三話【違う世界へ、そんな俺は吸血鬼】
あの後、俺は金髪の女の子に掴まり、空を飛んで例の吸血鬼世界まで連れてきてもらった。
こんな簡単に異世界に来れるもんなんだな...。
詳しい原理は教えてもらっていないが、ここは俺が居た世界とは違う世界らしく、どうやら空を飛んだ際に違う世界へと転移してきたみたいだ。
吸血鬼なら誰でも翼を生やし空を飛べるらしいのだが、吸血鬼になりたての俺は、まだ翼を生やす事が上手くできない。
すぐに翼を生やせるようになるらしく、焦らず徐々に慣れていけばいいという事だ。
吸血鬼世界に来てから少しすると、大きな街が見えてきた。
街を歩いている人達...いや、吸血鬼達は、見た目は普通の人間に見える。
しかし吸血鬼によっては翼を生やしたまま歩いている吸血鬼と、翼が生えていない吸血鬼が居る。
おそらく自分の意思で生やしたり、隠したりできるのだろう。
「なぁ、吸血鬼って見た目が結構人間っぽいんだな」
女の子に問いかけると、不機嫌な顔でこちらを見てきた。
何も怒らせることを言った覚えはないんだが...。
「そうですね。元々人間から吸血鬼になった人も多いです。なので、吸血鬼は人間じゃないみたいな言い方をされると、不快になる人もいるので気をつけて下さい」
それで不機嫌だったのか...納得。
俺は気にならないからいいけど、気にする人も居るなら気をつけたほうがいいな。それよりも、これだけ一緒に居るのに、この女の子の名前を聞いてないのはおかしいか。
呼ぶときに困るし、早めに聞いておこう。
「そう言えば、君の名前って何?」
「名前ですか? そう言えば名乗っていませんでしたね。私の名前は...ミツキです」
イメージよりも、案外普通の名前だった。
日本人には見えないけど、日本人らしい名前だな。
「名字は?」
「答える義理は無いので答えません。ミツキと呼んで下さい」
なんか引っ掛かる言い方だけど、答える気が無いならいいか。
言いたくないことを、無理に言わせても仕方ないしな。
「ミツキか、よろしく。俺の名前は日向朝日。好きに呼んでくれ」
「わかりました。では、朝日さんと呼ばせて頂きます」
さん付けか...わかってはいたけど、距離を感じる呼び方だった。
「ところで、今はどこに向かってるの?」
街についてから、かれこれ10分くらいは経過している。
吸血鬼の仕事を手伝ってほしいと言っていたから、それ関係の場所に向かっているとは思うんだけど。
「ギルドです」
「ギルド?」
「はい。吸血鬼達が、依頼された仕事を受ける為のギルドです。もうそろそろつきますよ」
ギルド。そこに仕事の依頼が送られてきて、俺達吸血鬼は依頼をこなしていくと良いって事か。
なるほど...一応、この吸血鬼世界はそうやって循環しているんだな。
「つきました。ここがギルドです」
何というか...外観は普通だ。
吸血鬼が集められたギルドと聞いたのでどんな雰囲気かと内心不安だったのだが、赤い屋根にレンガで造られたごく普通の建物だった。
勝手に悪魔の城みたいな建物を想像していたが、いらない心配だったようだ。
「何してるんですか。見てないで、入りますよ」
ぼーっと眺めていると、ミツキから注意されてしまった。
あんまり入りたくはないけど、仕方ないから入るか。
「あー!!新人さん!?」
ギルドに入ると、すぐに大きな声が聞こえてきた。
声の主は、俺より少し年上くらいの青いポニーテールの女性だった。
「そうですよ、楓さん。元光線過敏症の方です。名前は、日向朝日というらしいです」
「そなんだっ!よろしくねっ朝日君!」
「はっ、はい。よろしくお願いします。楓さん」
正直、こういう底抜けに明るい雰囲気の女性は少し苦手だ。
六年間も病院で生活してたから、どう接すればいいのかよくわからなく戸惑ってしまう。
勿論、悪いのは全面的に自分なんだけど、やはり慣れないものはどうしようもない。
「おーい!ジャック~!あんたも自己紹介しなよー!」
楓さんが呼びかけると、奥から目付きの悪い赤髪の男が出てきた。
楓さんと同じぐらいの年に見えるが、態度は真逆で、凄く気だるそうにしている。
「お前が新入りか。自己紹介とかめんどくせぇ...が、とりあえずこの俺、ジャック様を敬え。そうしたらちっとは認めてやるよ」
バシーンっ!と、楓さんが、ジャックさんの頭を勢いよく叩く。
「何すんだっ! 楓っ!」
「あんたはバカなの!? 新人に変な事言ってんじゃないよ!」
「あぁ? どこが変な事言ったっつーんだよ!」
楓さんとジャックさんは、俺達を忘れて、言い争いを始めてしまった。
ある意味、仲がいいのだろうか...。
突然の口喧嘩にも関わらず、どこか見慣れた光景のようだった。
「マスターの所へ行きましょう。ついて来てください」
「う、うん」
俺達は、喧嘩してる二人を置いていく事にした。
あの様子だと、まだまだ終わりそうにないしな。
「マスター。新人を連れてきました」
そこに居たのは、40歳くらいで黒い髪の男性だった。
厳格そうな容姿だが、どこか温かみを感じさせる様な...そんな印象の人だ。
「君が新人だね。僕は、ギルドマスターのディランだ」
「はいっ、俺は日向朝日と言います...えっと、ディランさん」
心を見透かしているかのような落ち着いた声に、俺は緊張して声が少し震えてしまった。
その様子がディランさんに伝わってしまったのか、気をつかわせてしまう。
「緊張しなくていいよ。名前で呼びづらいなら、気楽にマスターとでも呼んでくれ。皆もそう僕の事を呼ぶしね」
「わかりました。あの...ギルドにはこれしか人が居ないんでしょうか?」
ギルドと言うには、俺を含めて五人というのは少なすぎる。
この街には沢山の吸血鬼が居るので、もっと沢山の人が居るのかと思ってたんだけど...。
「いや、依頼に出かけてるメンバーも多いから僕達以外にもまだ何人か居るよ」
なんだ、そういう事だったのか。
そりゃあそうだよな。流石にこんなに少ないわけがないよな。
「それよりも挨拶ばかりで疲れただろう。今日はもう休んできなさい。明日また色々説明するからさ、それとミツキ」
「はい。なんでしょうか?」
「彼の住む家を、彼に教えてあげてくれ」
「了解です。マスター」
ちゃんと住む場所も用意してくれてるのか...よかった。
野宿くらいは覚悟してたから、とてもありがたい。
「朝日さん、先に部屋を出てて下さい。すぐに行きますから」
「うん。わかった」
俺はミツキに言われた通り、先に部屋を出て待つことにする。
何かマスターと話したいことがあるんだろう。
すぐ来るって言ってたし、まぁいいか。
「マスター...」
「わかってるよ、ミツキ。だけど...今はまだ早い。彼がどういう人なのかもわかってすらないからね、彼にはしかるべきタイミングで伝えるよ」
「了解です...マスター」
その後ミツキに連れられて来た家は、ちょっと古そうだけど、おおよそ普通のアパートのような家だった。案外吸血鬼世界の建物は普通なんだな...。
とりあえず今日は色々な出来事がありすぎて疲れた、早く寝たい。
「この部屋です。家具はベッドしかありませんが、家賃はマスターが払ってくれるので好きに使って下さい。では私は帰ります、また明日」
「うん。ありがとう。また明日」
部屋に入ってすぐにベッドに飛び込んだ。
固くて、若干寝心地は悪いが、そんな事を気にしないほどに俺は疲れていた。
目を瞑ると、俺はすぐに眠りについてしまった。




