二話【渇いた自分、潤った吸血鬼】
目が覚めると、いつも通り病室のベッドに居た。
自分の心情や気持ちによって、見る夢は変わると言うが...。
おそらく、日中に外に出たくて仕方ないという考えが、俺にあんな夢を見せたのだろう。
起きたばかりでまだ眠いが、体を伸ばしながら時計を見る。
今は朝六時、後一時間もすれば、看護師さんが昼食を持って来てくれる時間だ。
まだ時間もあるし、その前に着替えておくことにした。
シャツを脱ぎ上の服を着替えようとしていると、どこかで聞いたことがあるような声が聞こえてきた。
「人が同じ部屋に居るのに着替え始めるなんて、貴方には常識がないのでしょうか?」
「あー、ごめんごめん...って、えぇ!?」
誰か居たのか!! でも看護師さんはまだ来ないはず...。
よく見ると、夢に出てきた金髪の女の子が部屋の隅で体育座りしていた。
「い、いつから居たの?」
「貴方が倒れてから、ずっとここに居ましたけど」
今日見た夢は、夢じゃなかったみたいだ。
確か吸血鬼にするとかで、この子に急に噛みつかれて...意識を失ったんだよな。
もしかして本当に吸血鬼になれたのか?
「俺って、吸血鬼になれたの?」
俺の問いかけに対し女の子は、ふふんと不敵な笑みを浮かべ、窓の方へ歩いていく。
光線過敏症で入院している俺の病室は、カーテンを全て閉め太陽の光を遮断しているのだが、女の子は勢いよくカーテンを開けてしまった。
「熱っ!熱っ...あれっ? 熱くない」
熱くないどころか、六年ぶりの太陽の日射しは、どこか清々しいものだった。
感動してしまい涙がこぼれてしまいそうになるが、女の子に泣いてる所を見られたくないので、ぐっと涙をこらえる。
「はい。貴方は吸血鬼になったので、日光なんて痛くも痒くもないはずです」
視覚的にだけじゃない。気持ちまで明るくなっていく。
太陽の光に当たってるだけなのに、自分が普通の人間に戻れた様な気がした。
「何て言っていいかわからないけど...本当にありがとう」
吸血鬼なんて全く信じてなかったけど、光線過敏症が治った以上信用するしかないだろう。
本当に感謝の気持ちで胸が溢れそうだった。
「何故、お礼を言うのですか? 貴方にはこれから、吸血鬼の仕事に付き合ってもらうのですが...」
「え?」
吸血鬼の仕事? 俺はこの子と出会った時の事を思い出す。
吸血鬼になってとは言われているが、吸血鬼の仕事を手伝ってとは言われてない。
しかし、この子に助けられた事は事実だ。無下に断るわけにはいかない。
そもそも吸血鬼に仕事なんてあるのだろうか?
「え?じゃないですよ。早速ついてきて下さい。」
女の子は俺の腕を掴んで引っ張ろうとしている。
「ちょ、ちょっと待って! もうそろそろ看護師さんが来るから!」
いきなり患者が消えていたら、パニックになるはずだ。
この子を手伝うにしても、今すぐに居なくなるのはまずい。
まずは光線過敏症が治った事を医者に伝え、退院する事が先決だ。
「まずは退院してからじゃないと。俺が急に居なくなってたら皆大騒ぎになるだろ」
「大丈夫です。吸血鬼になった時点で、貴方に関わる人間全てから、貴方という人間の記憶は消えてますので問題ありません」
聞き覚えがない大事な事を、さらっと言われた。
俺に関わった人間から、俺に関する記憶が無くなっている?
「貴方という患者は居なかった。この病院の関係者は、自分達の情報ミスだったと思うでしょう」
それなら確かにそうかもしれない...けど、記憶が無くなる事は聞かされていなかった。
なんでそんな大事な事を教えてくれなかったんだろう。
女の子は悪びれる様子も無いので、悪意はなかったのかもしれない。
でも...その事を聞かずにはいられなかった。
「どうしてそんな大事な事を黙っていたんだ?」
「聞かれませんでしたので」
確かに聞いてはいない。聞いてはいないけど...。
そんな大事なことくらい、あらかじめ言ってくれよ。
多分その話を聞いても吸血鬼になる事を選んではいたけどさ...。
「質問はそれで終わりでしょうか?。では行きましょう」
さっきから行こう行こうって言ってるけど、何処に行くかも知らされていない。
どうやらこの子は人から聞かれない限り、何も教えてくれないみたいだ。
「行くってどこに?」
「ありとあらゆる吸血鬼が集まる世界、通称...吸血鬼世界です。」
吸血鬼が集まる世界、ヴァンパイアワールド。
...そのままだな。




