。
「それでは朝日君、子供達と遊んできてくれ」
「は?」
今何て言った?...聞き間違いだろうか。
子供と遊んで欲しいって...吸血鬼に依頼するわけがないよな。
「聞こえなかったかい? 子供と遊んできてほしいって言ったんだけど...」
確かに子供と遊んでほしいと聞こえた。
嘘だよな? 今日ってエイプリルフールだっけ...でも吸血鬼世界にエイプリルフールってあるのか?
いやいや、そうじゃなくて...どうして吸血鬼が子供と遊ぶんだ? もっと適切な人に頼んだ方がいいと思うんだが。
「朝日さん、今回は私も同行しますので、すぐに向かいましょう」
そんなこんなで、俺達は目的の場所に到着した。
「ここは...保育園?」
「いいえ、孤児院です。ここでは身寄りを無くした子供達を保護しています」
そうなのか...でも、それと吸血鬼と何か関係あるのだろうか。
確かにそういう子供達を元気づける事は大事だと思うが、吸血鬼がする事ではないと思う。
そんな事を考えていると、前方から女性が走ってきた。
「こんにちは。あら、そちらの方は?」
「こちらは、先日私達のギルドに加入した、日向朝日さんです」
「ど、どうも」
「そうですか、私はここの孤児院を管理しているマリアと言います。いつもすみません。こんな時代だからこそ子供達には笑顔になってほしいので...」
ギルドのメンバーはちょくちょくここに来ているみたいだ。
ん? こんな時代?...何かあったのだろうか。
「あの、こんな時代って...何かあったん」
「朝日さん。早く子供達の所へ行きましょう」
俺がマリアさんに質問しようとすると、ミツキに話を遮られてしまった。
軽々しく聞いてはいけないことだったのだろう。
ミツキの言う通り、素直に子供達の所へ行くことにした。
「なんだ...俺要らないじゃん」
子供達はミツキにとてもなついており、俺の元へ来る子供は誰一人居ない。
そのミツキも、子供達と一緒に笑顔ではしゃいでいる。
でも、たまにはこんな日もいいかもしれない。入院してた時は、ほとんど人に会えなかったしな。
こんな平和な時間が続けばいいのに...。
突然、背後からコンクリートが粉々に砕けたような爆発音が聞こえてくる。
爆発音が聞こえた方向を見ると、首に黄色の十字架のネックレスをつけた、白髪の男が佇んでいた。今の爆発は、あいつがやったのか?
「あ~、偽者共が沢山居るな~こりゃ骨が折れるな」
白髪の男は、俺や子供達を見ると、そんなような事を呟いた。
...何を言ってるんだ、あいつは。
「朝日さん! 子供達とマリアさんを連れて逃げてください!」
物凄い勢いでミツキはその男の前に対峙すると、俺に皆を連れて逃げるように言い出す。
こんな状況で急に逃げろと言われても、全く意味が理解できなかった。
「でも何が」
「いいから早くして下さい!!」
ミツキの表情を見ると、ただ事ではないのがすぐにわかった。
俺は、皆を連れ避難することにした。
「ククク、自分を差し置いて他人を逃がす勇敢だねぇ。感動して泣きそうだよ~」
「そういう割には、笑っていますけど」
白髪の男は、ニヤニヤしながらミツキを見ている。
そして男が指先を向けると、ミツキの肩から血が吹き出す。
その傷口は、鋭利な刃物で切りつけられたような痛々しい傷ができていた。
「あぁ、ごめんごめん。本心が顔に出ちゃってたね~。お詫びと言っちゃ何だけど、お前は最後に殺してあげるよ」
白髪の男は、背中から黒い翼を生やし、朝日達が逃げた方向へと飛んでいく。
ミツキも追いかけようとするのだが、先程の傷が想像以上に深く、上手く翼を生やすことができない。
「朝日さん...お願いします、皆を...逃がしてあげて下さい...」
あの男から逃亡して10分くらいが経過した。
俺は大丈夫だが、マリアさんと子供達の顔には疲労が見える。
さっきからずっと全力で走ってるんだ、無理もないだろう。
前方に丁度良い廃墟の様な建物を発見した。
「皆はこの中に隠れてて、俺は辺りを見てくる」
もしかしたらあの白髪の男が追ってきてるかもしれない。
ミツキの動揺を見た限り、多分、見つかった時点で終わりだ。
慎重に行動しなければならない。それにしても、あの男は一体何なんだ...。
「ミツキは、無事だろうか」
「ほぉ、仲間の心配か。お前も中々に仲間思いだねぇ~」
後ろから飄々(ひょうひょう)とした、けれど背筋が凍るような冷たい声が聞こえてくる。
その声に気づいて、振り向いた時にはもう遅かった。
左腕の感覚が、体から消えていた。あれ...? 何で俺の腕があそこに落ちているんだ?
そこでようやく気づいた、俺の腕が切り落とされてる事に...
「ああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!腕がっ腕がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ハハハッ、いいリアクションをするじゃないかっ。最高だよ」
あまりの痛みに床に倒れ、ただ足掻く事しかできない。
「気を失わないのは褒めてあげるけどさ~、その出血量じゃ死んじゃうよ~。安らかに眠れっ、なんちゃって...ハハハッ、って笑いどころなんだから、お前も笑ってよ~」
駄目だ...意識が保てない、このままだと死ぬ...
朦朧とした意識の中、男の笑い声だけが聞こえてくる。
吸血鬼になって...病気を克服したのに...こんな所で死ぬのか...俺。




